「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」“ディズニー初参加”の日本人アニメーターが経験したこととは?【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」“ディズニー初参加”の日本人アニメーターが経験したこととは?【インタビュー】

ディズニー・アニメーション最新作『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』が、2022年11月23日に公開を迎える。アニメ!アニメ!では公開を記念して、本作に参加した日本人アニメーターのヨーヘイ・コイケ氏にインタビューを実施した。

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『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(C)2022 Disney. All Rights Reserved.
『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(C)2022 Disney. All Rights Reserved. 全 16 枚 拡大写真

ディズニー・アニメーション最新作『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』が、2022年11月23日に公開を迎える。『ベイマックス』などで知られるドン・ホール監督が新たに贈る本作は、アトラクションに乗っているかのようなワクワクとスケール感あふれる壮大な冒険、そしてかけがえのない家族の絆を描いたアクション・アドベンチャー超大作だ。

コイケヨーヘイ/『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』インタビュー

アニメ!アニメ!では公開を記念して、そんな本作に参加した日本人アニメーターのヨーヘイ・コイケ氏にインタビューを実施。“初めてのディズニー作品”にして“初めての長編映画”だったというヨーヘイ氏に、アニメーターとして製作時に苦労したシーンや注目してほしいシーン、世界的スタジオであるディズニーの現場で経験したこと、そしてご自身のことなどについてお話を伺った。

■あらすじ

物語の舞台となるのは、人々が平和に暮らす、美しく豊かな国アヴァロニア。ある日、この国を支える重要なエネルギー源である植物の“パンド”が次々と力を失ったことで、世界は崩壊の危機にさらされてしまう。
この危機を救えるのは、何十年も前に行方不明となった伝説の冒険家イェーガーの息子であり、父へのコンプレックスから冒険嫌いとなった農夫サーチャーただひとりだった。

サーチャーはアヴァロニアの大統領カリストや、愛する妻メリディアンと息子のイーサン、さらに愛犬レジェンドらとともに探査船に乗りこみ、地底に広がる”もうひとつの世界“へと足を踏み入れる。そこは、水や大地が生き物のように変幻自在に動き回り、キラキラと光を放つスライムのような生命体や奇妙な形をしたクリーチャーが次々と出現する、見たことがないような不思議な世界だった。
この謎に包まれた未知の世界は、いったい何なのか。そして、タイムリミットが迫る中、想像を超える冒険の先でサーチャーたちを待ち受けていた“大きな秘密”とは……?

■「もう触手の出てくるショットはやらなくていいかな……」本作は“全体的にぷにぷにした映画”

――ディズニー作品に初参加した感想を教えてください。
非常に光栄ですね。周りにとんでもなく凄い人たちが沢山いるのでその中に囲まれて、一緒に仕事できることによって自分も学ぶことが沢山ありますし。この作品を早くスクリーンで観られるということもとても光栄に思っています。

――コイケさんにとって、本作はどんな作品ですか?
今回、初めて関わった長編映画なんですね。それまでは短編映画を作る仕事をしていたので、やっている最中は本当にガムシャラに頑張って作業をしていました。スクリーンで観て初めて「ああ、すごく良い作品に仕上がっているな」とオーディエンスと同じ視点で感じられたので、そこはすごく新鮮でした。

――初めて見た世界観でした。感触が楽しめる映画だなっていう……。
感触! 面白い観点ですね! 確かに全体的にぷにぷにした映画ですね。チャレンジングで新しい試みのある映画だなと思っています。

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(C)2022 Disney. All Rights Reserved.

――本作でコイケさんが手掛けられたのはどのパートですか?
メインに手掛けたのは、トレーラーにも出ているんですが1体につき10本の触手があるモンスターがいるんですけど、そのモンスターがドカっと沢山出てくるシーンですね。
それを5匹動かしながら、その5匹のモンスターの真ん中をメインのキャラクターたちが駆け抜けて崖から飛び降りるというショットを担当しました。そこは本当に大変なショットでした。

――どれくらいの期間で作られたんですか?
ハッキリは覚えていませんが、2か月くらいはかかったんじゃないですかね。

――製作する上で、難しかったポイントはありますか?
担当したシーンによって難しさは違うと思うんですけど、僕の場合は触手の10本あるキャラクターがとにかく沢山出てくるショットを担当したので、あのシーンを終えた時には「もう触手の出てくるショットはやらなくていいかな……」と思えるくらい、膨大な数をやったんですよね。
「次は人間だけのショットをやらせてもらえませんか?」とお願いしようと思った時に、またさらに触手が出てきて、取っ組み合いになるっている物凄いショットを渡されまして。その時は逆に「これはやってやろう!」という気になりましたね。何とかこのシーンをいいものに仕上げようと。もう逆に言ったらここまでこの触手のシーンをやっている人いないだろうと。
ある意味、貢献じゃないですけど。誰しもが避けて通りたいような複雑なショットをここまで任されているという意味では「じゃあその期待に応えたいな」っていう気持ちにさせてもらえたので、最終的には本当にやって良かったなと思いました。

