「るろうに剣心」味方になりそうでならない、最期まで相対する斎藤一という最高の好敵手 | アニメ!アニメ!

「るろうに剣心」味方になりそうでならない、最期まで相対する斎藤一という最高の好敵手

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第36弾は、『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』より斎藤一の魅力に迫ります。

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『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』キービジュアル(C)和月伸宏/集英社・「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」製作委員会
『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』キービジュアル(C)和月伸宏/集英社・「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」製作委員会 全 5 枚 拡大写真
    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第36弾は、『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』より斎藤一の魅力に迫ります。

※以下の本文にて、本テーマの特性上、作品未視聴の方にとっては“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。

この7月から改めて新作テレビアニメが放送開始となった『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』には、魅力的な敵役が数多く登場する。すでにこの連載でも志々雄真実と雪代縁を取り上げている。

・悪の美学の集大成―「るろうに剣心」志々雄真実はどうしてこんなにカッコいいのか?

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この2人もそれぞれに個性的で、主人公・緋村剣心の強大な敵として立ちふさがった好敵手である。しかし、本作における剣心最大のライバルは志々雄でも縁でもなかったのではないだろうか。

やはりそれは、元新選組三番隊組長、斎藤一だろう。剣心とは異なる信念を持ち、最後まで相容れることなく対照的な生き方に殉じた彼は、『るろうに剣心』にとって欠くことのできない存在だった。

■斎藤一は“味方になる敵キャラ”の系譜ではない

斎藤一キャラクタービジュアル(C)和月伸宏/集英社・「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」製作委員会

本作における斎藤一の行動理念は「悪・即・斬」だ。この理念は主人公の「殺さず」の理念と対立している。その信念ゆえに、明治時代を流浪人として生き、殺生を否定する剣心を、斎藤は堕落であると感じている。幕末の頃は、同じような人斬りとして、敵対する勢力としての因縁だけでなく、どこかで親近感も持っていたかもしれない。そんな斎藤は、流浪人としての剣心を「見ているのは我慢ならん」と言い捨てる。

斎藤は、作中で剣心と引き分けになる最初のキャラクターでもあり、強さもさることながら、主人公の考えを相対化する存在として、貴重な存在だ。初登場時に、神谷道場に居座って、剣心を待ち構えることで、流浪人では、大切な人すら守れないことを突き付けるなど、「殺さず」という考えの甘さ(第一話で剣心本人が「甘っちょろい戯言」と言う通りでもある)を浮き彫りにする役割を担っているし、志々雄真実を倒すために一時共闘する中でも、2人はしばしば対立する。

少年マンガでは、敵対していた者同士が仲間になる展開はよくある。『DRAGON BALL』でサイヤ人のラディッツを倒すために孫悟空とピッコロが手を組む展開にワクワクした人は多いはずだ。その後、ピッコロは完全に仲間となっていくが、そういう展開はとても爽快感がある。

しかし、斎藤は最後まで剣心の仲間にはならなかった。当初、敵として登場しつつも、剣心と親友のような存在となる相楽佐之助とは対照的だ。剣心や佐之助は、斎藤に対して多少の仲間意識を感じている節もあるが、斎藤にはその意識はない。剣心をおとりに使うことに躊躇いもないし、佐之助に助言する時も、戦力として計算できるかもという打算が働いたに過ぎない。

極めつきは、連載終盤の行動だ。剣心への決闘の申し出に対する彼の意外な反応は、この2人は、人を斬るということに関して永遠に考え方が交わることはなく、平行線であり続けるのだろうなということを示唆している。

■「生き残ったほうの勝ち」という価値観が示すもの

『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』PVカット(C)和月伸宏/集英社・「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」製作委員会

主人公と仲間意識を持つことがないため、斎藤は剣心の「殺さず」の考えに影響されることもない。

『るろうに剣心』という作品の最も強い特徴は、主人公の武器「逆刃刀」に象徴される、「殺さず」の理念である。刃が逆になっているので、普通に刀を振るっても人を殺さずに済む逆刃刀を持って、主人公が弱い人々を守ることと、誰も殺さないことの両方を貫けるかが物語の中心であり、そのために過去、人斬りとしての罪に葛藤することにもなる。

一方の斎藤はそんな剣心の誓いをものともせず、「悪・即・斬」の生き方を貫いている。この考え方の対立が剣心と斎藤の間に絶妙な緊張感を生んでいるのだが、斎藤は命を軽んじているわけでは決してない。むしろ、死んでいった新選組の仲間や、任務最中に命を落とした警官たちの無念も引き受けて生きる、そのために悪を斬り続けるのだという強い覚悟があるのだ。

命を重んじる斎藤の姿勢は、究極の勝負は「生き残ったほうの勝ち」だという考えを持っている点にも現れている。史実でも、斎藤一は新選組の中でかなり長生きしたほうだが、剣客として重要な勝負を、「生き残る」ことで勝ちとする彼の価値観は、斎藤が剣心とは異なる方向から命の重みを感じていることの現れではないだろうか。

勝負においても、考え方においても斎藤一は、主人公の剣心に負けることがなかった、作中随一のキャラクターなのだ。


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(C)和月伸宏/集英社・「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」製作委員会

《杉本穂高》

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