NFTで個人アニメーターが売上3,000万円を記録。Web3をアニメにいかに活用できるか先駆者たちが議論【IMART 2022レポート】 | アニメ!アニメ!

NFTで個人アニメーターが売上3,000万円を記録。Web3をアニメにいかに活用できるか先駆者たちが議論【IMART 2022レポート】

マンガ・アニメの未来をテーマにした業界カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022が、10月21日から23日の3日間にかけて開催された。

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アニメ×Web3にどんな可能性があるのか?IMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022
アニメ×Web3にどんな可能性があるのか?IMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022 全 17 枚 拡大写真

マンガ・アニメの未来をテーマにした業界カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022が、10月21日から23日の3日間にかけて開催された。

マンガ・アニメ業界の先端で活躍するイノベーターや実務家を一同に集めた講演が多数行われる同カンファレンス。1日目セッションでは、近年バズワードとなっている「Web3」がアニメ業界にとってどんな可能性があるかを議論する「アニメ×Web3にどんな可能性があるのか?」のセッションが開催された。メタバースやNFTなどのキーワードが一般的になってきたが、その熱狂は落ち着き始めているようにも見える現在、先駆者として様々な試みをしてきた3名が活発に議論を展開した。

登壇者は、アーチ株式会社代表取締役/株式会社グラフィニカ代表取締役社長 /株式会社YAMATOWORKS取締役/株式会社ゆめ太カンパニー取締役を兼任する平澤直氏アニメーターとして単独で個展を開きNFTアートの販売で3,145万円を売り上げたGOZ氏、株式会社Onakama代表取締役の浜中良氏の3名。モデレーターはジャーナリストでNPO法人ANiC理事長のまつもとあつし氏が務めた。

Web3という新しい潮流は様々な要素がある。そのうちの一つがDAO(分散型自律組織)と呼ばれる組織体系だ。DAOとは、特定のリーダーのような中央集権的な権限を持つ存在がおらず、参加者全員が自律的かつ平等な立場で運営される組織を指す。

浜中良(株式会社Onakama代表取締役)

セッションは浜中氏のプレゼンから始まった。同氏は、DAO的な制作体制から生まれるアニメ制作を目指す「アニメ・ゲームジャム」を開催した経験を持つ。一週間でアニメを制作するハッカソンである「アニメ・ゲームジャム」は、ゲームエンジンのUnityを使い、コミュニティベースでのアニメ作りを実践している。Discordでチームメンバーを分け、全く素人の状態から一週間できちんとアニメの形にすることができるようになったという。

DAO的な分散型組織とアニメ制作は相性がいいのだろうか。商業アニメ制作会社の代表を務める平澤氏は、コロナ禍でスタジオに集まりにくくなったアニメ現場と重ねてコメントしてくれた。オンライン上で会社のサーバにリモートでアクセスしながら作業する状況下では、新人指導が難しく、多くの課題を感じたという。コロナが収まってきた今、みんながスタジオに戻ってきたわけではなく、ある程度自由な環境で働き方を模索する人も増え、組織はそういう人材に対してどんなメリットを提示できるか、組織の意義が変わってきていると感じているそうだ。

アニメーターのGOZ氏は、自身は一匹狼気質なので、海外にいても仕事ができるような環境にしてきた、言葉の壁さえ乗り越えられれば外国の仕事もできるのでコロナでも困ることがなかったという。そうやってクリエイターが自主的に学習していく姿勢がないと生き残れない時代になってきたと語る。

浜中氏は、オンラインでの育成について、Blenderの講座をオンラインで行った経験から、コミュニティがあることが大事だと語った。深く学ぶという点ではオフラインが勝るが、オンラインの長所は全国から濃い人材が集まることで、そういうコミュニティから学べることも多いという。

続いて、NFTの可能性についてGOZ氏がプレゼンした。
NFTはここ数年、過剰な期待が先行していたような状況にあったが、ここのところそのバブルが崩壊しているように見える。NFTアート販売で先駆的な試みを実践してきたGOZ氏がその可能性について、自身の体験から話してくれた。

GOZ(アニメーター)

GOZ氏は、2021年「アニメーションを、飾る」をテーマに、銀座で個展を開催。NFTアニメーション9作品の成約で3,145万円の売上を記録した。ループアニメーションを飾るというスタイルのアートをモニターごと販売する試みなどを行ったという。

個人のアニメーターが3,000万円以上の売上を叩き出せるのは画期的なことだ。モデレーターのまつもと氏は、GOZ氏の試みはライセンスビジネスの新たな潮流かもしれないという。ライセンスビジネスは基本的にマスの消費者に対して商品を多く販売することが基本だが、GOZ氏はNFTを用いて一点ものとしてのIP活用の可能性を示したと指摘。

平澤氏も、この試みはこれからもチャレンジすべきものだという。アニメ的なルックが世界的に価値を認められてきているので、アートの分野でもアニメルックで勝負可能になっていると語る。

まつもと氏は、NFTによってファンが様々なプロジェクトに参加可能になるという。これまでファンは、基本的に完成作品にお金を出すだけだったが、NFTホルダーは長期的にIPへの関与が可能になる。平澤氏も運用が上手くいけば、利益還元も可能なので作品への投資もできるようになり、アニメ制作の見えていなかった部分が見えやすくなるだろうと語った。

浜中氏はコミュニティ運営をしている観点から、ファン参加型の発想はクラウドファンディングの時にもあり、NFTとクラウドファンディングはそれほど変わらないのではないかと疑問を挟んだ。

平澤氏は一部それを認めつつ、いきなりNFTを使ったアニメ制作が急成長することはないだろうと回答。投機的要素がどうしても含まれるので、情報開示しないと炎上するリスクもあると語る。「結局のところ、コミュニティの質が問われることになる」とまつもと氏はいう。

続いて、まつもと氏からNFTプラットフォームはアニメ業界に広がるかの問いに対し、GOZ氏は、クラウドファンディングよりもNFTは持続性がありつながりを作りやすいが、マネタイズの主流になるには時間がかかると思うと所感を述べた。

平澤氏は、実業の部分でNFTに切り替わってほしいのは、利益の配分だと発言。NFTは半自動的に利益配分を計算できるので、クリエイターへの報酬計算を自動化できると指摘。GOZ氏も、クリエイター側にNFTを学んでほしいと語る。

まつもと氏は、アーカイブの観点でもNFTは活用できるという。アニメ制作には原画などの中間成果物が多く生まれては捨てられてしまう。GOZ氏は、自分たちが一番気にしていたことはまさにそこで、これまで捨てられてきた原画をNFTで流通させ、きちんと管理できれば大きな意義があると話した。

最後に、3名から今後のアニメ業界の展望が語られた。
平澤氏は、組織経営の観点で注目しているのはゲームエンジンとAIだという。ここ数カ月の画像生成AIの急成長に触れ、これはいずれ動画にも波及するから、新常識としてAIをツールとして使う前提でどんなクリエイションができるのか研究しているそうだ。

GOZ氏は、まだNFTという単語を知らないクリエイターもいっぱいいるので、まずは知ってほしいと語る。思想の部分でNFTをどう考えるかは個人の責任になるので、クリエイターはそこも含めて学ぶ必要があるとも加えた。

浜中氏は、(Web3について)様々なキーワードは出ているが、それらをどう跨いでいくのかが大事、新技術がアニメにどう活用できるのかをコミュニティで情報交換できる場が重要で、そういう場所をまとめられる人材の重要性が高まるだろうと述べ、本セッションは幕を閉じた。

《杉本穂高》

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