HJ文庫にて刊行中のライトノベル『英雄王、武を極めるため転生す~そして、世界最強の見習い騎士♀~』がTVアニメ化。2023年1月9日よりテレビ東京、BS テレ東、AT-Xにて放送されている。本作は自由を望んだ英雄王が、美少女(イングリス)に転生して最強騎士無双を繰り広げる異世界ファンタジー。イングリスは、幼馴染みであるラフィニアの従騎士として修練を積むために、王立騎士アカデミーへの入学を目指していく。
今回は、ラフィニアの声を担当する加隈亜衣さんにインタビュー。イングリスやラフィニアの魅力のほか、声優活動をはじめてから10年が経ったいまだからこそ感じる芝居の難しさについてお話を聞いた。
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[取材・文:M.TOKU 撮影:吉野庫之介]
――原作・シナリオを読んだときの感想を教えてください。
さまざまな転生ものの作品があると思いますが、人のために人生を全うしたご褒美としておじいさんが転生するというのは、個人的にあまり触れたことがなかったので新鮮でした。シナリオを読んでいるとき、イングリスに対して「いい人生を送ってね」という気持ちがありつつも、中身はおじいさんと考えるとちょっと複雑でしたね(笑)。こういった面白さは、本作の魅力でもあると思います。
――続けて、ご自身が演じるラフィニアの印象を教えてください。
女の子も憧れるようなかわいらしさを持っている、とても素直な子だと思いました。こういう友達がいたら、毎日が楽しくなりそうです。
――声優のお仕事では、ラフィニアのようにご自身の年齢よりも若い、幼い役を演じる機会もあります。そういったキャラクターを演じる際、年齢感などは意識されますか?
「この年齢における声・芝居はこれ」っていう絶対的な基準ってないんですよね。例えば、作品の世界観やその役の立場などでも芝居は異なります。本作ではイングリスとラフィニアが5歳、12歳、15歳と成長していく姿が描かれるのですが、同い年であっても、英雄王のおじいさんから転生して美少女になったイングリスと比べると、ラフィニアはまだ幼さがあるはずなんです。相対的に見ると、ラフィニアは孫っぽく見えると思うんですよね。演じるうえでも孫っぽい存在というのは意識していました。
――年齢そのものというよりも、キャラクターの性格や関係性を意識している。
そうですね。そこをベースに差があった方がいいのかないほうがいいのか、成長を見せたほうがいいのか見せない方がいいのかと考えます。キャラクターがビジュアル的に変わるかどうかでも異なりますね。本作は年齢を追うごとにキャラクターのビジュアルも変化するので、やはり成長しているところは芝居でも感じてもらえるようにしたほうがいいと思いながら演じていました。
――ラフィニアを演じるうえで、幼さと成長する姿を両立させるのは難しかった?
イングリスという指針がいたこともあって、バランスは考えやすかったですね。イングリスは一度人生を全うしているので、前世で体験していることも多いんです。対してラフィニアは初めて経験することがいっぱい。そうなると、例えばバトルでは、訓練とは違い命がけであることへの恐怖や緊張を感じるはずなんです。その経験を積み重ねていくうちに、ラフィニアも少しずつ自信をつけていったり、得意・苦手を掴んでいったりする。そういう経験を積んでいくことでの成長を見せられたらと思いながら、演じていました。
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――加隈さんが声優活動を始めてから10年が経ちました。デビューした頃と比べて、自身の芝居が上達したと感じていますか。
うーん、悩みや葛藤が増えましたね。
――えっ!?
私は声優として活動するまでお芝居に触れる機会がほぼなかったので、現場で先輩の背中を見たり、色々なアドバイスをいただいたりするなかで、「そういう考えもあるんだ、そういう視点もあるんだ」という引き出しが増えていったんです。最初はひとつの見方しかできなかったものが1つ、2つ、3つと増えていくなかで、アプローチの仕方も色々とあると学んでいきました。その数が増えることによって、むしろ悩むことも多くなっています。
――経験を積むごとに「こういうキャラクターはこう演じればいい」といったパターンを掴めるようなものじゃない。
そうなんです。視聴者さんの中には「あぁ、このキャラクターでこのパターンの声・芝居ね」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、自分的にはその子の見え方や、その子がどういう目で世界を見ているのかを考えて演じています。私も以前は経験を積むごとにどんどん仕事の効率もよくなるんだろうなと思っていました。ただ、実際はむしろ先輩方のほうが色々と考えて役や作品に向き合われていると感じるんです。まだまだ先輩の足元には及ばない私でも、お芝居の難しさや複雑な世界だということを痛感していますね。
――逆に言えば、アプローチの仕方がまだそれほど多くない若手だからこそ出せる芝居もある?
