Netflixのオリジナルアニメ映画『超かぐや姫!』が、世界独占配信開始後に劇場公開され、興収20億円を超える異例のヒットとなり話題を呼んでいる。
MAPPAとの戦略的パートナーシップ締結やメディアミックスへの本格参入など、Netflixの日本アニメへの関わり方は大きく変わりつつある。権利を独占するばかりではなく、パートナー企業やクリエイターとの共創を重視する方向へ舵を切った同社のアニメ戦略と今後の展開について、コンテンツ部門ディレクターの山野裕史氏に聞いた。
[取材・文=杉本穂高]

【山野裕史プロフィール】
2019年入社。Netflixの東京オフィスを拠点に、アニメ作品におけるコンテンツ調達を統括。担当した主な作品に世界的人気を誇る「ONE PIECE」の新アニメシリーズ「THE ONE PIECE」をはじめ、「BAKI」「ジョジョの奇妙な冒険」「SAKAMOTO DAYS」などのアニメシリーズからアニメーション長編・映画の『超かぐや姫!』スタジオジブリ作品など、幅広いコンテンツの調達をてがけ、Netflixにおける日本発のアニメ作品ラインナップの強化に貢献。Netflix作品の原作となる日本IPの獲得も担当し、国内外での映像化に関与。
■オリジナル独占配信でも超拡大?『超かぐや姫!』

――『超かぐや姫!』は、Netflixとツインエンジンとの3本の共同制作契約の3本目です。前2作は配信と劇場公開が同時展開でしたね。
山野:前2作は劇場にも挑戦したいツインエンジンの意向と、作り手の映画館で見てほしいという気持ちを尊重して劇場と配信の同時展開でやらせていただきました。
結果、多くの方に見ていただけたと思っていますが、やはり宣伝や企画の立て方など、二兎を追う者は一兎をも得ず的な難しさもあったので、3本目は配信に特化できないかとお伺いしました。ツインエンジンの山本社長もグローバルヒットを目指したい気持ちもあり、山下清悟監督にも配信向けという方向で考えていただき、そこを踏まえて、先にミュージックビデオを出すなど、さまざまな施策を考えていただいたという流れです。
――『超かぐや姫!』はプロモーションも上手かったと思いますが、宣伝はツインエンジンが主導しているのですか?
山野:作品を一番理解しているのはツインエンジンですから、この作品はこういう風に見せたいという大きな戦略は作っていただいています。それに対して配信側としてNetflixができることは何かを相談して、役割分担をしていくような形でした。
――『超かぐや姫!』は、配信開始後に劇場公開し、大ヒットしています。このヒットは配信会社のNetflixとして、どんな意義がありますか。
山野:配信で繰り返しご覧いただき、SNSでも口コミが広がるなど、多くの方に本作品を楽しんでいただけていることを大変嬉しく思っております。
それにしても、そのまま配信で見られるものを劇場でもこれだけたくさんの人が見に来てくれるのは新しい現象で面白いなと思いましたし、SNSでお客さんがいろいろな視聴パターンを提案しているのも興味深かったです。配信で見てから劇場へ行く人、逆に劇場の感動を自宅で反芻する人など、多様な楽しみ方が生まれていました。
――『超かぐや姫!』では劇場と配信の相互にポジティブな関係が築けています。要因をどう分析していますか。
山野:山下監督は、配信の強みは何度でも見られることだと分析し、何回視聴しても面白い作品を目指したそうです。それが見方が広がる先のようなSNSの反応につながっているのだと思います。そのために、山下監督がワンカットも妥協せず、全体の構成も含めて実行したことが、配信と劇場両方で成功した要因じゃないでしょうか。
――今回の成功は、独占配信に対する世間のイメージを一つ破ったと思います。一社独占配信でも大きく人気を拡げることができると証明できた事例になったのではないでしょうか。
山野:僕個人としては非常に大きなことだと思っています。実写では「地面師たち」などが話題になっているのに、なぜアニメはそれができないのかと、忸怩(じくじ)たる思いがありました。
アニメ業界全体でオリジナル作品がなかなか振るわない状態ですが、オリジナルの独占配信でもここまでやれるんだという事例ができたので、クリエイターの皆さんにどんどん手を挙げていただけるようになるとうれしいです。

――4月16日より配信中の「だんでらいおん」はオリジナルではありませんが、32ページの読み切りを全7話のアニメにするという、挑戦的な企画ですね。どういう経緯でこの企画は成立したのですか。
山野:弊社から集英社にご相談させていただきました。『銀魂』の単行本に収録されていてファンにも人気がありましたし、空知先生にも「無理せんでいいよ」と言っていただけたのですが、けっこうなチャレンジをしました(笑)。アニメ 1話は概ね読切漫画通りで、その後ジャンプ編集部さんとアニメスタッフ、そしてNetflixで紡いでいったオリジナルに近いです。テレビだと1クール12話の枠にはめないといけないところ、配信ならそうした制約はありません。「だんでらいおん」にはこの形が最適だと考えましたし、読切漫画の名作を広げる可能性を示せるのではないかと考えています。
■世界それぞれのアニメの見方―Netflixならではのメディアミックス
――今、需要の増大でアニメの制作スケジュールを確保するのが難しくなっていますが、それに対してNetflixはどう対応していくのですか。
山野:確かに取り合いになっていますが、弊社は、本数をどんどん増やすよりは一本一本、しっかりお客さんに届けたいという気持ちで、量に重きは置いていません。そうした取り組みの中でMAPPAとのパートナーシップに代表されるように、スタジオ一と一緒に一作品ずつ取り組んでいこうという考えです。制作ラインを抑えるということではなく企画ベースで相談していくつもりです。アニメの面白さは最終的には、クリエイターがやりたいと思うかどうかが大きなウェイトを占めると思っているので、一緒にやりたいと言ってもらえるかどうかが大事だと思っています。

