「センチメンタルサーカス」祝15周年!デザイナー・市川晴子さんインタビュー「誰かを癒せる存在を作りたかった」 | アニメ!アニメ!

「センチメンタルサーカス」祝15周年!デザイナー・市川晴子さんインタビュー「誰かを癒せる存在を作りたかった」

『センチメンタルサーカス』が今年15周年を迎えたことを記念し、アニメ!アニメ!ではデザイナーの市川晴子さんにインタビュー。切なく儚い雰囲気の中に、どこか優しさとなつかしさも感じられる独特の空気感はどうやって表現されているのでしょうか?

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サンエックスさんのショールームにて
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サンエックスが展開する『センチメンタルサーカス』は、捨てられていたぬいぐるみのシャッポが主人公のキャラクター。「街角や部屋の片隅に忘れられたぬいぐるみたちが夜にこっそり抜け出して結成した秘密のサーカス団」をコンセプトにしており、そのかわいくも儚い独特な雰囲気が人気を集めています。

そんな『センチメンタルサーカス』が今年15周年を迎えたことを記念し、アニメ!アニメ!ではデザイナーの市川晴子さんにインタビュー。切なく儚い雰囲気の中に、どこか優しさとなつかしさも感じられる独特の空気感はどうやって表現されているのか。誕生秘話のほか、デザインに込めたこだわりなど、たっぷりと語ってもらいました。

■「誰かを癒せる存在を作りたい」という想いで生まれた『センチメンタルサーカス』


――まず『センチメンタルサーカス』はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

就職活動で心身ともに疲れてしまった大学時代。「こんな時にそばにいれくれる存在がいてくれたらうれしいのにな」と思ったのが一番のきっかけでした。この想いをどうやって表現しようかと考えた時に、自身の幼少期からの人生を振り返ってみたところ、そういえば私の近くにはずっとぬいぐるみやおもちゃがいてくれたことを想い出したんです。そこで、ぬいぐるみたちを主人公にした世界観が思い浮かびました。

日常的に元気をくれたり勇気づけてくれたキャラクターの存在が自分にとっては大事なものになっていたので、私も誰かをそうやって癒せる存在を作りたかった。その想いから生まれたのが『センチメンタルサーカス』でした。

――『センチメンタルサーカス』が醸し出す切なくも優しい世界観は、市川さんのそんな想いが投影されていたのですね。

個人的に「元気出して!」と明るく励ましてもらうよりも、何も言わずそっとそばにいてほしいタイプなんですよね。シチュエーションにもよりますが、疲れている時は特に。“優しさ”にもいろんな形があると思いますが、その「ただそばにいてくれる」というのが、『センチメンタルサーカス』のじんわりとした優しい世界観につながっているのだと思います。

――キャラクターのデザインや設定にもその儚さのようなものが反映されていますが、それはどのように考えたのでしょうか。アニメ好きとしては、「設定が先か」「デザインが先か」というのも気になるところです。

『センチメンタルサーカス』の場合は、やや設定が先行していましたが、デザインも同時になんとなく頭の中に浮かんできたような記憶があります。サンエックスの90周年を記念して開催された「サンエックス90周年 うちのコたちの大展覧会」に展示してもらった、真っ白で目だけついているウサギのぬいぐるみが三日月の上にポツンと座っている絵。あれが本当に最初に頭の中に浮かんだイメージです。そこからどんどん肉付けしていき、今の形になりました。

――デザインに込めたこだわりを教えてください。

手描きの温かみが出るように、テーマに合わせて紙質やタッチを絶妙に変えています。切なさの中に優しさを感じるストーリーやキャラクターたちが特徴になっているので、そこは一番大切にしなきゃいけないと思っています。また、使う色も基本は“三原色”を混ぜ合わせることで作っています。いろんな色を使うこともあるのですが、大元は赤、青、黄色、それを薄めるための白の4つ。鮮やか過ぎず、ちょっとアンティークで懐かしさも感じられるような色味になることは心がけていますね。あとは、線の描き方も。使い古された“クタッと感”を出したくて、わずかにブレたような線で描いているんですよ。

――確かに淡い色味が魅力的です。また、線にもこだわることで『センチメンタルサーカス』独特の“もの悲しさ”が表れていたのですね。

ただかわいいだけじゃない、物語の背景も感じさせるデザインにしたいと思っていました。一か所に黒色を使ってみたり、彩度を上げ過ぎず影が残るように、というような工夫もしていますね。

――現在、アニメ制作はほとんどデジタル化されています。手描きのセル画がどんどんなくなっていますが、やはり「手描きだからこそ出せる表現/良さ」はありますよね。

そう言っていただけると、ありがたいです。私は手描きだからこその表現として「懐かしさ」が出せると思っていて。これは設定にもつながるのですが、『センチメンタルサーカス』のキャラクターたちの“昔はかわいがられていた感”がすごく伝わるような気がするんです。皆さんにもそれが伝わっていたら良いのですが。

――グッズ化されると手描きの温かみを表現するのが難しい場合もあると思いますが、何か制作時にこだわっていることはありますか?

