藤津亮太のアニメの門V 第3回「アニメ産業レポート2015」から読み解く今後のアニメ業界 | アニメ!アニメ!

藤津亮太のアニメの門V 第3回「アニメ産業レポート2015」から読み解く今後のアニメ業界

藤津亮太さんの連載「アニメの門V」第3回目は9月18日に開催された「アニメ産業レポート2015」から気になるポイントの紹介。毎月第1金曜日に更新。

連載 藤津亮太のアニメの門V
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日本動画協会がまとめる報告書「アニメ産業レポート2015」が今年も発表された。今年のトピックのひとつは、これまでアニメージュ誌上に掲載されてきたリスト制作委員会による「年間パーフェクト・データ」が別冊附録としてついたことだ。作品データの集積は、非常な困難が伴う一方で、産業を概観するときの一番基本的資料となる。アニメ産業の現状を見通す資料である「アニメ産業レポート」との連携は、そういう意味で必然であるし、非常に喜ばしい展開だ。
今回のアニメの門Vでは、今回のレポートの中から気になるポイントを紹介したい。

まず最初のポイントは、2014年に制作されたTVアニメのタイトル数だ。TVアニメのタイトル数は2006年に279タイトル(前年からの継続84、新作195)で過去最高を記録している。その後、一旦数を減らしたものの最近は再び上昇傾向にあり、2013年には271タイトル(継続78、新作195)と過去2番目の数字となった。だから2014年のタイトル数が2006年を超えるかどうかがひとつの注目点だった。

ふたを開けてみると、2014年のタイトル数は322タイトル(継続90、新作232)。過去最高を更新した。ただこの数字は、欄外に「14年より『年間パーフェクト・データ』にてタイトル数調査を精査」とあり、レポート中にも「本年よりEテレで放送する短編作品をカウントした」とある通り、単純に13年と比較できるものではない。このあたり注目点だっただけに、過去のデータと比較できる数字も掲載しておいてほしかった。
とはいえ、右肩上がりの傾向は変わらず、2014年が過去最高のタイトル数となったと考えてよさそうだ。ちなみに制作分数の推移を見ると、2006年が136,407分で未だトップで、2014年は119,962分と過去3番目の数字に留まっている。レポートにある通りこれは、5分アニメなどが増えているからで、2006年とは商業アニメの消費が変化していることを示している。

次のポイントは、この制作本数を支えているビジネス的な基盤がどこにあるのか、という点だ。
アニメビデオパッケージの売り上げは1021億円。2008年ごろから1000億円強の水準で推移しているが、2013年の1153億円から130億円減らしてついに2014年は1000億ギリギリまで減った。このままいけば2015年には1000億円を割り込んでもおかしくない。
パッケージビジネスがこの先、縮小するのは“先行指標”の音楽をみても明らかだが、問題はその穴を何が埋めるか、ということだ。

一番期待がかかる配信は2013年の340億円から、408億円と前年度比120%の数字となった。1000億円を売り上げるパッケージビジネスの約4割という数字は、まだまだ少ないが、伸びしろが一番あるのは間違いない。
レポートではスマホの普及による2012年からの配信市場増大傾向と、HuluやNetflixといった月額定額見放題サービスの本格的登場をあげて2015年が「動画配信元年」となるのではないか、と書いている。
仮に年20%の伸びが維持されれば、数年内にビデオグラムと同じだけの売り上げに達することになる。おそらくこのペースならパッケージから配信への転換はスムーズにいくと思われる。だが、これがさらにプラス数年かかってしまうと、屋台骨不在の状況が生まれてしまうことも考えられる。
そして、この配信と並ぶ程度の存在感を持つのが遊技機(パチンコ等)関連だ。

商業アニメ制作会社の売り上げを合計した狭義のアニメ市場において遊興の項目(パチンコ・パチスロ映像収入・分配)は2013年が116億円、2014年が142億円で前年比22.41%の伸びをしめしている。遊興の項目ができた2008年が31億円だったことからすると、4倍以上に増えている。
狭義のアニメ市場全体の売り上げは1847億。そのうちTVが617億円、映画が226億円、配信が161億円。比率だけ見ると(配信もともに)1割に満たないが、これはおそらくキッズアニメや映画ビジネス(ここでは『コナン』や『ドラえもん』の存在感が大きいはず)も含んでいるから相対的に小さく見えるだけであって、「男性向けの深夜アニメ」などある特定のセグメントに限ればその存在はずっと大きいはず。

そして今回のレポートで印象的だったのが、海外の情勢について記した「海外動向」の項目。ここでは制作会社へのアンケートをもとに、海外との契約数をもとに考察している。
これによると、アジア・欧州・北米・オセアニアのトップ4地域の寡占が進んでいる。その一方で東欧・中南米の減少が大きいという。
また日本アニメ業界の海外売り上げに関する考察では、ドルベースで計算すると2012年からほぼ横ばい(1億6000万ドル前後)。世界の映像市場全体が成長していることを考えると、「世界市場におけるアニメの地位は相対では大きく後退しているといっても過言ではない」と同レポートは強い調子で書いている。

この2つを組み合わせて考えると、日本アニメのポジションが世界的に「コア層向け」として成熟しつつある(ニッチ化が進む)ということではないだろうか。以下推察を交えながら当欄なりに考えてみる。
これまでアニメが供給されてきた地域では、アニメファンも一定数育ち、時差なし配信で見られる環境も整うようになってきた。市場が成熟したのだ。こうなると、よりコアな作品が望まれるようになる。これがこれまでアニメを多く消費していた地域が、よりアニメを消費するようになっている理由ではないか。さまざまなコンベンションの参加人数が増加傾向にあることもこれと関連しているように思われる。

一方で、東欧・中南米といったアニメファンが少ない地域が減っているのは、おそらくマニア作品というより「手頃な値段の子供番組」の領域で日本アニメが買われなかったからではないか。具体的なデータがないので断言は難しいが、「世界的映像市場の増加」と「3DCGが世界市場の中心になっている」ということをあわせると、3DCGによるカートゥーンなどに市場を奪われているので可能性が想定できる。
既にファンがいる地域の市場がにぎわうのはよいことだ。だが、そうした欧米のアニメファンは、'60年代から'70年代にかけて「手頃な値段の子供番組」として買われたアニメをルーツにすることで生まれた。それ以外の今後の発展があり得る新地域で、今日本のアニメのプレゼンスが下がるということは、10年後、20年後にそうした地域にはアニメファンがいないということにも繋がるのではないだろうか。

そんな将来像も考えさせられたレポートだった。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ
ゼロ年代アニメ時評』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

《藤津亮太》

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