映画『どこよりも遠い場所にいる君へ』が、2026年10月9日より全国公開される。本作は、ある事情から離島の高校へと転校してきた月ヶ瀬和希と、そこで出会った少女・秋鹿七緒を中心に描かれる青春ファンタジー。美しい自然に囲まれた島を舞台に、少年少女たちの瑞々しい日常と、時を超えた切ない物語が紡がれていく。
今回、メガホンを取った和田純一監督と、キャラクターデザイン・総作画監督を務めたへちまにインタビュー。原作小説を映像化するうえで大切にしたことや、舞台のモデルとなる隠岐の島を実際に訪れて作り上げた作品世界、和希と七緒のキャラクターデザイン、さらに石橋陽彩、永瀬アンナらキャストの声が加わったことで生まれた変化など、映画制作の舞台裏を聞いた。

<プロフィール>
【和田純一】
監督、演出家。主な作品は、『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? 』監督、『サクガン』監督・シリーズ構成、『HIGH CARD』監督など。
【へちま】
アニメーター。大学在学中からアニメーション制作を始め、2016年からスタジオコロリドで作画監督などを務める。ライトノベルの挿絵、ソーシャルゲーム、VTuberなどのキャラクターイラストも手掛ける。『学園アイドルマスター』キャラクターデザイン(共同原案)、『超かぐや姫!』キャラクターデザイン、総作画監督など。
[取材・文=米田果織]
■隠岐の島から生まれた世界とキャラクター「ここだったら“小説の出来事”が本当に起こりそう」

――制作にあたって、お2人の間で作品のビジュアルやキャラクターについて、事前にどのようなお話をされたのでしょうか?
和田:この作品で大事にしたもののひとつが、舞台となる“島”そのものです。制作に入るにあたって、へちまさんをはじめ、美術や音響などのスタッフと一緒に実際にモデルの島を訪れました。そこでイメージを膨らませながら、“田舎らしさ”や、キャラクターからもどこか“島らしさ”が感じられるようにしたい、ということをお伝えしました。ただ、へちまさんはご自身の絵をしっかり持っている方なので、「必ずこうしてほしい」と細かく指定するような発注はしなかったと思います。
へちま:私はキャラクターをメインに描いているので、背景美術そのものに携わっているわけではないのですが、それでも一緒に島を回ったことはすごく重要だったと思います。実際にその場所へ行かなければわからない空気感みたいなものがありますし、それをスタッフの皆さんと共有できたような気がします。
――実際に島を訪れてみて、どのようなものを受け取ったのでしょうか。
和田:もちろん海や緑といった自然がとても美しい場所なのですが、それだけではなく、実際にそこで「人が暮らしている」んですよね。いわゆる田舎らしい、人の生活を感じられる一方で、どこか“神様がいる”ような圧倒的な雰囲気もある。その日常的な空気と、大自然の中にある神秘的な空気の両方が共存しているのが、取材で訪れた隠岐の島でした。実際にその場所に立ってみると、「小説に描かれている出来事も、ここだったら本当に起こりそうだな」と思わせてくれるような雰囲気がありました。
――原作は小説ですが、それをアニメーション映画として映像化するにあたって、とくに意識されたことを教えてください。
和田:小説に限らず、マンガでもゲームでも、原作のある作品を映像化するときのアプローチは、個人的にはそれほど変わりません。ただ、今回原作を読んでまず感じたのは、“和希の視点で描かれている物語”だということでした。地の文が多く、和希が何を思っているのかという心の言葉もたくさん出てくる。それをそのまま映像にすることはできないので、演出としてどう表現するかは考えました。
シナリオの段階では、もう少しナレーションなどを入れてもいいのかなと思っていたのですが、それでは少し興ざめしてしまうのではないかと。そこで、あえて無言の時間を作ったり、セリフを入れずに音楽だけを流し続けたりしています。せっかく映画として表現するのであれば、すべてを言葉で説明するのではなく、見る方に考えてもらえる余地を残したほうがいい。そこは普段のアニメ作りより意識していました。
へちま:私は、原作小説を読んだときから、キャラクターの姿がかなり“見える”感じがしたんですよね。なので、すごく悩んでひねり出したというより、「この子はきっとこういう見た目なんじゃないかな」と自然に浮かんできたものを、あまりひねらずに出していった感覚でした。ものすごく特徴的な口調のキャラクターがいるわけではないのですが、それでも不思議と、それぞれの個性が原作の時点ですでに感じられたんです。

――物語の中心となる和希と七緒は、それぞれどのようなイメージからデザインを作り上げていったのでしょうか?
へちま:和希は作中で「王子」と呼ばれているくらいなので、そう呼ばれても不思議ではない見た目にしたいと思いました。少し中性的な美形で、どこか影のある少年というイメージですね。
一方、七緒は「猫っぽい」というところが、デザインするうえでひとつのキーワードになっていたと思います。いろいろと変遷はありましたが、最終的には島で生まれ育った素朴さがあって、性格もストレートな、ある意味では王道のヒロインというイメージです。そして何より、和希が七緒を見て“好きになってしまう”ということに説得力があるかどうか。それは、彼女をデザインするうえで大事にしていました。
――キャラクター作りにおいて、和田監督からへちまさんにリクエストされたことはあったのでしょうか?
和田:ほとんどのキャラクターは、僕が頭の中に持っていたキャラクター像と、へちまさんから上がってきたものが近かったんです。なので「大きく変えてほしい」とお願いしたことは、そんなになかった気がします。
唯一、和希のクラスメイト・三島たまきについては話し合を重ねました。へちまさんは小説やシナリオから受け取った印象をもとに描かれていて、僕には演出上「こうしたい」というイメージがあったので、そこは少し詰めていきましたね。
へちま:たまきは、私のイメージと監督のイメージが少しぶつかっていたところですね。私としては、七緒とかなりギャップのあるデザインにしたかったんです。でも監督からは、しっかり者らしさを前面に出してほしいというリクエストがあって。最初は垂れ目にしていたのですが、「このキャラクターは垂れ目ではないんだろうな」となって(笑)。そのうえで、七緒とどう差別化していくかを探っていった感じでした。
和田:へちまさんは“かわいい”や“かっこいい”のバリエーションがすごく多いんですよ。かっこいい男性キャラクターなら皆同じ方向性、女の子なら皆似た顔、ということがなくて、それぞれきちんと違う魅力があるんです。“かっこいいキャラクター”“かわいいキャラクター”ばかりがどんどん増えていくようなこともなくて、全体のバランスがすごくうまいんですよね。僕にはないアイデアをたくさん持っていたので、本当にありがたかったです。

――学生たちは同じ制服を着ていて、髪色なども比較的リアルなデザインですが、それぞれの個性が重ならないよう意識された部分はありましたか?
和田:主要なキャラクターについては、デザインと一緒に色のイメージまでへちまさんに作っていただいていたんです。「これをそのまま採用してもいいですし、調整したり変えたりしてもいいですよ」という形で提出してくださって。それをベースに色彩設計の方とも話ができたので、すごく助かりました。ただ、へちまさんはキャラクター同士の個性が被っていないか、結構気にしていましたよね。
へちま:めちゃくちゃ気にしていました(笑)。「この子とこの子、ちょっと寄ってしまっている気がするんですけど……大丈夫ですか?」と確認したり。
和田:むしろ僕は、そこまで気にしていなかったんですよ。だから「大丈夫じゃないですかね」って(笑)。
へちま:最終的には「監督がそう言うなら」と(笑)。そこは監督を信じました。