――MAPPAとのパートナーシップは作品を共同で作るのみならず、マーチャンダイジングの開発も手掛けると発表されていました。日本アニメはメディアミックスがビジネスの根幹ですが、Netflixもこれにスタジオとともに乗り出すということですか。
山野:そうですね。MAPPAの大塚社長はスタジオ主導でメディアミックスを進めていきたいという考えで、弊社としてもグローバルにタイムラグなく作品を届けられる環境は整ってきたので、次はアニメならではのメディアミックスをどう手掛けるかを相談しながら進めていきましょうと話し合っています。
弊社の商品化チームも充実してきました。「SAKAMOTO DAYS」で商品化をご一緒させていただいたり、NetflixHouseなどを経験しました。ただ、弊社は映像の世界配信はできていますが、メディアミックスを190ヶ国で展開するのは、そう簡単ではない。これを実現させるには本腰を入れて取り組まないといけません。ですので、継続的な取組みとして、MAPPAと具体的な相談をしている最中です。
――映像を世界中で見せられるNetflixでも、メディアミックスを世界中で展開するのは容易ではないと。
山野:そうですね。もう1つ具体的な実感として、『SAKAMOTO DAYS』の時、国内外で楽しんでいただいたのですが、届け方については各国でローカライズする必要があるなと感じました。あの作品について、日本人はマンガ原作であることを知っていますが、海外では知らない人も多いし、どういうキャラクターがどういう動機で行動するのかなど、そのあたりをきちんと伝えられるようなグローバルトレーラーを作ったんです。原作を知らない方でもストーリーが理解できるような構成など、届け方については細かなローカライズがこれからより重要になってくると思います。商品化についても各国で売れる傾向が異なりますから、今後はそういうデータもしっかり集めて研究していく必要があります。

――ローカライズでは吹替の需要はやはり高いですか。
山野:データでは、大体8割9割の方が吹替で見ています。アニメは吹替との相性がいいと思うんですよね。現地の言葉で喋っていたら現地の人に思えるような柔軟性があるので。
――声のキャストに起用される方も有名な人が増えていたりするんでしょうか。
山野:増えていますね。「SAKAMOTO DAYS」ではWWEのスーパースターAlexa Blissが帯黒役で出演されていたりと、プロパーの声優以外の起用も広がっています。
ローカライズについては『超かぐや姫!』の歌唱パートも5言語(英語、フィリピン語、タイ語、スペイン語、ポルトガル語)にローカライズしているんです。他にも『ベルサイユのばら』は英語版の歌を作っています。ただ英訳するのではなく言語特有のリズム感と歌詞に意味を汲み取り、制作しています。
――例えばディズニーは曲のローカライズは米国本国でコントロールしますが、Netflixの場合、そのあたりの意思決定はどうなっているんですか。
山野:弊社はあまり本社という考えがなく、『超かぐや姫!』なら日本が一番詳しいので、こちらから歌詞の意味や曲の意図を各国に共有しています。クオリティの核は日本側でコントロールできる形です。
■アニメの拡充を狙ったパートナーとの繋がり

――Netflixは、以前は作品の権利を一括で独占契約するパターンが多かったと思いますし、海外では今もそれが主流だと思います。しかし、今のNetflixの日本チームは、柔軟な運用をしているように見えます。劇場展開まで行うツインエンジンとの契約体系などは代表的な例ですし、今年のアニメのラインナップを見ても完全に独占(配信のみ独占というパターンが多い)というタイトルは多くないですよね。
山野:そうですね、柔軟に取り組んでいます。アニメは本編だけを楽しむものじゃなく、先ほどの話に出てきたようにメディアミックスも重要です。弊社がそのすべてを手掛けることができて、クリエイターにも還元できれば話が早いかもしれませんが、今の段階では、弊社がすべて権利を持つのではなく、メディアミックスのプロと組んで展開することもアニメの広げ方の選択肢の一つと判断しています。
――アニメの魅力をさまざまな領域で広げてきたプロがいるので、そこは任せたほうがいいと。
山野:私たちは配信を主軸に広げることに注力しつつ、Netflix配信特有の視聴行動もあるので、そこを踏まえたクリエイティブを根本のところから相談させていただく形が多くなっています。以前は、完成品を買ってください、みたいな感じでしたけど、今は作る段階から相談して、どう広げていくのかまで一緒に考えています。
製作委員会こそ組んでいませんが、委員会的な形でパートナーと足並み揃えてやっていくような形ですね。日本発のアニメはファンダムの作り方やメディアミックスの展開手法については最先端を行っていますし、作り手に寄り添った方が事業的にもうまくいくと考えています。
――貴重なお話ありがとうございました。今後のNetflixのアニメ作品にも、益々注目ですね。
(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ
(C)Hideaki Sorati/SHUEISHA
(C)鈴木祐斗/集英社・SAKAMOTO DAYS 製作委員会



