「幽☆遊☆白書」を代表する敵役・戸愚呂弟の痛みと哀しみ― 異形の妖怪になっても心だけは人間のままだった… | アニメ!アニメ!

「幽☆遊☆白書」を代表する敵役・戸愚呂弟の痛みと哀しみ― 異形の妖怪になっても心だけは人間のままだった…

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第42弾は、『幽☆遊☆白書』の戸愚呂弟の魅力に迫ります。

コラム・レビュー アニメ
注目記事
Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』(C)Yoshihiro Togashi 1990年-1994年原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊)
Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』(C)Yoshihiro Togashi 1990年-1994年原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊) 全 8 枚 拡大写真
-
    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    - 敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第42弾は、『幽☆遊☆白書』の戸愚呂弟の魅力に迫ります。

最近、Netflixが実写化したことで再び話題となった『幽☆遊☆白書』で最も鮮烈なインパクトを残した敵役といえば、やはり戸愚呂弟だろう。

圧倒的なパワーというわかりやすい能力を持ち、とにかく強い奴と戦うことを求めるという戦闘狂的な性格。そして、100%の力を発揮した時の異形の姿のインパクトで多くの読者に鮮烈なイメージを与えた。元は人間であり、妖怪に弟子たちを殺されたという、秘められた悲しみと怒りを抱えており、「堕ちた人」としての弱さを抱えている点も魅力的な好敵手だった。

主人公の浦飯幽助が一直線でわかりやすい性格な分、それと相対する敵役には複雑な事情や心理を抱えた者が多かったのが本作の大きな魅力となっていると筆者は考えているが、戸愚呂弟もまた自責の念という、重い宿業を抱えた存在で、作品に深さを与える存在だったと言える。

■豪快な戦闘スタイルが魅力の好敵手

戸愚呂弟は、今でこそ『幽☆遊☆白書』を代表する敵役だが、初登場時はそれほどの強敵と描写されず、むしろあっさりと倒されてしまった。ただ、それはとある理由で、幽助にわざと負けたからである。その分、再登場して本来の強さの片鱗を見せつけた時のインパクトは大きく、幽助にさらなるレベルアップの決意を促すきっかけとなっている。

戸愚呂は小細工はしない。筋肉を増強させて圧倒的な膂力で相手を粉砕するというわかりやすいパワー型の戦闘タイプで、正面から戦うことを好む性格だ。力こそ全てを具現化したようなその戦い方は豪快で見ていて気持ちいい。シンプルな性格ゆえに真っ向勝負を好む主人公・幽助のライバルとしてもわかりやすい。

そして、妖怪に身を落としたとはいえ、誇りを全て捨てていない面も好感の持てるところだ。品性下劣な戸愚呂兄に対して、「オレは品性まで売った覚えはない」と兄を殴り飛ばしたりもしている。

そんな戸愚呂の100%の力を開放した時の、元は人間だったとは思えないほどの異形ぶりは当時の読者を驚かせた。人を捨てたその姿は確かに妖怪そのものだ。しかし、その姿形とは対照的に彼の心は人間のままだった。

戸愚呂兄弟を作った、世界最高峰VFXへの挑戦|幽☆遊☆白書 | Netflix Japan

■サングラスの奥に秘められた“優しい目”

そんな戸愚呂弟は、幽助の師匠である幻海師範と古い付き合いだ。彼が妖怪になったのは、弟子たちに妖怪を殺されたことで圧倒的な力を欲するようになったためだ。自らの弟子を殺した存在と同じ妖怪になる、というのはどういう心境だっただろうか。それだけ弟子を殺された事件は、彼の心に深い闇を落としたのだ。そして、強さを追い求める思いは歯止めが効かなくなり、自分では止まれなくなったのだろう、最終的には幽助に倒されることでようやく肩の荷が下りた。

倒されることを望んでいたというのは、弟子たちを守れなかったふがいなさからくる贖罪意識からくるものだろう。死後、戸愚呂弟は自ら進んで最も過酷な地獄行きを選んだ。弱かった自分を許せない自責の念が死んでも抜けないほど、彼は傷ついていたのだ。

それは、彼の心は人間のままだったと言えるのではないか。贖罪意識で自分が許せないというのはまことに人間らしい感情ではないだろうか。姿形は異形の妖怪となり果てても、彼は心までは妖怪にならなかった。それが彼の目に表れている。戸愚呂弟は普段、サングラスをしていて目を隠しているが、目だけはずっと人間らしいままだった。目は口ほどにものを言う。彼の心の深層を最もよく体現しているのが目だった。「世話ばかりかけちまったな」と言って幻海に分かれを告げる時の優しい目つきは、何より彼の心が人間のままだったことを物語っている。

そんな戸愚呂弟の複雑なあり方が、この作品に深い奥行きを与えていた。『幽☆遊☆白書』の魅力を体現するような名敵役だ。


「敵キャラ列伝~彼らの美学はどこにある?」過去記事はコチラ
(C)Yoshihiro Togashi 1990年-1994年原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊)

《杉本穂高》

特集

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]