そうかもしれないですね。迷いがない分、そのアプローチに全力を注げる側面もあるかもしれないです。心で思っていることが芝居でにじみ出る部分もあると思いますし。こんな悩んでいる私に合う役なんてあるのかと考えちゃうこともあります。アプローチの仕方が増えたからと言って、本番で出せなければ意味ないですし。ときには自分のエゴになってしまい、間違った引き出しから芝居をしてしまうかもしれません。それでもお芝居って、アプローチひとつで作品やキャラクターの魅力を1個プラスできるかもしれないんです。私はその可能性を求め続けていきたいと思っています。
――貴重なお話ありがとうございました。本作は英雄王が転生するお話です。加隈さんは英雄ってどんな存在だと思いますか?
自分に余裕がないときってあるじゃないですか。そういうときに心に寄り添って言葉ひとつでもかけてくれる人って、英雄だなと思うんです。私も年末にかけてちょっと余裕がないときが続いたのですが、友達の声優さんが「ちょっと大変そうだね、ここまで追い詰められているのは見たことない」ってすごく心配してくれて。しかも「これ着てちゃんと寝てね」という意味を込めてか、LINEギフトでパジャマを送ってくれたんですよ。その言葉・行動で心が救われました。同じように言葉をかけてくださる方が最近はたくさんいます。いつかみんなに恩返しがしたいですね。
――気持ちを察して、行動にまで移せる人は確かに英雄かもしれません。
「大丈夫?」って一言声をかけてくれるだけでも嬉しいんです。心配したり思ったりしてくれるだけでもありがたいのですが、自分が気づけないくらい余裕がないときに言葉をかけてくれたら、救われた気持ちになります。ときには行き違いや、やりすぎで上手くいかないときもあるかもしれませんが、行動できる・できないっていうのは、すごく大きな差だと思いますね。
――最後に、改めて本作の推しポイントを語っていただければと思います。
本作でしか使われないような用語や設定がたくさん登場します。この世界ならではの要素を楽しんでください。バトルシーンも見どころですし、日常パートでの等身大の女の子たちのやり取りもかわいい! 本当に色々な要素が詰まった作品ですので、余すことなく堪能してもらえたらと思います。
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『英雄王、武を極めるため転生す~そして、世界最強の見習い騎士♀~』作品情報
2023年1月9日(月)深夜1時45分よちテレビ東京、BSテレ東、AT-Xにて放送中
<スタッフ>
原作:ハヤケン(HJ 文庫/ホビージャパン)
キャラクター原案:Nagu
漫画:くろむら基人(コミックファイア連載/HJ コミックス)
監督:葛谷直行 シリーズ構成:広田光毅
キャラクターデザイン:大藤玲一郎
サブキャラデザイン:宮川知子、松田りおん、福井麻記
総作画監督:宮川知子、野本正幸、松田りおん、大藤玲一郎
色彩設計:西栄子
美術監督:合六弘、里見篤、マメ
撮影監督:武原健二
CG ディレクター:沼尻勇人
編集:三宅圭貴
魔石獣デザイン:久我嘉輝
音楽:東大路憲太
音楽制作:日本コロムビア
音響監督:郷文裕貴
音響効果:高梨絵美
音響制作:ビットグルーヴプロモーション
アニメーション制作:スタジオコメット
<キャスト>
イングリス・ユークス:鬼頭明里
ラフィニア・ビルフォード:加隈亜衣
レオーネ・オルファー:楠木ともり
リーゼロッテ・アールシア:倉持若菜
エリス:白石晴香
システィア・ルージュ:喜多村英梨
リップル:大空直美
ラファエル・ビルフォード:田丸篤志
レオン・オルファー:中村悠一
黒仮面の男:小西克幸
老王イングリス:麦人
(C)ハヤケン・ホビージャパン/『英雄王、武を極めるため転生す』製作委員会