■ 机を作るのに一番大事なことは「机を作る前」にある
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「動画机をつくるプロセスで一番大事なところはどこですか?」
動画机がアニメーターにとって「アイデアひらめき装置」だとすれば、動画机をつくる人にとっては、何が一番大切なのだろうか。そう思ったので、聞いてみた。
机つくりのプロセスを大きく分ければ、設計デザイン、制作、設置である。どれも三起社にとっては大事な工程だ。設計デザインでは、決まった大きさの木材からどのようにパーツを切るかが重要であり、自ら搬入し、設置したあとも、フィードバックは欠かせない。
実際の制作工程では、木材、プラスチックや鉄材パーツそれぞれに目利きがいるという。誤差が最小になるように、材質の異なるものを組み合わせるためには、試行錯誤の連続だ。どれもそれぞれ大事なプロセスだけど、と前置きをして石井さんは続ける。「一番は、なんといっても机を作る前ですね」と。
「モノをつくるときには、全ての土台となる最初のプロセスに最も神経をつかいます。でも、それって、アニメつくりと同じですよね」
丁寧なモノつくりと、いい作品つくり。どちらもコンセプトが大事だと言えるのは、かつて撮影スタッフだったからだけではない。石井さんのまなざしからは、アニメ制作とアニメをつくるプロたちへの深い愛情が感じられる。
その石井さんが、アニメつくりも動画机も大事なのはコンセプト・デザインだ、と言う。三起社の動画机がただの机ではないのは、毎回、コンセプトを真剣に考え抜いているからこそであり、時代とともに進化しつづけてきた秘密はここにあるのだ。
動画机・三起社編 第4回へ続く
■ 数井浩子 (かずい・ひろこ)
アニメーター・演出。アニメ歴30年。短大時代から仕事を始め,『忍たま乱太郎』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ、200作品以上のアニメのデザイン・作画・演出・脚本に携わる。自らデザインしたアニメキャラは、“子どもにも大人にもウケる萌えキャラ”と評判になりラッピングバスとして渋谷や練馬を運行。また、長年アニメを現場で制作するかたわら、42歳から認知心理学を東大大学院にて研究しつつ、文化庁若手アニメーター育成プロジェクト「アニメミライ」においては評価・選定委員として現場の後進のために活動中。教育学修士。