藤津亮太の恋するアニメ 第16回 「水平の綱引き」の行方について(後編) 「惡の華」 2ページ目 | アニメ!アニメ!

藤津亮太の恋するアニメ 第16回 「水平の綱引き」の行方について(後編) 「惡の華」

藤津亮太さんのアニメと恋を語るコラム第16回は、『惡の華』の後編。「佐伯さんと仲村さんどっちが好き?」に下された結論は?

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それにしても、Nは“あのこと”をわかって『惡の華』と『俺たちに明日はない』が似ている、という話を出したのだろうか。それとも忘れてる?
「あのさ」

僕はNに切り出した。
「『俺たちに明日はない』で、クライドがEDだったっていうの覚えてる?」
「え? どういうこと?」
Nは、びっくりして聞き返してきた。
「私、見たの中学生のころだから、全然覚えてない……」
やれやれ。偶然か。

「史実とは異なるようなんだけれど、劇中ではクライドがEDっていう設定なんだよね。で、ボニーから愛されるんだけれど、その愛情を拒絶し続けて、ある時、体を求められた時はそれを隠すために女嫌いを装うくだりがあるんだよ」
「ああ、なんかいわれるとあったような……」
「つまり、二人が繰り広げた強盗というのは、性的に結ばれないことの昇華。二人にとっては性抜きの愛の行為だったってこと。……で、僕が驚いているのは、僕がさっきNに言った『春日と仲村は二人の間柄が性的にならないように振る舞っているみたいだ』という話と、ここで『俺たちに明日はない』がつながったってこと」
「ああ、そうね! “向こう側”に行きたいだけじゃなくて、性を避けることで生まれるねじれたエネルギーが事件へとつながるって考えると、似てるところがあるわね」
そして、ひらめいたような顔で付け加えた。

「そういえば!、第七回で教室をめちゃくちゃにした後、第八回の朝の街を二人で歩くシーンって、すごく“事後”って感じしてたものね。……この似てる感じ、無意識に気付いてたのかなぁ」
無意識というのは便利な言葉だなぁと思いつつ、僕は合いの手を入れた。
「『俺たちに明日はない』も、自動車で移動する水平移動の物語だしね。そう考えると、案外その精神は近いかも知れない」

そして僕は、改めて一番最初のNの質問を思い出していた。
「佐伯さんと仲村さんどっちが好き?」
もし『俺たちに明日はない』だったら、佐伯さんはどの立ち位置だろうか。
クライドの兄の嫁――確かボニーと仲が悪かった――彼女あたりだろうか。あるいは、“向こう側”なんて考えもしない、モブキャラクターか……。

Nはいたずらっぽく笑いながら、思案顔をしている僕を見て言った。
「ほらほら。仲村さんのほうがおもしろいでしょ? 観念して仲村派に入っちゃいなさいよ~!」
「でも、仲村派は“向こう側”大好きな厨二病でもあるからなぁ。30過ぎたらなかなかそこには戻れないよ。30過ぎに浸みるのは、やっぱり佐伯さんだよ」
僕は、最後に一言だけささやかな抵抗した。 
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