アニメ・マンガに目がないアニメ!アニメ!編集部がまだアニメ化されてないけどおすすめしたいマンガを紹介するコラム<おすすめマンガ手帖>。ファンの間でアニメ化を熱望する声が絶えない、今回はまにお先生による百合作品『きたない君がいちばんかわいい』をピックアップ。
一見純粋で繊細な少女たちの関係は、やがて“痛み”と“執着”を孕んだ危うい愛へと変わっていく――。唯一無二のダークな魅力で話題を呼んだ本作の見どころを、編集部があらためて掘り下げます。
一迅社の『コミック百合姫』で連載され、全5巻で完結したまにおの『きたない君がいちばんかわいい』。ファンのあいだでは“きたかわ”の愛称で親しまれ、連載終了後もSNSでは「アニメで見たい」「あのシーンを声付きで体験したい」といった声が後を絶たない。少女ふたりが織りなす関係性は、甘くも苦く、時に残酷なまでにリアルだ。“きたない”という言葉でしか表せないほど複雑な感情のやり取りが、読者の心を離さない理由を探ってみよう。

◆“きたかわ”とは? 連載誌・作者・ファンの熱
ガールズラブコメディ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』やNetflix映画『超かぐや姫!』、数年遡れば『機動戦士ガンダム 水星の魔女』など、百合(ということばは各人によって解釈が異なり使用がむずかしいのだが……)作品がひろく論じられるようになり、26年春クールには『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』が放送されている。いち百合好きとしてはもっと百合アニメが増えてほしいという想いでいっぱいなのだが、なかでもアニメ化に推したいのが『きたない君がいちばんかわいい』だ。
『きたない君がいちばんかわいい』通称『きたかわ』は、「コミック百合姫」にて連載されていたまにおによる全5巻の百合作品。瀬崎愛吏と花邑ひなこはクラスではグループもカーストも違い、接点のないように見えるふたりだったが、じつは彼女たちには他人には言えない秘密があった。放課後の化学実験室で密やかに行われるふたりだけの愛と打算と性癖に満ち溢れた儀式的な情事の数々──。「きたない君」を愛してしまった愛吏とひなこは思わぬ方向へと突き進んでゆく。
※以下の本文には“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意ください。
※また、作品の過激な描写に触れる表現がございますのでご注意ください。
◆類を見ない“きたない君”へのダークな欲望
『きたかわ』を読みはじめてまず最初に度肝を抜かれるのが、そのダークで歪んだ”性癖”の数々である。第1話ではさっそく、愛吏がみずから手作りしたお弁当をひなこに食べさせ、そして吐かせる。ひなこのお腹に拳をぎゅうと押しつけたり、口に指をつっこんだりして無理矢理吐かせるのだが、そうして吐瀉物にまみれたひなこを見た愛吏はにっと口角をあげ、頬を赤らめながら恍惚とした表情を浮かべるのだ。「こんな綺麗な体からこんなに汚いものだすんだ……」と感動する愛吏は、自分のためにならきたなくて苦しいことでも厭わないひなこを「かわいい」と思い、歪んだ愛情を向けはじめる。
さらに愛吏の言動はエスカレートし、「ひなのおしっこ見るモードには入っちゃってるもん」とその場で排尿するように求めはじめる。「出せない」と言うひなこに対し愛吏は、彼女の首をつかみ窓からつき落とそうとする。ひなこからすると、首をつよく締められながらも、その締める手を離された瞬間二階から落ちてしまうというのっぴきならない状況だ。追い詰められたひなこがようやく”お漏らし”をしてしまうことで愛吏は満足し、ひなこを解放する。
『きたかわ』が描くこのような”性癖”は、目を背けたくなるほどに痛々しく、吐き気をもよおすものもあるが、しかし同時に目が離せなくなる魅力もそなえている。絶対に他人には見せない「きたない」姿を自分だけに見せてくれるという小気味よさ。そして一度は命を委ねてしまった被支配の感覚──たがいに特別感を抱き合い、あきらかに不健康な関係性でありながら抜け出せなくなってゆく依存関係が、類を見ない存在感でページをめくる手を止まらなくしてしまう。
◆匿名の告発がもたらす”形勢逆転”
ふたりの密会は生ぬるくつづいてゆくのかと思われたが、ひなこの下駄箱に密会の写真と「気持ち悪い」という手紙が入れられることで一転する。「バラすぞ」などと何度か脅迫を受けていたひなこがそれを見せると、愛吏はひどく動転し「もうやめる」とその場を立ち去る。しかし脅迫の手は止むことがなく、最終的にチャットで写真をばら撒かれた愛吏は、授業中の教室ではげしく嘔吐をしてしまう。
そのすがたを見たひなこは、「あいちゃんが吐いてる姿初めて見たなぁ」「うれしい」とこころのなかで思う。これまで愛吏のものだと思われた「きたない君がいちばんかわいい」という感情が、反転しひなこのものになるのだ。いじめられてばかりだったひなこが浮かべるサディスティックな表情は、これまでの停滞した一方的な儀式を一気に逆転させ、物語を加速させる。
以降の展開については本誌で読んでほしいので割愛するが、形勢逆転したふたりの関係は愛吏が一方的にひなこを痛めつけていた冒頭からは想像もつかない結末へと突っ走ってゆく。まったく展開の読めないひりひりとしたスリルも味わえる作品だ。
◆“痛み”の中にある“愛”
『きたかわ』は、痛みと苦しみにみち、陰鬱な欲望が渦巻きながらも節々に”愛”のようなものが見え隠れする歴とした”百合”マンガである。愛吏とひなこの儀式、そして行く末はアニメーションで声の演技をつけて見ればよりいっそうわきたつはず! とはいえまずはマンガで唯一無二な『きたかわ』の世界を体験してみてほしい。