――自分がどの部分を担当するか分からないまま作品はスタートするものなんですか?
最初はそうですね。担当になったら、その画面に映っているシーンはその一人が大体全部やるんですよ。後ろの方の小さく動いているキャラクターは、クラウドアニメーターといって別のアニメーターの人たちが担当してくれるんですけど。大部分、目の前に映っているキャラクターたちは、一人のアニメーターが全部担当します。
1秒間が24コマに分かれているので、1秒につき24コマ全部動かさなきゃいけない。もう本当に途方もない作業量になってくるんですね。そこに触手が10本で5体そのモンスターがいると50本の触手があることになるので、それを1秒につき24コマづつ全部動かすっていう状態になってきます。そうすると本当にもう「えっ」てなるくらいの大変さなので、それがとにかく印象に残っていますね……。

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(C)2022 Disney. All Rights Reserved.

――自分が触手を担当すると思わないところから始まるんですもんね……。
その凄く頑張った後に、またそのショットを渡された時に「あ、これは期待してもらえている」と、ある意味「やってくれるだろうと思ってわたされているな」と暗黙の了解を感じたんですよね。逆にそういった意味では期待してもらえているのかなと思ったんで、じゃあいい形に仕上げてやろうと。
最終的に「凄く難しいショットを頑張ってくれたから、ご褒美にアクティングのショット(演技のショット)をあげるね」って言ってくれたので、「あ、やっぱり難しいと思ってたんだな」と最後に分かりましたけど。(笑)

――注目してほしいシーンは?
僕は、日本で育ったというのもあって、アニメーションの作り方はアメリカで学んだけれども、一緒に育ったのは日本のアニメというのが僕のキャリアになるんですよね。
なので、日本のアニメの良さっていうのも多少はやっぱりDNAに組み込まれていると思っていて。カッコいいアクションショットとかは多く担当させて頂いたので、その辺はもし「カッコよく出来ているアクションショットだな」と思ったら、僕がやっているところかもしれないですね!(笑)

――日本のアニメの良さがDNAに組み込まれている、ですか。
僕は『エヴァンゲリオン』で育った人間なので。『エヴァ』は本当にショックを受けた作品でした。あと、宮崎駿映画は子どものころからVHSで繰り返し見ていたので、自分の中で大きなものになっています。
子どものころからアニメはよく見ていましたが、アメリカに来てさらに見るようになりました。やっぱり『エヴァンゲリオン』、『ガンダム』は自分のDNAに刻まれているような作品群です。

■「大きな会社なのにアーティストをちゃんと信用してくれている」“ディズニーで働く”ことについて

――今回アニメーターとして初参加されましたが、好きなディズニー作品は?
『塔の上のラプンツェル』です。
3Dアニメーションのクオリティがディズニーアニメーションの中でも爆発的に良かったと感じています。あの作品から学んだことは凄く多いです。コマ送りで再生して、どうやってあのアニメーションを作っているか、アメリカで学生をしていた時に見させて頂いて、本当に教科書のように繰り返し見た作品で、とても思い入れがあります。
あとはやはり『BIG HERO 6』(『ベイマックス』の原題)が、日本人としてはサンフランシスコに居たので2つの故郷が両方入っているという意味で、凄く好きです。

――そんなディズニーで働いて驚いたことなどを教えてください。
上下関係があまりないっていうことには驚きました。監督も普通に社内ですれ違ったらしゃべります。スクリーニングで映画を観た後も、ドン・ホール監督と「いい映画だったよね!」という話をして監督も「よかったー!」と喜んでくれていて。そういう会話って普通ありえないというか……。
監督とアニメーターという関係ですが、一緒に作業して頑張った仲間という感覚にさせてくれるというのは、ディズニーの懐の深さだなと感じました。

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(C)2022 Disney. All Rights Reserved.