今は技術がかなり発展しているので、私が描いたタッチや色味が忠実にグッズに再現されています。ただ、本当に初期の頃は、もっとかわいらしい色味で上がって来ることがありました。特にシャッポとスピカなのですが、ピンクを基調としているウサギのキャラクターだからか、もっと鮮やかなピンクになっていることが多くて。なので「あえてくすんだ色にしているんです!」「くすみピンクなんです!」と伝えさせてもらいました(笑)。

――手触りに関してはいかがでしょうか? もともとぬいぐるみだったキャラクターたちなので、ぬいぐるみ化するにあたりこだわった部分があるのではないでしょうか。

シャッポはアンティークなぬいぐるみ感を出したくて、少し毛足が長いふわふわとした質感の生地を選びました。そして全キャラクターに共通して、綿の入れ具合にもこだわっています。デザインのこだわりでも語った“クタッと感”ですね。綿を入れすぎず、かと言って少なすぎにもせず。「あと何%削ってもらって」「あ、それは減らしすぎ!」と絶妙な割合を計算しました。

――確かに、他のぬいぐるみと比較するとふにふに感が違う……!

そうなんですよ。ちょっとリラックマにも通ずるところがありますよね。パンパンに綿が詰まっているリラックマのぬいぐるみって、あまり見ない気がしませんか?『センチメンタルサーカス』も同様にこだわっているので、このインタビューを読んだ方には、今度からそこにも注目していただければ。

■決して順風満帆ではなかった旅路-『センチメンタルサーカス』はこれからどこに向かうのか?


――ここからは『センチメンタルサーカス』と歩んだ15年を振り返っていただきたいです。特に印象に残っている出来事はありますか?

改めて、このサーカス団と15年も長い旅を続けて来たのかと思うと、その数字の大きさに驚きます。旅の過程すべてがどれも大切な想い出なのですが、その中の1つを挙げるとすると、初めて絵のタッチを変えたテーマを出した時が印象に残っていますね。制作チームで何度も打ち合わせをして、試行錯誤したことを覚えています。本当に色々ありました……(笑)。

――その色々というのは?

もともと『センチメンタルサーカス』は、油絵のような重めのタッチがメインでした。そこから、水彩タッチの柔らかい色味のテーマも打ち出そうとなったんです。でも当時の私はどうしても受け入れられなくて……。「タッチを変えたら『センチメンタルサーカス』ではなくなってしまう」と思ってしまい、頑なにタッチを変えることを拒否していました。

――その頑な考えが変わった理由はなんだったのですか?

同期からの「このサーカス団にもっと長く旅を続けさせるために、いろんな世界を見せてあげてもいいんじゃない?」という言葉です。制作チームの中にグッズ制作のプランナーの役割を担っている社員がいるのですが、それが私の同期でして。関係性が構築されていたからこそ、言い合いにもなったし、熱い気持ちをぶつけ合いました。あのケンカがあったからこそ、このタッチが生み出せたと思っています。その結果、表現の幅も広がり、新しい世界があることにも気付かせてもらえました。

――淡いタッチの表現が加わったことで、より『センチメンタルサーカス』の切なさと優しさが感じられるようになったと感じます。

ありがとうございます……! 私たちの絵で皆さんに癒しを与えられていることが、本当にうれしいです。この15年の旅は決して順風満帆ではなく、時に悪天候に見舞われたこともありました。それに負けないように制作チームをはじめ、多くの方々が支えてくださって、今につながっていると思います。本当に感慨深いです。

――15周年を記念した新規グッズの展開、また各店舗で企画などが開催中です。施策に関わってみていかがでしたか?

新規グッズの発売ももちろんですが、カフェやアパレルブランドとのコラボ、さらにシャッポ団長の出張公演もやらせていただき、小さなサーカス団がこんなにもたくさんの場所を巡れるようになったなんて、本当に感激です。また今回、ポップアップストアにメッセージコーナーを置かせてもらったり、コミックスの刊行を記念して皆様から質問を募集したり、ファンの方々の声を聞けるような機会を作ってくれたことで、「こんなにたくさんの人たちを癒すお手伝いができたんだな」と実感できて、改めてうれしくなりました。

――今回、アニメ!アニメ!でも『センチメンタルサーカス』への想いを聞くアンケートを実施しました。集まったコメントを見ての感想を伺えますか?

本当に温かいコメントばかりで、胸も目頭も熱くなってしました。友人や家族からプレゼントされたことをきっかけに好きになってくれた方もいて、シャッポたちが皆さんの日常の一部に溶け込めていることを知れて、本当にありがたいという想いです。家族ぐるみで好きだという方もいたり、励みになりました。これからも愛し続けてもらえるよう、さらに頑張らなければなりませんね。


――市川さんが希望する『センチメンタルサーカス』の今後の展開は?

サーカス団のみんなには、これからも変わらずいろんな場所を旅してもらって、まだ見ぬどこかの誰かの心に小さな明かりを灯し続けてほしいですね。私としても、この15年の道のりの中で広げた世界をきっかけに、さらに新しい景色も見せてあげたいです。これからも制作チームと力を合わせて、新たな表現方法や技術を学び、シャッポたちの旅路を支えてあげたいです。

――ファンのコメントには、「アニメ化を期待している」という声もありましたが……。

旅路の途中で、ひょっとしたらそういった世界にも足を運べるかもしれないですね。

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《米田果織》

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