TVアニメ『ベルサイユのばら』演出における「光と影」-前編- “激情あふれ舞台的な長浜演出”:氷川竜介
9月24日にBlu-ray BOXが発売されたばかりのアニメ『ベルサイユのばら』。いまなお多くの人を捉える本作の魅力をアニメ評論家の氷川竜介さんが、ふたりの演出家、長浜忠夫と出崎統の演出から紐解く。
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■ 1970年代と1980年代の分水嶺
池田理代子原作の『ベルサイユのばら』(通称『ベルばら』)は、日本漫画史上に輝く作品である。フランス革命という現実の史実に、王妃マリー・アントワネットを守る男装の麗人・近衛連隊長オスカルのロマンチックな人生を絡ませた虚実のたくみなバランスで大ヒット。1972年から1973年にかけて続いた連載が終了した直後の翌1974年には宝塚歌劇の題材にとりあげられ、以来40年ものロングランとなる。
しかしTVアニメ化は同時期の『エースをねらえ!』(連載・アニメともに1973年)に比して遅く、1979年10月スタートである。同年3月に公開された、フランスのベルサイユ宮殿でロケを行った実写映画『ベルサイユのばら』の関連企画でもあった。それは『機動戦士ガンダム』、劇場版『銀河鉄道999』、劇場版『エースをねらえ!』、『ルパン三世 カリオストロの城』などなどと同じ年。TVアニメ黎明期からキャリアを始めた作り手たちが脂ののったベテランとなり、児童から青年へと成長した観客に向けて渾身の力で作品を叩きつけるように送り出していった、アニメ史上特筆すべき百花繚乱の時期にあたる。
その中でも本作は、2人の総監督が担当するという点で異色作に位置づけられる。シリーズ前半(第12話まで)は『巨人の星』の長浜忠夫監督、後半(第19話から第40話まで)は『あしたのジョー』の出崎統監督(チーフディレクターの肩書)である。そんな作品がちょうど1970年代と1980年代の「アニメのあり方」の境界線に現れたのは、実に象徴的でもある。結果論とはいえ、監督交代が作品パワーを高めるように作用したのが実に興味深いところだ。
オスカルたち登場人物は、クライマックスの「フランス革命」に向けて絡みあい、人間関係はもつれ、幾多の事件を経て成長していく。精神的にも大きく変わらざるを得ない人びとの「世界観の変化」というまさに「革命」へ向けて歩み続ける姿が、心情と自然にシンクロしてビジュアル化されている。こうした前半後半の演出の差に応えているのが、『巨人の星』『あしたのジョー』両作に参加していたアニメーター荒木伸吾という事実も意義深い(姫野美智と共同でキャラクターデザイン・作画監督を担当)。
「アニメ作品」とは、さまざまな要素を吸収してひとつに結晶化するもの。それを考えたとき、実に研究のしがいのある奥深さのあるシリーズなのである。
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(C)池田理代子プロダクション・TMS
《氷川竜介》
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