――本作に携わることとなった経緯は?
友人に紹介されてディズニーに来ました。それが一番大きな経緯だと思います。入ってみて自分が『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』に関わると初めて知りました。『BIG HERO 6』とか非常に大好きだったので、ドン・ホール監督と作品を作れた、関わることができたということは僕にとっては嬉しいことでした。
その偶然が『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』だったわけですが、そういう意味では思い入れのある作品で関われてよかったなと思う作品でした。

――これまではどういったお仕事をされてきたか教えてください。
前まではブリザード・エンタテインメントという会社でシネマティックという部署で働いていたんですね。ゲーム会社なんですけど、珍しく短編映画だけを作るビルディング(建物)があるんですよ。そこの精鋭チームにいてキャラクター、アニメーターをやっていました。
その時は、キャラクターにフォーカスした7分位のショートフィルムをたくさん作っていたので、今やっていることと内容としてはあまり変わっていなくて、ただ短いだけっていう感じでした。

――尺が長いと短いとでは何か違いますか?
力の入れ方は変わりません。自分のやっているセクションだけで観ていると、そんなに前後関係は観ていないですけど映画全体を通して観るっていうことが頻繁に無いんですよね。
だからスクリーニングに行って、最終的に全部を通して観た時に「ああ、こういう風に仕上がったんだ」と改めてオーディエンス目線で観れるというか。そこは長編映画ならではだなと思いました。

――製作中の印象的なエピソードがあれば教えてください。
作品を作っている中で、「このシーンは角度的に変えた方がオーディエンスから見やすいんじゃないか?」など、僕の中で思った発案を直接、監督に相談できたんですね。それに対して監督が柔軟に耳を傾けてくださって「ああ、それはそっちの方がいいね!」となると、その発案を採用してくれたりすることがありました。
そういった意味では非常に柔軟性というか、ディズニーっていう大きな会社なのにアーティストをちゃんと信用してくれているというか、信頼関係がそこにあると感じられたので。そういった意味では今回、初めてディズニー作品に関わりましたが、歴史あるスタジオは信頼の上に成り立って作品を作っているんだなと感じられました。

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(C)2022 Disney. All Rights Reserved.

■「他の人に自分がやってほしいって思われることをやろう」バンドマンからアメリカのCGアニメーターへ

――もともとはバンドもやっていたと伺いましたが、アニメーターになったきっかけは?
バンドマンをやっていた時は「社会から認められたい」という意識が強かったんですけども、その中で一人の人と出会って一人の人に認められるっていう経験があったんですよね。
その時に満足しまして、「別に何千何万人に認められなくたって一人の人に認めてもらえるだけでいいんだ!」って気づけた。そこからもう、自分が何をやりたいかじゃなくって、他の人に自分がやってほしいって思われることをやろうっていう風に意識をシフトしました。それでたまたま、CGの作業があまりストレスなくできるものだって自分でも分かっていました。
僕はできることとできないことに凄く差があるので、そういった意味で「じゃあCGやろう」っていう風に決めて、CGといえばアメリカだという発想でアメリカに行くっていうことを決めました。非常にシンプルな発想です。
実際にCG業界に行って、いろいろ経験していくうちに、周りがストレスを感じても自分があまり感じないものを消去法で進めると、最終的にアニメーションだったという流れです。

―― CGには昔から触れていたんですか?
昔、城西国際大学っていう学校に通っていたんですが、そこでたまたまCGソフトを触れる機械があって。その機械がソースコードを入力しないと何も見れないややこしいソフトだったんですが、周りが本当に嫌がっていたところ、自分は楽しんで何時間も没頭してできた。そこで、やりたくない人がいるのに自分はできているということは、自分は人から「やりたくないからお金出すからやって」と言われる側だなと思ったんですよ。
じゃあ、この方向性で行けば社会から必要にされるんじゃないかと思って、CGに進むことに決めました。なので、もともとアニメーターになりたかったということでは無いですね。

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(C)2022 Disney. All Rights Reserved.

――来年の『ウィッシュ』にも参加されていると聞いていますが、今後の目標は?
『ウィッシュ』も関わることができて本当に光栄なんですけども、恐らくもう少しアクティングに関わるショットが増えてくると思うので。そこでディズニーならではのアクティングの部分を沢山学べると思います。
そういう意味では、一人のアニメーターとしてさらに成長できるなっていうのは今からでも楽しみです。

――では、もう触手は動かすことはなく?
そうですね……! 触手は流石にもう出てこないと思うので、やっと人間だけにフォーカスできるかもしれないですね。分かんないですけど。

――最後に、アニメ好きのアニメ!アニメ!読者へメッセージをお願いします。
日本はアニメ大国とアメリカでもよく知られています。アニメーション自体が文化として成り立っているという点では、日本とアメリカは凄く似ているというか、両方の国に根強く生きているものなので、アニメがアートとして理解してもらえる、限られた数少ない国のひとつだと思います。是非、興味を持った方は劇場で観て頂けると嬉しいです。

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(C)2022 Disney. All Rights Reserved.

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』
監督:ドン・ホール『ベイマックス』『ラーヤと龍の王国』、クイ・グエン『ラーヤと龍の王国』
製作:ロイ・コンリ『塔の上のラプンツェル』『ベイマックス』
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2022 Disney. All Rights Reserved.

《仲瀬 コウタロウ》

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