日本では2019年に公開され、その革新的なビジュアルと感情を揺さぶるドラマでたちまち話題となったアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』。その続編『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が6月16日に公開されます。また2024年3月29日にはシリーズ第3弾『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』が全米公開される予定です。
前作『スパイダーマン:スパイダーバース』では一応の結末を迎えつつ、「スパイダーマン2099」ことミゲル・オハラの登場で新たな局面に移行した本作。今作でははたしてどのような物語が紡がれ、来年公開の第3弾にどう繋がるのか?
マルチバースを舞台にした壮大な本作について【ネタバレ一切なし】の簡易レビューをしつつ、アメコミのマルチバースについて、そしてマイルス人気の背景について紹介します。
◆『インフィニティ・ウォー』の再来か!?
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実は筆者、前作『スパイダーマン:スパイダーバース』にはそれほどハマらなかったのが正直なところです。
確かにビジュアルは革新的だった。ストーリーも親子がドア越しで会話するシーンにホロリときました。誰もが夢中になるのは当然すぎるほどの完成度です。しかし自分が観たかったのはあくまで「スパイダーバース」であり、マイルス・スパイダーマンのオリジンではありませんでした。
映画の元ネタとなった「スパイダーバース」はもともとアメコミ『スパイダーマン』シリーズの一大クロスオーバー作品。各マルチバースのスパイダーマンたちが何者かによって次々と血祭りにあげられる事件が発生し、生き残ったスパイダーマンたちが時空を越えて団結するという物語です。東映スパイダーマンとレオパルドンが登場することでも話題になりましたが、コミック・アニメ・ゲーム・実写・その他すべてのスパイダーマンが一堂に会するストーリーラインは夢のようでした。それを期待していたため素直に視聴することができなかったのです。
しかし今作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は、その「スパイダーバース」要素を含むあらゆる「面白さ」がギュギュッと詰まった、まさに理想的な作品! しかもビジュアルは前作よりもコンセプトが明確になっており画面の隅々まで「何か監督の意図が隠れているのではないか」と探したくなりますし、ストーリーは元から折り紙付きです。
各キャラクターがどのようなドラマを持っていたのか、何に立ち向かおうとしていたのか、そういったドラマのひとつひとつを予備知識なしで体感することでよりキャラクターと世界観に感情移入できる。その意味では、「実はこうだった!」という展開的なネタバレはもちろん、あらゆる描写がネタバレになってしまう……。そんな作品だと感じました。
劇場に行くならネタバレを踏むリスクがもっとも少ない当日朝イチが理想でしょう。それほどまでにキャラクターたちが紡ぐ物語は素晴らしいものでした。
そしてすでに発表になっている次回『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』。今回の物語が次回作にどう繋がるのか? いいところで終わるのか、それともきっちり終わって新たな物語が描かれるのか? ひとつ言えることは『インフィニティ・ウォー』から『エンドゲーム』への空白期間で焦らされたような体験が再び味わえることです。めちゃめちゃ楽しみです。
その意味でも本作は「みんなと話したくなる映画」であり、だからこそ可能な限り早い鑑賞をオススメします。
◆日本では生まれなかっただろう「マルチバース」のアメコミ事情
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MCUがきっかけで日本でも定着した「マルチバース」ですが、その成り立ちを遡っていくとただのパラレルワールド設定ではない、アメコミならではの事情が見えてきます。
「世界初のコスチュームヒーロー」と言われるスーパーマンが誕生した1938年当時、各マンガ作品は出版社の著作物として扱われてきました。しかもアメコミは脚本や作画などチームで執筆しており、原作者が担当を離れても別のクリエイターが作品を引き継ぎます。つまり作品を生む環境がアニメの制作現場と同じなのです。
そのためシャーロック・ホームズと共演したり、引退後のエピソードが描かれたりするなど、現在の設定とは結びつかないエピソードも自由に描かれるようになりました。それらが「マルチバース」のはじまりです。原作者がすべてをコントロールする日本とは異なる制作事情ゆえの設定です。
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マイルスが誕生したのも別のマルチバースでの出来事でした。
スパイダーマンが誕生したのは1962年のこと。2002年にサム・ライミ監督の実写映画が公開されるわけですが、マーベル・コミックとしてはそれを契機に新しいファンを獲得したいと考えたようです。そのため『ジ・アメイジング・スパイダーマン』から続く伝統的なコミックシリーズと並行する形で、新規層のために新たなスパイダーマンの物語『アルティメット・スパイダーマン』をスタートさせました。
もちろん主人公は高校生のピーター・パーカー。誕生編からはじまり、グリーンゴブリンら名物ヴィランも現代風に生まれ変わってアップデートしたストーリーを繰り広げます。そして2011年にそのユニバースのピーターが死亡してマイルスが跡を継ぐことになったのです。
マイルスはスパイダーマンの歴史において画期的な存在だと言えるでしょう。アメコミヒーローといえば2代目・3代目があたり前の世界です。しかしスパイダーマンはその人気の高さから長いことピーターが「唯一のスパイダーマン」として活躍していました。
そのためバージョン違いはほぼピーターのコスチューム違いのみ。
(ただしコミックの『スパイダーバース』でコスチューム違いのスパイダ―マンを登場させるにあたり、「別ユニバースのスパイダーマン」という別人設定を加える必要が出てきたため、コスチュームを見ただけではどのスパイダーマンか分かりづらくなってしまいました)
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90年代の『クローンサーガ』というシリーズで「2代目のスパイダーマン」ことベン・ライリーが登場し、ピーターに代わって主人公を引き継いだこともありました。しかし「ずっと活躍してきたピーターが実はクローンで、ライリーが本物のピーターだった」というちゃぶ台をひっくり返すような跡付け設定のせいで大炎上。長いこと黒歴史扱いされてしまいます。
もちろんスパイダーガール、ヴェノム、スパイダーマン2099のような派生キャラクターは存在しますが、それらはいずれもスパイダーマンとは別のキャラクターという認識であるため、「スパイダーマンといえばピーターだけ」だったのです。
マイルスは新しいファンの後押しもあり、ようやく軌道に乗った「ピーター以外のスパイダーマン」だと言えるでしょう。リアルタイムで彼とともに育ったファンも多いはず。そんな彼の初主演アニメだったこともあり『スパイダーマン:スパイダーバース』は注目を浴び、そして実力で高い評価を得ました。
『スパイダーマン』といえば実写版も人気で4作目の企画が進行中です。それと歩幅を合わせるようにして並び立つアニメ版『スパイダーバース』シリーズ。『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』でスパイダーマンのことをもっと好きになった方は、この機会にコミックやその他アニメ作品なども試してみてはいかがでしょうか。個人的に好きなのは、打ち切りアニメである『スパイダーマン・アンリミテッド』です。
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6月16日(金)全国の映画館で公開!!
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
【STAFF】監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン脚脚本:フィル・ロード&クリストファー・ミラー、デヴィッド・キャラハム
【CAST】シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、ジェイク・ジョンソン、イッサ・レイ、ジェイソン・シュワルツマン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、
ルナ・ローレン・ベレス、ヨーマ・タコンヌ、オスカー・アイザック
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