競争が激化するアニメ海外配信ビジネスの未来 シンポジウムレポート | アニメ!アニメ!

競争が激化するアニメ海外配信ビジネスの未来 シンポジウムレポート

3月21日、AnimeJapan 2015のビジネスセミナー会場では「アニメ海外配信ビジネスの現在と未来」と題されたパネルディスカッションが開催された。

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競争が激化するアニメ海外配信ビジネスの未来 シンポジウムレポート
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3月21日、AnimeJapan 2015のビジネスセミナー会場では「アニメ海外配信ビジネスの現在と未来」と題されたパネルディスカッションが開催された。
本セッションは昨年も開催されたアニメの海外配信事情をめぐるもの。今回も世界各国の主要なアニメ配信会社を招聘し、今後の配信事業について議論を行った。

司会は本「アニメ!アニメ!」編集長の数土直志氏がつとめ、3名の配信事業者が登壇。日本でも浸透しつつあるアメリカのHuluからはRodrigo Mazon氏が登壇。映画やドラマが中心のサービスだが、日本のアニメは戦略的な優先事項であるそうだ。フランスからは昨年に引き続きWakanimのOlivier Cervantes氏が登壇。さらに中国からはYouku TudouのバイスプレジデントLu Fanxi氏が登壇。中国でも日本のアニメは人気が高いそうだ。加えて海外向け日本アニメ配信事業DAISUKIを運営する株式会社アニメコンソーシアムジャパンからは代表取締役社長の鵜之澤伸氏が登壇。

まずは各国の配信事業の状況について議論された。Huluが展開する北米地域は非常に競争が激化。Rodrigo氏によれば、そういった中でHuluの戦略はカジュアルからハードコアまで幅広いコンテンツのラインナップを揃えることにあるという。中でも日本のアニメに対する関心はここ数年で高まっているという。具体的な数字は出せない2014年は記録的な数字をあげた年であり、今後も最も重要なコンテンツのひとつとして日本のアニメがあるそうだ。

続いてYouku TudouのLu氏に中国の事情をうかがった。中国にとって日本は非常に近い国であり、アニメは当然人気がある。Tudouは毎日、9億人という莫大な視聴者を抱え、その1割がアニメを視聴。そしてその3分の1が日本のアニメを見ているそうだ。また中国では地上波テレビは政府の管理下にあるため、海外コンテンツは基本的にインターネットを通して見られている。DVDなどのパッケージもふるわないため、結果的にアニメビジネスはインターネット中心で回っているようだ。ビジネスモデルは無料視聴による広告収入を基本としながら、ペイパービューやマーチャンダイズ、さらに映画化展開など多様な展開をしている。特にアニメ放映時よりも人気が出た後の収益を重視しており、映画化、グッズ販売、原作の販売と放映後の収益の方が大きいそうだ。

司会の数土氏からは今年4月からの政府のインターネット検閲について質問が投げかけられた。Lu氏によると、テレビアニメに対する審査は昔から存在していたそうだ。アニメは子供が見るものと中国政府は考えているため、それにあった審査は必要とのこと。この審査が今後インターネットにまで広がるようだが、審査は基本的にワンシーズン全体で行うため、放映までの時間がかかるのが懸念材料。さらに中国には国内コンテンツの割り当て制度があり、輸入されるアニメーションの比率が30%まで抑えられている。しかしながら、Lu氏によれば量的には十分大きな市場といえる

次にWakanimのOlivier氏がフランスと欧州の事情を説明した。マーケットは順調に拡大しており、競争も激化している。現在では日本のアニメが放映されるとすぐにフランス語版が放映される体制が出来上がっているそうだ。そのような中、Wakanimは量よりも質を重視して、各シーズンに5から7タイトルの買い付けを行っているそうだ。買い付けではミニマムギャランティ制を採用しており、最初にいくらかの保証額を支払い、その後の視聴によってライセンス料が上乗せされる。

欧州全体でみるとフランス市場はすでに飽和しており、シーズンごとに24から30本放映されている。他の各国はフランスに引っ張られる形で放映され、Wakanimとしては他の国への展開も予定しているようだ。さらにデジタルストリーミングは最初のウィンドウであり、今後はDVD、Blu-rayといった他のウィンドウへの展開を目論んでいるそうだ。

最後に鵜之澤氏が日本からの海外展開について話した。鵜之澤氏は先行する配信サービスに比べるとDAISUKIは遅いスタートであるが、他のサービスは競業という以前に日本のアニメ産業のパートナーだと考えていると述べた。そしてプラットフォーム事業は1社が独占するよりも、健全な競争が望ましく、DAISUKIはその中では純国産のプラットフォームとして成長を目指すそうだ。さらにバンダイナムコゲームズのノウハウや各国拠点を活かし、アニメの世界の同時発信を狙っていく。

次に話題はそれぞれのプラットフォームのユーザー特性に移った。Huluは4、5年前まではPCからの視聴が多かったが、現在はモバイルの移行。今後もゲームコンソールといったPC以外の端末の影響が大きいと見ている。ユーザーの男女差などはなく、幅広い人に利用されているサービスのようだ。Wakanimは今でもPC環境での視聴が大半。カジュアルなユーザーの多くもPCを利用している。毎月の視聴者数200万程度あり、男女比で男性のほうが多い。しかし、女性も徐々に増えているそうだ。Youku TudouはPCが中心だが、最近は7割がスマートデバイスから視聴されている。人気のコンテンツの一番はアニメであり、次がドラマ。65%が男性ユーザーであり、傾向としては都市圏に在住している収入が多い若者だそうだ。

最後に各登壇者の今後の展望が語られ、セッションは終了した。HuluのRodrigo氏によればストリーミングビジネスは順調に成長しており、今後も幅広いコンテンツを獲得するという。WakanimのOlivier氏は技術面での改善を今後予定しており、7月に大規模な発表を予定しているという。Youku TudouのLu氏はすでに中国にふさわしい日本のアニメはすべて買い尽くしたそうだが、アニメの潜在的ユーザーはまだまだいるので、今後はユーザー層の拡大を目指すそうだ。ビジネスモデルとしてはオンラインとオフラインの両方を想定しており、特にオフラインの収益はオンラインの1万倍以上と考えている。DAISUKIの鵜之澤氏はスマートフォン以降のゲームビジネスの変化と同じく、アニメビジネスも今後は変化していく必要があると訴えた。

全体のセッションは時間が短かったものの、各国の配信事業者からの貴重な意見が聞けた。個人的にはYouku TudouのLu氏が語るオフラインビジネスについてもう少し詳しく聞かせてもらいたい。また昨今の北米ドラマなどは配信事業者がコンテンツのパブリッシャーとなるケースも増えている。そのため、各アニメ配信事業者は今後、アニメ製作事業にも乗り出す可能性が考えられる。今後はそういった一歩踏み出した議論を期待したい。

[/今井晋@アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]

《アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz》

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