【稀代の悪役】「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は、威厳とお茶目さが両立したクッパの魅力全開! | アニメ!アニメ!

【稀代の悪役】「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は、威厳とお茶目さが両立したクッパの魅力全開!

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第35弾は、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』よりクッパの魅力に迫ります。

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『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(C)2022 Nintendo and Universal Studios
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(C)2022 Nintendo and Universal Studios 全 8 枚 拡大写真
    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第35弾は、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』よりクッパの魅力に迫ります。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が世界中で大ヒットしている。

『アナと雪の女王』すら抜いて、アニメーション映画の歴代興行収入2位につけている。この結果は、世界中でマリオの知名度がいかの大きいのかを改めて証明したことになるだろう。

この映画の主人公はもちろんマリオで、もちろん悪役のお馴染みのクッパである。これだけの大ヒットを生み出したということは、クッパは、日本が生んだ悪役として最も知名度が高いということかもしれない。

クッパは、マリオシリーズの人気にどう貢献しているか。今回は、そんなクッパの魅力を考えてみたい。

■物語を始める役割を負ったクッパ

『スーパーマリオ』のゲームでは、まずクッパがピーチ姫をさらうことで物語がスタートする。主人公のマリオはピーチ姫を助けるために幾多の難関を乗り越えていき、プレイヤーはそんなマリオを操作して楽しむ。ゲームシリーズは多彩な展開をしているが、基本的にクッパはヒロインをさらう役割であり、ある意味で物語を始める役割を負っている。

今回の映画では、囚われの身となるのはピーチ姫ではなくマリオの弟ルイージだ。主人公のマリオはルイージを救い出すため、そしてピーチ姫はキノコ王国を守るためにクッパの軍団と戦うことになる。囚われ役がピーチ姫からルイージに代わっているが(これはヒロイン交代を意味するのだろうか)、ゲーム同様クッパは捕える役割である。物語の構造がゲーム原作から踏襲されており、原作がきちんと尊重されていることがよくわかる。

クッパはカメ王国の支配者であり、理不尽で横暴な存在だ。欲しいものは力ずくで奪い取るという典型的な悪役として行動する。原作ゲームでも繰り返されてきた行動を、映画でも行う。アクションゲームである原作ゲームは、あまり複雑な筋立てにせず、むしろ徹底的にシンプルなほうが良い。それゆえにクッパもシンプルな動機で行動し、シンプルな悪役として振舞っている。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

そんな尊大な悪役でありながら、クッパには不思議とチャーミングな一面が見える時がある。この映画は親子2世代で映画館を訪れる人も多く、老若男女に向けた作品でもあるため、純粋悪みたいなキャラクターは出しにくいというのも理由だろうが、原作ゲームにおいてもマリオと協力する展開がある作品も存在する。

今回のクッパは色々な側面を見せてくれる。ピーチ姫に愛を告げるためにカメック相手に告白の練習をしていたり、ピアノの弾き語りで愛を表現してみたり。歌もピアノも見事な腕前でいつ練習していたのだろう。ピアノが趣味というのはなかなか高尚というか、上品だ。インテリに見せたい欲があるのだろうか。一人称がワガハイであるのは原作準拠だが、俺とは俺様でもなく「ワガハイ」なのは、ちょっと知的な印象を与えようと努力しているようにも見える。

映画のクッパは、ピーチ姫への恋心は一途で純粋な部分もある。しかし、その想いは一方通行でもある。恋愛経験が豊富じゃない人の恋路という印象で、ちょっとうぶなのだ。そんな面が垣間見えるクッパは、やはり尊大で理不尽だけど憎み切れない存在だ。

『スーパーマリオ』というコンテンツの人気は誰もが安心して楽しめるという点にあるが、悪役であるクッパの奇妙な親しみやすさがそれを支えているのだろう。

■抜群なクッパのキャラクターデザイン

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

そんなクッパだが、デザイン的にも非常に優れている。

映画のデザインは原作準拠だが、クッパをはじめとするマリオのキャラクターデザインは宮本茂氏のスケッチから、東映動画出身の小田部洋一氏が手掛けたものだ。悪役であるクッパが単純に憎らしい印象を与えず愛嬌があって親しみやすいのも、このデザインの力が非常に大きいだろう。

クッパは外見からして悪役だと直感的にわかる。大きな体躯を持ち、甲羅のトゲが鋭さと恐ろしさを感じさせる。吊り上がった目と火も吹ける大きな口は一呑みにされてしまいそうな恐怖を与える。しかし、前傾姿勢のせいか、全体的なフォルムが丸みを帯びていて可愛さもキープしている。緑と黄色のメインカラーもポップで毒々しい雰囲気は全くない(ちなみに初代ファミコンのパッケージではクッパのデザインがカバのような青い身体だった)。クッパのデザインには威厳と可愛さが同居してる。この絶妙なデザインが、ワールドワイドに愛される理由の一端だろう。

改めて、大きなスクリーンで鑑賞すると、他のキャラクターと比べた時のクッパの巨大さが際立つ。冒頭のペンギン王国のペンギンたちと比べると一目瞭然だ。ほとんどのキャラクターにとってクッパは見上げる存在で、クッパからすれば他の連中は見下ろす対象なのだ。一目で圧倒的な力を持った支配者とわかる見事なデザインで、その巨躯からお茶目な部分が垣間見えるギャップでさらに魅力が増す仕掛けになっている。

何度マリオにやられてもある程度の威厳を失わず、なおかつお茶目でファンには愛される。シンプルだからこそクッパという悪役は奥が深い。世界中で愛される作品の悪役として、デザインも設定もこれほど見事なキャラクターはなかなかお目にかかれない。


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(C)2022 Nintendo and Universal Studios

《杉本穂高》

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