『ダーウィン事変』原作・うめざわしゅんが生命倫理を描き続ける理由「この世界はわからないことだらけ」 | アニメ!アニメ!

『ダーウィン事変』原作・うめざわしゅんが生命倫理を描き続ける理由「この世界はわからないことだらけ」

ヒトとチンパンジーの間に生まれた「ヒューマンジー」のチャーリーを主人公として、テロや差別、生命倫理という深遠なテーマを突きつける衝撃作『ダーウィン事変』。国内外で大きな反響を呼んでいる本作が、ついに待望のアニメーションとして動き出す。今回、原作者のうめざわしゅん氏にインタビューを敢行し、多岐にわたって話を聞いた。

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うめざわしゅん『ダーウィン事変』書影
うめざわしゅん『ダーウィン事変』書影 全 14 枚 拡大写真

ヒトとチンパンジーの間に生まれた「ヒューマンジー」のチャーリーを主人公として、テロや差別、生命倫理という深遠なテーマを突きつける衝撃作『ダーウィン事変』。マンガ大賞2022をはじめ数々の賞に輝き、国内外で大きな反響を呼んでいる本作が、ついに待望のアニメーションとして動き出す。

今回、原作者のうめざわしゅん氏にインタビューを敢行。衝撃的な物語をいかに構築したのか、アニメ化にあたってどんなことを要望したのかなど、多岐にわたって話を聞いた。

『ダーウィン事変』書影

[取材・文=杉本穂高]

■ヒューマンジーの「重心」に注目?

――実際に制作途中の映像をご覧になって、どのような感想を持たれましたか?

アニメの技術的なことに関しては詳しくないですが、アニメーターの方々がすごく力を入れて描いてくださっていることは感じます。作画だけでなく、美術の細部まで描き込まれていて、とてもクオリティの高い作品にしていただいていると思います。

――アニメ制作陣に、これだけは守ってほしいというような要望は出されたのでしょうか。

津田(尚克)監督からは、なるべく原作通りにやりたいとお話を伺っていましたので、僕から細かい注文はしていません。「物語のエッセンスや中心的なテーマは正面から扱ってほしい」ということ、そして「差別や偏見を助長するような表現にならないよう気をつけてほしい」という点だけはお伝えし、あとはお任せしています。

制作側から相談を受けたときに、原作での意図を説明することがある程度でした。例えば、制作の初期の頃、ヒューマンジーであるチャーリーの重心についてお話ししました。チャーリーは、人間とは立ち方のバランスが違います。僕自身が、マンガを描きながら見つけていった重心のバランスがあったので、それを少しだけお伝えしました。

動きそのものは、僕は素人なのでアニメーターの方々にお任せしています。アニメを見たら「ヒューマンジーが実在したらこう動くんだろうな」という説得力があって、アニメならではの細かいニュアンスを、楽しませてもらいました。

『ダーウィン事変』場面カット©2026 うめざわしゅん・講談社/「ダーウィン事変」製作委員会

――キャスティングについて伺います。チャーリー役の種崎敦美さん(※崎はたつさき)、ルーシー役の神戸光歩さん、リヴェラ役の大塚明夫さん。このお三方の声のイメージはいかがですか?

ルーシーに関しては、オーディションのときから「この人だ!」と思うほど神戸さんはハマっていました。マンガよりもさらに感情の機微が表現されていて、本当にルーシーそのものだなと感じます。

リヴェラに関しては、大塚さんの迫力がとにかくすごかったです。これほどのカリスマ性でそそのかされたら、高校生ならうっかりやられてしまうな、と。僕が描いているキャラクターを大塚さんが演じているというより、大塚さんが演じるキャラクターを僕がコミカライズしているような気分になるほどでした。

――主人公のチャーリーについてはどうでしたか?

