勇者一行の10年に及ぶ冒険により魔王が倒された“その後”の世界が舞台となる本作。勇者一行の一員だった千年以上の時を生きる魔法使い・フリーレンと、彼女が新たに出会う人々の旅路が描かれていく。
アニメ!アニメ!では、本作のメインキャストであるフリーレン役の種崎敦美(崎は立つ崎が正式表記)、フェルン役の市ノ瀬加那、シュタルク役の小林千晃による鼎談インタビューを実施。第1クールの旅路を振り返りながら、感動の源流を探っていく。
[取材・文:吉野庫之介]
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それまでの人生を背負って次の話数を迎えている感覚
――第1クールもいよいよ終盤を迎えますが、周りの方々からの反響はいかがですか?
種崎:放送が始まる前から業界内の方々に会うたびに「フリーレン、楽しみにしています!」と言っていただくことが多かったのですが、放送開始後も「いい作品ですね」とみなさん言ってくださって。
その中でも音響監督をされている方が「東地宏樹さん(ハイター役)が完全に色気を消しているのにビビりました」とおっしゃっていたのがとくに印象的で、普段から多くの声優さんの声を聴いている方ならではの意見だなと思いました。
市ノ瀬:私は街を歩いていたとき、グッズショップで小学生の女の子がフリーレンのアクリルスタンドを買おうか迷っているのを見かけて、年齢を問わずこの作品が届いているんだなと実感しました。
私自身も『葬送のフリーレン』を見ていると、言葉にできないじんわりとした感情が湧き上がってきて。なんでもないような普通の日々がいかに大切なのか気づかせてくれる作品だなと感じています。
小林:日常のささいなやり取りや死生観について考えさせられるというか。現代にはいろいろなコンテンツが溢れていますが、この作品はその中でも特別で、自分の時間を割いてでも触れたいと思うような、ゆったりとした時間の流れを感じられる作品ですよね。
種崎:放送前のインタビューで「この作品は心に何かが“降り積もっていく”作品だ」ということをよく言っていたのですが、自分がいち視聴者として話数を重ねるごとに、その感覚をより言語化できるようになって。見れば見るほど、第1話の感動が増していく。これが、“降り積もっていく”という感覚なのだと。
小林:それぞれのキャラクターが本当に生きているような感じがするからこそ、それまでの人生を背負って次の話数を迎えている感覚はありますよね。
――これまでの放送を振り返り、みなさんがとくに印象に残っているエピソードを教えてください。
種崎:私は第8話(サブタイトル「葬送のフリーレン」)のラストに衝撃を受けました。原作の中でも好きなシーンだったのですが、フリーレンとフェルンの表情が同じように映し出され、重なり合うシーンで流れる音楽がフィルムスコアリングで、あのシーンのために作られたものなんです。演出、音楽、アニメーション、リュグナー役の諏訪部順一さんの語りも含め、すべてが素晴らしく、心を揺さぶられました。
市ノ瀬:私も「断頭台のアウラ編」はとくに印象的です。フェルンとリュグナーの戦いの迫力が想像以上で、360度のカメラワークや音楽も含め、何度でも見返したいシーンだと思いますし、人間の持つ“侮れない底力”のようなものが感じられて、非常に印象深いです。
小林:僕はシュタルクの誕生日が描かれた第12話(サブタイトル「本物の勇者」)が心に残っています。彼にとって、兄であるシュトルツとの思い出はとても切ないものだったと思うのですが、誕生日にハンバーグを作る理由をフリーレンが教えてくれたことで、結果的に温かい思い出に変わって。あのエピソードには、気持ちを前向きにしてくれるこの作品ならではの魅力が詰まっているなと感じますね。
――感動的なストーリーもさることながら、毎回アニメーションのクオリティの高さに驚かされます。
小林:本当に。漫画で読んでいた時に想像で補っていた行間を、映像表現として丁寧に描いてくださっていて。
種崎:それが特定の話数やシーンだけに留まらないんですよね。私はとくにキャラクターの目元や口元だけで表現されるシーンの演出の細かさに驚かされます。
市ノ瀬:フリーレンが「アウラ、自害しろ。」と言うシーンの口の動きとか、本当に細かく表現されていましたよね。
種崎:このアニメーションに見合うお芝居で応えなければ……とドキドキしていました(笑)。
小林:あとは戦闘シーンも印象的でしたね。フェルンとリュグナーの戦い、シュタルクとリーニエ、そしてフリーレンとアウラの戦いは本当に素晴らしかった。
種崎:相手も手強かったけど、シュタルクも強かったよね。
小林:シュタルクってこんなに飛ぶの!? みたいな(笑)。映像になることで速度感も明確にわかって。
種崎:フェルンが魔法を撃つ速度とか。本当にたくさんのことに気づかされるアニメーションだなと思いますね。
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ザインが加わったことによる変化
――3人でのアフレコで印象に残っている出来事はありますか?
