アニメ・マンガに目がないアニメ!アニメ!編集部がまだアニメ化されてないけどおすすめしたいマンガを紹介するコラム<おすすめマンガ手帖>。今回は「COMIC ポルタ」で連載されている迷子先生の『プリンタニア・ニッポン』をピックアップ。
幸福に見える社会の裏には、誰かの思惑がうごめいている。そんな世界を描く「ディストピアもの」作品は、小説やアニメ、映画など幅広い媒体で生み出されてきた。
今作の舞台もディストピアであるが、初見で感じる印象は「もちもち感」である。
今回は読み進めるほどに抜け出せなくなる『プリンタニア・ニッポン』の魅力をご紹介。愛すべき「もちもち」とともに、ディストピア世界を散策してみよう。

※以下の本文には“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意ください。
謎の「もちもち」との暮らし
本作は人々と新種の生き物「プリンタニア・ニッポン」との暮らしを描いた「SF(すこしふしぎ)な日常譚」。
ある日主人公の佐藤は、念願だったペットとの暮らしを手に入れることに。しかし柴犬が出力されるはずだった生体プリンターからは、白くてもちもちの「プリンタニア・ニッポン」が出てきた。佐藤はその個体を「すあま」と名付け、ともに生活を始める。
仕事をしたり、システムが選定した友人と遊んだり、評議会が作成した精神テストに答えたりと、おおむね普通の日々を送る佐藤。しかし生体そのものが謎だらけのプリンタニアと関わるうちに、世界の根幹を揺るがしかねない大きな事件に巻き込まれていく。
驚きに満ちた、日常の世界

前述したあらすじからも「全然普通の暮らしじゃないよね!?」と感じた人は多いだろう。本作の随所には、世界を管理している「監視猫」や「評議会」などの存在が見てとれる。人々は猫たちに与えられた権限のなかで日常を過ごしているのだ。佐藤たちには当たり前でも、現代日本に生きる私たちからすれば違和感を覚える描写もさらっと登場する。
たとえば第8話。運動不足解消のためにジムに行った佐藤は、左腕のない青年・瀬田に出会う。瀬田は「外作業中に残兵に出くわして左腕を取られてしまった」と、すあまをなでながら世間話のように語った。
この会話だけでも、「今いる場所と外の世界は区切られていること」「残兵という危険な存在がいること」「“外”での大怪我は日常茶飯事」ということが伝わってくるだろう。瀬田はこのあと新しい左腕を手に入れるが、「生身の腕にするかそれ以外の形状か」を選んでいた。異なる規律や倫理観に満ちた世界をのぞくのは、まるで異文化に接しているときのようにおもしろい。そして物語が進むにつれ明かされていく世界の真相は、驚きと切なさに満ちている。
その一方で、佐藤たちの暮らしそのものには共感できる部分も多い。第22話では、忙しい予定をこなしたあとの佐藤が休日に「何もしたくないモード」を発動して、部屋でくつろぐエピソードが描かれる。せっかくの休日ではあるが一日中寝ていたい、という気持ちを抱いたことのある人は多いのではないだろうか。
また、第24話では人見知りをしがちな佐藤と、口下手で無口な向井が初めて2人で調査に行く。何を話せばいいのかわからずにお互い困惑する場面は、身近でありふれた風景のひとつに思えるはずだ。
私たちのいる世界とはかけ離れた環境に置かれながらも、そこで生きる登場人物たちを他人とは思えない。キャラクターに共感できるからこそ、世界観と自分たちの生活とのギャップがより際立つのだ。
とにかくかわいいプリンタニア
『プリンタニア・ニッポン』の魅力を語るうえで、プリンタニアの存在は欠かせない。もちもちしたかわいらしい生き物が出てくるだけで、多くの人が作品を手に取るはずだ。
かわいらしさをもう少し具体的に紹介しよう。まずはシンプルでありながら表情豊かな顔だ。ときには眉間にしわを寄せ、またときには小さな目を喜びいっぱいに輝かせ、感情を表現する。さらに、短い手足を駆使して意図を伝えようとする姿も愛らしい。コマの端々で自由気ままに行動しているプリンタニアを眺めているだけで、時間が溶けていきそうになる。
極上のさわり心地も忘れてはいけない。第9話でプリンタニアの触感のよさが大人気になりニュースで報道されたほど、人々を魅了している。作中では「もちもち」「むにーん」「もにんもにん」などさまざまなオノマトペで触感が表現されていた。ほどよい弾力と、よく伸びるお餅のような柔軟性は、プリンタニアの持ち味である。
しかも話が進むにつれ、すあまのほかに、小さくて素早い「そらまめ」、ふわふわの毛を持つ大型の「もなか」など、さまざまな外見のプリンタニアが登場する。飼育施設には大きさも食べ物の好みも異なるプリンタニアたちが。どの子も基本的には穏やかで、人間の負の感情に寄り添って癒やしてくれる。多種多様なプリンタニアに囲まれる生活は、あまりにも幸福だ。読了後、なぜ自分の膝の上にはプリンタニアがいないのかと、やり場のない想いを抱えたのは筆者だけではないだろう。
今回紹介した魅力は、『プリンタニア・ニッポン』のほんの一部分。世界の構造が徐々に見えてくるおもしろさや、プリンタニアの愛おしさを、ぜひ本編で味わってほしい。


