を支えるメーカー魂―
三起社の工場長石井さんを訪ねて(2)
■ 数井浩子(アニメーター・演出)
「うちはフィルムも保管してますよ。アニメーション制作総合用品メーカーだからね」
三起社は、40年間アニメーション制作用品を扱ってきたメーカーである。設立創生期には、それこそ鉛筆と消しゴム以外はなんでも取り扱っていたという。撮影台、編集機、動画机、大判机、彩色机、トレス台、動画用紙、シート、セル、タップ、タップ穴を開けるアニメ専用の穿孔機……。
「作り手が使いやすいものを自分たちで創る」という三起社のメーカー魂は日本のアニメを長年支えられてきたのである。
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■ 「一台一台、自分たちで配達し、組み立て、現場を見る」というスタイル
長年変わらない三起社独自のスタイルがある。完成した動画机を、自分たちで直接スタジオに配達して、その場で組み立て、設置する。トレス台のガラスが特殊ガラスなので配送業者が見つからないという事情があるとはいえ、ガラスも机も自分たちで運ぶスタイルを、三起社は40年間ずっと続けている。
私も10年前に動画机を買ったことがある。もちろん三起社の人は自宅まで配達してくれた。設置し終えたあとに、他の人の面白い使い方の話などしてくれた。「パソコン用に自分で穴をあけちゃう人がいるんですよ」。その後、三起社の机には左右に丸い穴が開いていた。
工場長石井さんが机を作るときにいつも考えることは、ひとつ。「どうすればもっと使いやすくなるのか?」であり、答えは現場にあると確信している。だからこそ、40年もの間、動画机をスタジオまで配達し、組み立て、設置し、現場で使っている本人たちと直接話をし続けてきたのだろう。
「このあいだはテレコムに行きました。今日も、エイケンに行ってますよ」
「テレコム」は『ルパン三世』『名探偵コナン』を制作している東京都中野区のアニメスタジオである。また、「エイケン」は長寿アニメ番組『サザエさん』をつくっている荒川区にある制作会社である。いつも通り、出来上がった机は神奈川県の川崎工場から出発する。スタジオがどこにあっても三起社は自分たちで運び、組み立て、設置する。
工場長の石井さん曰く、「一番大事なのは、設置したあとだ」。アニメーターがどのように机を使っているのかをしっかりと観察することが重要なのだという。