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マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第4回「カトリック出版とマンガ出版の関係」

短期集中連載(毎日曜・水曜更新)、全8回予定。■ 豊永真美 [昭和女子大現代ビジネス研究所研究員] 第3章 シャルリ・エブドから生まれた奇才 ジャック・グレナはなぜマンガ出版に乗り出したのか。

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当時、バンド・デシネは出版界の中で安定的な市場であり、メディア・パルティシパシオンの経営もダルゴーの買収により盤石となると考えられていた。しかし、ここで、政教分離、ライシテの問題が出てくる。
バンド・デシネの作家の中には、カトリック色の強いダルゴーで作品を出し続けることを渋る作家が出てきたのだ。日本でも知られるバンド・デシネの巨匠エンキ・ビラルも、ダルゴーがメディア・パルティシパシオンに買収されたことにより、ダルゴーを離れた作家の1人だ。バンド・デシネ作家は、左翼的な考えの人も多く、カトリックは保守党と近いことも嫌がられた要因だ。独立したバンド・デシネ作家としての矜持を保つためには、宗教色の強い出版社とは距離を置くことが必要と考えた作家もいたということである。

このため、バンド・デシネ以外の分野を探すことが急務となった。確実に収益をあげられる分野として白羽の矢がたったのが、「マンガ」である。メディア・パルティシパシオンが最初に出版したのは、日本のマンガではなく、韓国の「マンワ」である。1996年、マンガ出版のために新しく「Kana」というレーベルをつくり、最初に出版したのはHyun Se Lee作の「Angel Dick」と「Armagedon」の2作品であった。最初に韓国のマンワを選んだのは、おそらくは著作権の取得が容易だったこと、そして日本のマンガと比べ割安感もあったことと推測される。なお、マンガ出版以前にの1991年に創業者のレミー・モンターニュは亡くなっており、マンガを出版したときは息子のヴァンサンの代となっていた。
ところが、韓国の作品は売れなかった。マンガ的な体裁を整えていれば、「AKIRA」のような耳目を集める作品になるわけではないということを、ヴァンサン・モンターニュもKanaの担当者も理解した。次の翻訳すべき作品は日本のヒット作と考えた。幸い、「聖闘士星矢」の翻訳権を得ることができた。「聖闘士星矢」はフランスの放送局でアニメが放送されており、既に馴染みのあるタイトルだった。

「聖闘士星矢」の成功で、日本のマンガの市場性に気付いたメディア・パルティシパシオンは日本のマンガの出版を続けることとする。メディア・パルティシパシオンはカトリック系の出版社だったこともあり、基本的には少年ジャンプに連載された作品を中心に、「健全なラインナップ」を心がけた。このためもあり、Kanaのラインナップはスーパーマーケットの書籍売り場にもおかれやすかったという。
フランスでは、多くの欧米諸国と同様、子供が自らお小遣いをもって、ものを買うという習慣はあまりない(せいぜい都市部でパン屋でおやつを買う程度である)。また、フランスでは、日常の買い物をスーパーマーケット1か所で済ませることが多い。共稼ぎが多いので、土曜日に家族で大型スーパーに出かけ、1週間分の買い物をするのがふつうだ。郊外の大型スーパーには書籍売り場もあるが、スーパーの書籍売り場は専門書店と比較して品数が少ない。スーパーの棚においてもらうことは、ベストセラーの必須要件であり、Kanaのブランドはスーパーにおけるものであったのだ。

Kanaが出版し、大ヒットしたのが「NARUTO」だ。「NARUTO」は最盛期の最新刊の初版が20万部を超える大ベストセラーとなった(フランスの人口は日本の半分である)。注目すべきは、「NARUTO」はテレビアニメの放送が始まる前にマンガからヒットしたことだ。
それまで、フランスでヒットしていたマンガは「ドラゴンボール」にしろ、「聖闘士星矢」にしろ、まずテレビアニメが放送され、その人気の余波でマンガが売れるというのが定石だったが、「NARUTO」は日本と同様、マンガが売れて、テレビアニメの放送が促されるという流れを作った。
「NARUT」はフランスの地上波では、暴力的と判断されたシーンをカットされていたため、ポケモンのような人気を博することはできなかったが、ケーブルテレビの新興チャンネルの「Game One」でほぼ日本と同じバージョンのものが放送されるようになった。「Game One」は本来ゲームの紹介やゲームの対戦を放送するチャンネルであったが、NARUTOチャンネルと揶揄されるくらいNARUTOで知名度をあげた。
その後も、KANAは「Death Note」、「黒執事」などのベストセラーマンガの翻訳を行い、マンガ出版社として先行するグレナと肩を並べる存在となっていく。

[/アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz より転載記事]
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