実はチャーリーだけはオーディションで決まらず、監督が種崎さんを「一本釣り」してきたんです。僕自身もチャーリーの声のイメージを掴みきれていなかったのですが、種崎さんが話し出した瞬間、「こういうことか!」とすとんと落ちるものがありました。

感情をあえて抑制しながらも、微かに存在するチューニングが絶妙なんです。何より「自分という存在に疑いがない、居て当たり前」というチャーリーの自然な存在感が種崎さんの声から伝わってきました。

■“人間以外”が権利を持てる境界線はどこにあるか

――舞台を日本ではなくアメリカにしたのはなぜでしょうか。

本作で扱う「差別」や「アニマルライツ」「ヴィーガニズム」というテーマは、日本ではまだ馴染みが薄いかなと考えたからです。それで、アメリカのドラマのような雰囲気にすることで、より受け入れられやすくなるのではという意図がありました。

――アメリカの描写がリアルだなと感じますが、リサーチはどのようにされたのですか?

実は、連載を始めた段階ではアメリカに行ったことはなかったんです。連載開始後、すぐにコロナ禍となり海外に行ける状態ではなかったからです。好きなアメリカ映画や小説などから想像を膨らませ、Googleストリートビューを使って街の雰囲気などを把握したりして、自分なりに補完していきました。

初めて取材でアメリカに行ったのは、2025年の5月で、カリフォルニアとミズーリ州セントルイスを回ったのですが、トランプ政権による不法移民の強制送還をめぐる社会の緊張感など、今のアメリカが抱えるアクチュアルな空気をダイレクトに感じました。

『ダーウィン事変』場面カット©2026 うめざわしゅん・講談社/「ダーウィン事変」製作委員会

――世界観だけでなく、キャラクターについても教えてください。うめざわ先生が描くうえで大事にしている、チャーリーというキャラクターの魅力はどこにあるとお考えですか?

チャーリーは人間にとっての「他者」です。種の違いによる「わからなさ」を、安易に解消せずに残しておくように描いています。物語の中でチャーリーも変化していくんですけど、人間から見て常に「一定のわからない部分を持つ存在」であることを大事にしています。

人間には人間の視点があるように、チャーリーにはチャーリーの世界があるんです。これはマンガですから、種が違うという設定にしていますけど、実際同じ人間であっても、それぞれ世界の見え方は違うはずです。

――そもそも、「ヒューマンジー」はどこから発想したのですか。

『もう人間』という短編でも生命倫理をテーマにしたんですけど、もっと発展させたいと考えていたときに、ネットで「ヒューマンジー」の記事を見かけたんです(※旧ソ連の生物学者イワノフの記事)。そういうマージナル(境界線)な存在を媒介にして、人間の持つ権利はどこまで拡張できて、どこまで保護されるべきかという問いを描けると考えました。

――チャーリーが人間以上の能力を持つ存在として描かれているのも、意図があるのでしょうか。

知能も身体能力も高い設定にしたのは、そうしないと人間が彼を「他者」として認識しようとしないだろうと思ったからです。「弱くてわからない存在」だと、バイアスがかかって無視されてしまう。まずは対等な、あるいはそれ以上の存在として「ここにいるんだぞ」と分かってもらうために、あえて高い能力を付与しました。

――生命倫理というテーマにこだわり続ける動機はどこにあるのですか?

僕自身の実感として、「この世界はわからないことだらけだ」という思いが常にあります。なぜ存在しているのかもわからないなかで、ルールだけを教えられ、欲望だけをデフォルトで持たされているという状態というか。その「ルールってなんだろう?」と考え続けてきたことが、マンガという形で結実したのだと思います。

――本作で「ヴィーガニズム」を取り上げようと考えた理由はなんでしょうか。

「権利を持てる境界線はどこか」というテーマを深める際、人間だけにフォーカスしていては描ききれないと思ったんです。より包括的な視点を持つために、アニマルライツとヴィーガニズムにたどり着くのは自然な流れだったと思います。


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