「ガンダムSEED」を彩った“善悪割り切れない”敵役たち。クルーゼ、アズラエル、デュランダル…争う相手も悲しみを抱えている | アニメ!アニメ!

「ガンダムSEED」を彩った“善悪割り切れない”敵役たち。クルーゼ、アズラエル、デュランダル…争う相手も悲しみを抱えている

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第39弾は、『機動戦士ガンダムSEED』の敵キャラたちの魅力に迫ります。

コラム・レビュー アニメ
注目記事
『機動戦士ガンダム SEED スペシャルエディション完結編 鳴動の宇宙 HD リマスター』場面カット(C)創通・サンライズ
『機動戦士ガンダム SEED スペシャルエディション完結編 鳴動の宇宙 HD リマスター』場面カット(C)創通・サンライズ 全 11 枚 拡大写真
    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第39弾は、『機動戦士ガンダムSEED』の敵キャラたちの魅力に迫ります。

戦争には味方がいて敵がいる。相手も人間なのでなんらかの事情を抱えている。『機動戦士ガンダム』シリーズはそんな事情を抱えた者同士の争いを延々と描き続けている。

2002年から放送された『機動戦士ガンダムSEED』シリーズも例外ではない。本シリーズの特徴は、登場人物たちの戦争における立ち位置が目まぐるしく変化していくという点にある。戦火に巻き込まれ身を護るために仕方なく戦っていく中で、どうすれば戦争そのものを止められるのかと考えを変えていくことで、所属する陣営も入れ替わっていく。それゆえ、登場人物たちの対立軸も変化していくので、当初敵対していた者同士が手を組むこともあれば、逆に味方だった者同士が戦うことにもなる。

そのような物語構造なので、敵役も多数登場する。しかも、ただ主人公と戦う存在ではなく、敵役もそれぞれが信念に基づき行動している。今回はそんな『ガンダムSEED』シリーズを彩った魅力的な敵役たちを、主人公たちの陣営変化に沿って振り返ってみたい。

『ガンダムSEED』を彩る敵キャラたち

『ガンダムSEED』の主人公キラ・ヤマトは、中立国オーブに暮らすコーディネイターだ。この世界では、遺伝子操作によって通常以上の能力を得たコーディネイターと遺伝子操作していないナチュラルが対立している。コーディネイターはプラントと呼ばれる宇宙コロニーに居住し、ナチュラルは主に地球に暮らしている。遺伝子操作による能力差からくる不平等感やイデオロギーの違いなどで世界が分断されており、地球連合軍とプラントの軍・ザフトが激しく争っているが、中立国のオーブでは両者が一応共存している。

普通の学生だったキラは争いに巻き込まれ、なし崩し的に地球連合軍・アークエンジェルに所属することになる。そんなキラに度々立ちはだかることになったのは、幼少期の親友・アスラン・ザラだった。アスランは、地球側の大規模テロで母を亡くしているため、コーディネイターでありながらナチュラルと一緒に戦うキラを理解できずにいた。

2人はやがて双方に大切な人を殺し合う、憎しみの連鎖を繰り広げることになってしまうが、後に和解し戦争を止めるために協力する関係となっていく。

そして、キラとアスランは、オーブとコーディネイターの歌姫・ラクス・クラインたちと第三勢力を立ち上げ、拡大する戦火を止めるために地球軍とザフト両方と戦うことになってゆく。

この局面でキラたちに敵対するのは、反コーディネイター団体「ブルーコスモス」の盟主・ムルタ・アズラエルだ。「青き清浄なる世界のために」という印象的なフレーズを旗頭にするブルーコスモスは、コーディネイターを徹底的に敵視し、地球軍を資本の面から牛耳る存在だ。そんなアズラエルはかつてアークエンジェルの副艦長だったナタル・バジル―ルを主人公たちにぶつけ、邪魔者を排除しようとする。

傲慢な資本家という側面が強調されるアズラエルだが、彼は幼少期にコーディネイターたちにあらゆる面で劣っているというコンプレックスを植え付けられる経験をしており、その劣等感が彼の行動原理となっている。ナチュラルからのコーディネイターへの羨望や妬み、特別視する感情は作中ことあるごとに出てくる要素で、その意味ではアズラエルの劣等感は特別なものではないと言える。誰だって持って生まれた容姿や才能の差で劣等感を感じたことがあるだろう、その意味で、アズラエルは傲慢なのに憎み切れない存在だ。

