本作は『アップルシード』の初めの物語。主人公デュナンとブリアレオスが理想都市オリュンポスへと至る以前の出来事が描かれている。また写実的な表現を引出すフォトリアルのCG表現でも注目される作品だ。
アニメ!アニメ!ではこのたび、『アップルシード アルファ』の公開にあわせて荒牧伸志監督と水島精二監督の対談を行った。水島精二監督は2014年11月に『楽園追放 -Expelled from Paradise-』を全国劇場上映させたばかり。骨太なSFストーリーに、セルアニメの伝統を取り入れたセルルックの3DCGが話題を呼んだ。
フォトリアルCGとセルルックCG、対極とも見える映像の旗手である両監督に、お互いの作品、そしてCGアニメの現在と未来について語っていただいた。
[聞き手=数土直志、取材・構成=細川洋平]
『アップルシード アルファ』
2015年1月17日、全国公開
/http://appleseedalpha.jp/
■ 『アップルシード アルファ』のフォトリアリズムとは?
―今CGアニメがすごく注目されています。そのなかで『アップルシード アルファ』と『楽園追放』はフォトリアルとセルルックという両極端な表現をとっています。この二作品にはCGの現在の最先端が現れているのかなと、今回、おふたかたにお話を伺いたいと思いました。
まずは水島監督に伺いたいのですが、『アップルシード アルファ』はどうご覧になりましたか。
水島精二監督(以下、水島)
日本でこれをやる意味はすごく大きいですよね。フォトリアルをここまで突き詰めているのは他にはないですから。モーションキャプチャー(*)で役者さんの動きを取り込み、自然に見せることで実写に肉薄している。3Dのその先に確実に向かっています。
同時に予算には限りはありますから、「何でもできるわけではない」という点で工夫しています。『楽園追放』で自分も経験したので荒牧さんも同じ苦労しているんだろうなと思いました。僕よりもそうしたことはずっと長くやってこられていますから。
*モーションキャプチャー 実際の役者の演技をデータ化しCG上に取り込む技術
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―『アップルシード アルファ』の企画はどう立ち上がったのでしょうか。
荒牧伸志監督(以下、荒牧)
『スターシップ・トゥルーパーズ:インベイジョン』(以下、『STi』)(2012年公開)をソニーピクチャーズと作った後、プロデューサーから次は『アップルシード』をどうかと話をいただいたんです。スタジオのSOLA DIGITAL ARTS設立後の間もない頃(2010年設立)ですので、スキルなどを考えてその延長線上でやる方がいいと考えました。
うまく『アップルシード』の世界にこれを活かせないかと考えて、主人公2人にフォーカスする物語にしました。今回大きな街は出てこないんですが、そうすることでカロリーも抑えられ、ストーリーも散漫にならずに絞り込める。突き詰めた表現で“最初の話”をやるためにあの舞台になりました。
水島
オリュンポスは外観も出てこないので、ビジュアルを絞り込んでいるのは見ていて感じたんですよ。潔いというか男らしいというか。僕もいかに集中して世界観を突き詰められるかは意識しますからよくわかります。
映画表現としては埃っぽさをすごく感じて、映像のクオリティが本当に高い。しかも実写に近い表現は、みんなが日常的に見られるモノだから、実はハードルが一番高い。そこに挑んでいるのがすごいと思いました。私は『楽園追放』では「セルアニメ」という馴染みのある表現に近づけることを突き詰めていましたので。
荒牧
それはそれで大変なんですよね。「手描き」という見慣れた世界がありますので。
水島
そうそう、だから同じように挑んでいるなと感じました。
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荒牧
『楽園追放』は街は出てくるし、人がたくさんいる。僕も途中で街に行きたいなって思ったんですけどやっぱり厳しかった。
水島
予算の問題は大きいですよね。『アップルシード アルファ』は背景まで全部3Dだからコストかかりますよね。僕らは背景はほぼ手描きでやっているので、記号化されている作画アニメの方法論でできる。フォトリアルだとそうしたやりかたはできないので、僕らよりもハードルが全然高いです。
―『アップルシード アルファ』は絵的に、先ほどあった『STi』が近かったと思います。反面『APPLESEED』や『EX MACHINA』(以下、『エクスマキナ』)からは相当絵が変わっているように思えます。
荒牧
意識して変化させたつもりはないんです。『STi』の後に『キャプテンハーロック』もやっていますし自分では違和感がないんですよ。だから「『エクスマキナ』からずいぶん変わりましたね」と言われると逆に「そうなのか……!」と気づかされます。
水島
僕も『エクスマキナ』は絵コンテで手伝わせていただいたので、変わったなと思いました。最初の『APPLESEED』から『エクスマキナ』になったときは“萌えの記号”を残しつつどれだけリアルにするかにチャレンジされている感じがありました。それが今ではすごくリアルになっていますから。
もちろん実写では表現できない造形もたくさんあるし、サイボーグに比べて登場する「人間」はかなり絞り込んである。サイボーグたちの動かし方や見せ方はキャラクター性が出ていておもしろいなって思いました。なかでも全身サイボーグの双角は3Dだからできる細かさがあって、これは作画でやると相当うまくないとできない。3Dで立体を作った上でちゃんと機能させていて、荒牧さんらしいなと思いました。
荒牧
それがやりたくてやってますんで(笑)。
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水島
キャラクターを捨てて全部メカでやればいいんですよ(笑)。その中でお客さんが喜ぶ何かを獲得できたらすごいじゃないですか。そういう意味で萌えの記号を排除したりと、僕らよりも全然チャレンジをしているように見えます。
荒牧
最初はアメリカのプロデューサーからも「もっとアニメっぽくした方がいいんじゃないの?」ってずいぶん言われたんです。でも今回はこれだと言い切りました。
デュナンもかわいい女の子にすることはできるんです。でもそれよりこういう状況の中で何ヶ月も生きている女の子にしようと。
水島
1人だけ生身の女の子がサイボーグと戦っている(笑)。
荒牧
周りをサイボーグにしてよかったなと思ったんですよ。デュナンだけ生身だから逆においしく見える。