イラストレーター・ナガノ氏による人気コンテンツ「ちいかわ」初の劇場版作品『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が7月24日に全国で封切られた。
初日興収9.9億円、「コナン級」スタートを支えた口コミの広がり
初日だけで興行収入9.9億円を突破する異例の好スタートを切り、各地の映画館では早朝の上映回から満席が相次いでいる。2024年にシリーズ最高興収158億円を記録した劇場版『名探偵コナン』シリーズの9.6億円を超えるロケットスタートを切り、ファミリー層はもちろん、アニメファンや大人の単身客まで幅広い層を引き込んで、夏休み興行の主役に躍り出た格好だ。
本作がここまでの熱狂を生んでいる背景には、キャラクター映画の枠に収まらない作品性が存在する。愛らしいビジュアルとは裏腹に、不条理でシビアな世界観との落差はテレビアニメ版でも支持を集めていたが、大画面で繰り広げられる劇場版ではその毒性と暗部がより一層研ぎ澄まされた。観賞後の観客がSNS上で発信する「予想を裏切る展開」「ネタバレ注意」という口コミがさらなる客足を呼び寄せており、興収100億円超えを狙える大ヒットの波が生まれている。
※以下の本文にて、作品未視聴の方にとっては“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。
最後まで席を立てない、エンドロール明けの衝撃
物語の核となるのは、原作者・ナガノ氏が映画のために完全監修した長編「セイレーン編」である。ちいかわたちが「100倍の報酬」「限定の島ラーメン」「スイーツ無料」と書かれた魅力的なチラシに惹かれ、島合宿へ旅立つ場面から物語はスタート。序盤は島民たちの手厚い歓迎やごちそうを満喫する賑やかな道中が描かれるが、中盤に差し掛かると島全体を包む不穏な空気がにじみ出始める。
島では島民の失踪事件が頻発しており、その裏には恐しい怪物「セイレーン」の存在があった。物語は怪物との死闘へ突入するが、終盤にかけて事件の真の引き金となった切ない真相が判明する。さらに、エンドロールが明けた「ラスト0分」に用意された戦慄の結末には、観客全員が絶句。SNS上では「原作・東野圭吾だっけ?」「鑑賞後の余韻が『容疑者Xの献身』に近い」といった声が相次ぎ、巧みに張り巡らされた伏線と衝撃の真相が、本格ミステリーを思わせる読後感ならぬ“鑑賞後の余韻”を生み出している。
台詞、歌詞、上映時間に張り巡らされた“仕掛け”
本作の大きな特徴は、作中にいくつもの仕掛けが配置されている点だ。
たとえば、劇中で島民たちが歌う「島のうた」の歌詞もそのひとつ。一見すると食べ物が並ぶ陽気な歌だが、各行の頭文字を縦読みすると「たすけて」「おわび」という言葉が浮かび上がる。島で起きている悲劇とSOSが歌の中に隠されていたことが分かる演出だ。作中でハチワレが島民に「炭酸」の飲み物がないか尋ねるシーンがあるが、こちらも後に重要アイテムとなる「単三」乾電池と掛け合わせた言葉遊びとなっている。
また、本作の本編上映時間は99分。子供向けとしては長めだが、気になったのは、ちいかわたちが「島ラーメン」や「スイーツ」は食べられたものの、「100倍の報酬」だけは得られなかった点だ。その代わり、前述のラストを目撃した上映直後の「100分目」に、観客は通常アニメ版の「100倍」の衝撃を受け取る。これこそが本当の「報酬」だったのではないだろうか。
「ちいさくてかわいい」だけじゃない作品のテーマ性
作品の表層にあるのは、凶悪な怪物を退治する王道の冒険譚である。しかし、物語を掘り下げて見えてくる本質は「罪と罰」、そして「どちらかが許さない限り終わらない負の連鎖」という極めて重苦しいテーマだ。加害と被害の立場が複雑に交錯し、それぞれの正義や事情によって争いが泥沼化していく様は、現実社会における「戦争の勃発過程」を描き出しているようでもある。
そして真相をすべて察しながらも、ちいかわが選んだ「決断」はスクリーンを見守る大人たちにも「モヤモヤ」感を残す。“ちいさくてかわいいだけじゃない”――。その一言が、本作の魅力を最も端的に表していると言えよう。