一方、ザフトを仕切る議長・パトリック・ザラは、ナチュラルの核攻撃で妻を失った怒りからナチュラルを殲滅しようとする。こちらも、いかにも好戦的な政治家という印象だが、その根底にあるのは家族を失った悲しみである。

そして、そんなアズラエルとザラ議長を裏から操っていたのは、「仮面の男」ラウ・ル・クルーゼだ。彼は、コーディネイター研究のための資金調達方法として資本家の要請で作られたクローンであり、生まれつきテロメアが短いために短命で薬を飲まないと生きていけない。自分にだけはすべての人間を裁く権利があると豪語する彼は、コーディネイター作りの犠牲として生まれ、それをやらせたのはナチュラルの強欲な資本家であるという、どちらも憎む引き裂かれた存在だ。

クルーゼは所属自体はザフトだが、コーディネイターの味方ではない。かといってナチュラルの味方もしていない。まさに人類全てに敵対する存在だ。第三勢力として戦争そのものを止めようと努力するキラたちの正反対の立場であると言える。

ナチュラルと憎む者、コーディネイターを憎む者、そして人類全てを憎む者。その全てと向き合おうとするのが『ガンダムSEED』の物語だった。

異なる立場の主人公を描く『ガンダムSEED DESTINY』

続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』では、異なる複数の立場から戦争を描くことになるため、どの陣営の視点かによって敵役も変わっていく。

新主人公として登場するシン・アスカはザフト所属だ。彼はオーブ出身で、その中立の理念ゆえに家族が犠牲となったことからオーブを憎んでいる。そして、地球軍がザフト基地を襲撃しモビルスーツを奪取したことから、新しい仮面の男・ネオ・ロアノーク率いる部隊と戦い続けることになる。

ネオの部隊に属するステラという少女と出会い、心を通わせていくシン。だが、戦場で暴走状態となってしまった彼女は、キラに討たれる。これが原因でシンは、キラたちへ憎悪を募らせていく。

シン視点では、今度はキラたちが敵役ということになる。しかし、物語はシンたちだけの視点で展開しないのが『DESTINY』のユニークなところで、キラやアスランの視点でも同程度に重視されるのだ。

したがってキラたちから見ると、今度はシンが敵役となる。『DESTINY』ではキラたちは終始第三勢力として、戦争を止めようとする立場なのに対して、シンはずっとザフトにいて、新議長のギルバート・デュランダルの指示で地球軍やアークエンジェルと戦い続けていくことになる。物語の終盤では、やはりいかに戦争そのものを止めるかという主題が前景化してくるので、キラたちの行動を阻もうとする存在としてシンが描かれることが多くなる。

だが、『DESTINY』最後の敵としてキラたちに立ちはだかるのは、デュランダル議長である。彼は『SEED』時代のザラ議長とは異なり、ナチュラルへの過剰な憎しみや差別心もなく、平和を真に願う理知的な人物として登場する。争いのない世界を作ることを真剣に考え、彼は人類全ての遺伝子を操作して平和を実現する「デスティニープラン」を実行しようとする。このプランは遺伝子情報に基づき、個人の適性を見出し、それに沿った生き方をさせることで誰も不満を抱かない世界を創るというもので、人類全てを生まれ持った運命にしたがって生きさせることを目的にしたものだ。

だれも不満を抱かない世界なら争いは無くなるかもしれない。しかし、運命に従って生きるというのは、希望も自由もないものではないか。平和は自由の中で達成されるべきと考えるキラたちはこれに反発し、最後の決戦に挑むことになる。

デュランダルの目論見は阻止されるが、結果として世界から争いの火種は消えることなく、くすぶり続けることになった。キラは「それでも僕は戦い続ける」と宣言するものの、戦いは終わらず、弱い人が犠牲になる世界は温存されていると言える。デュランダル議長が掲げた世界とどちらの方が良かったのかはわからない。

『DESTINY』でキラたちが直面したのは、平和を願う者同士であっても考え方が異なれば、そこに争いが生まれてしまうということだ。この世界から争いを無くすのは本当に難しいことだと実感させられる。

私たち自身、争いの無くならない現実を生きているので、キラたちや彼らと対立する敵役、どちらにもシンパシーを感じてしまう。
最新作である劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』では、キラたちは何と戦うことになるのだろうか。


「敵キャラ列伝~彼らの美学はどこにある?」過去記事はコチラ
(C)創通・サンライズ

《杉本穂高》

特集

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]