種崎:私の黒いジャケットに猫の毛がついていたとき、小林さんが「猫の毛ついてますよ」って言ってくれて、市ノ瀬さんが粘着ローラーでコロコロして取ってくれたことがあって。この現場はキャストが本当にそれぞれのキャラクターっぽいんです。
小林:そのリンク性はすごく感じますね(笑)。
市ノ瀬:私は種崎さんのだらーんとした感じのフリーレンのお芝居を聴いていると、「私が正さねば!」という気持ちになるので、すごくやりやすいんです(笑)。小林さんも、女の子に気を遣えない年頃の男の子を演じるのが本当に上手くて、雪の中でフリーレンを背負うフェルンに、自分が背負うよと「うん、うん」と促すときの言い方が絶妙な塩梅で、アフレコ中に隣で聴きながら思わず笑ってしまいそうになりました(笑)。
小林:たぶんシュタルクはめちゃめちゃ気を遣っているつもりなんですよ(笑)。僕は第5話のBパートからアフレコに参加させていただいたのですが、フリーレンもフェルンもとても静かな空気感の中で会話をしていたので、シュタルクとしてどう入っていくべきかずっと考えていたんですよ。そこを壊すくらいの声の距離感がいいのか、それとも寄り添った方がいいのか。結果、ふたりに寄り添う側になりました。
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――そうした空気感は現場で調整していたのですね。第13話からはザイン(CV:中村悠一)もパーティーに加わりましたが、変化を感じる部分はありますか?
種崎:よりコミカル度が顕著になったと思います。3人のときは、誰かのボケに誰かがツッコミを入れていたんですけど、ザインが加わったことで、実は3人ともボケ側だったことに気がついて(笑)。
小林:シュタルクも基本的にはポンコツですから、ザインみたいなちゃんとした大人がツッコミを入れてくれるとすごく助かるんですよ(笑)。
市ノ瀬:フェルンとしても、以前より等身大の女の子で居られるようになったというか。ザインが交わることで、彼女の幼さが垣間見えるようになったなと思います。
種崎:あと、中村さんが現場で熱心にチューニングされていた姿も印象的でした。いつも的確に調整して収録に臨まれていることは知っていたのですが、ザインという役を考えて演じていることがこちらにも伝わってきて。
小林:ザインをこう演じようとか、このシーンは僕ら3人と一緒に作っていこうといった熱量がすごく感じられて。そして中村さんも本当にザインっぽいんですよね。休憩時間とかも一人静かに大人で、でも同じ目線で喋ってくださったりして。とても居心地がいい4人だったなと思います。
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“ヒンメルの愛情”によって形作られている作品
――ここからは、勇者パーティーのキャラクターたちから感じた“愛”をテーマにお話をお伺いできればと思います。
小林:アイゼンは普段の彼の言動からも分かるようにとても不器用なのですが、その不器用さこそがアイゼンの魅力で、言葉数は少ないけれど、背中や拳で感情を伝える“頑固親父の愛”のようなものがすごく感じられるんです。
シュタルクを強くし、一人前の戦士に育て上げたいという強い気持ちはあるのですが、それを言葉には出さない。2人が離れるきっかけも、アイゼンがシュタルクの実力に怖れを抱いて手が出てしまい、結果的にシュタルクはアイゼンに勘当されたと思い込んでしまっていたわけですが、振り返ってみると、アイゼンは戦闘以外でも父親代わりとしてシュタルクを育てていたんだと思います。
シュタルクの持つ優しさや、人のために戦う精神はアイゼンから受け継がれたもので、そういった愛情を注いでもらったからこそ、今のシュタルクがあるのだと感じます。
市ノ瀬:ハイターは勇者パーティーのメンバーとして冒険していた時代には、本当にお酒をよく飲んでいて、二日酔いで大変なことも多かったのですが(笑)、その大好きだったお酒を止め、フェルンのためにしっかりした大人でいようと徹してくれて。晩年に彼女の将来を見据えてフリーレンに託してくれたことも、彼の深い愛情の表れだと思います。
おそらくフェルンはハイターが完璧な大人でなかったとしても、同じように大切に思っていたはずなのですが、そんな彼の優しさを感じていたからこそ、今でも尊敬の念を抱いているのだと思います。
種崎:ヒンメルからフリーレンへの愛に関しては、今はまだ言えません。彼はフリーレンと出会い、見つめ、触れ合い、さらには彼女の未来までを考え、そのために行動を起こしていった。こんなにも大きな愛情を、愛という言葉だけでは表現しきれないなって。
たった10年間の旅だったかもしれませんが、フリーレンはそれ以上の価値を感じているからこそ今も旅をしていて、彼女がヒンメルから受け取った愛の全貌は、この『葬送のフリーレン』という作品の最終回までいかなければ、本当のものが見えてこないと思うんです。それくらい、“ヒンメルの愛情”によって形作られている作品だと感じます。