「てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!」15人の漫才トリオが繰り出す王道ギャグ! パロディやループものまで楽しめる【藤津亮太のアニメの門V 第87回】 | アニメ!アニメ!

「てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!」15人の漫才トリオが繰り出す王道ギャグ! パロディやループものまで楽しめる【藤津亮太のアニメの門V 第87回】

『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』は、お笑い選手権の本戦出場を控え、「てっぺんグランプリ」で共同生活する漫才トリオ5組15人が登場するギャグアニメ。毎回1つのシチュエーションが設定され、その中でキャラクターあれこれ振り回されたり、暴走したりする趣向で進む。

連載 藤津亮太のアニメの門V
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『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』は、お笑い選手権「てっぺんグランプリ」の本戦出場を控え「タカコ荘」で共同生活する漫才トリオ5組15人が登場するギャグアニメ(メインキャラクターが15人いるから「!」の数も15個ある)。基本的に毎回なにか1つのシチュエーションが設定され、その中でキャラクターあれこれ振り回されたり、暴走したりする趣向で進む、王道的なギャグ作品だ。

■ギャグアニメのヒット作といえば…


最近のギャグアニメのヒット作というと『ポプテピピック』『おそ松さん』、あるいは『極主夫道』が挙がるだろう。『ポプテピピック』はTVアニメの常識を逆手にとったようなラジカルな作りがポイントで、『おそ松さん』は、キャラクターの描き方が時にベタ、時にメタへとエピソードごとに切り替わるところに特徴があった。一方『極主夫道』は、元ヤクザで主夫というギャップのおもしろさで押していくスタイルだ。

これらの作品と比べてみると『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』は『ポプテピピック』や『おそ松さん』ほど、表現手段やキャラクターをメタ視する要素はない。とはいえ『極主夫道』のように、ギャップを生むためのベースとしての「普通の日常」が確固としてあるわけでもない(逆にいうと日常が揺るがない『極主夫道』はギャグとコメディの境界域にいると考えてもいいだろう)。

『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』の世界は「なにが起こってもおかしくはないが、キャラクターたちは間違いなくその世界の中に生きている(その世界の外についてメタ的な言及をすることはない)」というもので、その点で本作のスタンスはいかにもクラシックなギャグものだ。

■15人のキャラクターだからこそ“何通り”もできるシーン


本作のおもしろさの理由のひとつは、なんといってもキャラクターの多さ。各トリオにはまず「関西」(関西出身トリオは2組いる)、「茨城」、「セレブ」、「オカルト」という味付けがしてあり、さらにトリオの3人がそれぞれに性格付けされている。ギャグ作品なので、各キャラクターがボケたり、ツッコんだり、リアクションをしたりするシーンが何度も出てくるのだが、個性の強いキャラクターが大勢いるから、それぞれのバリエーションも豊富でにぎやかになる。

また登場人物が多いことでシチュエーションの反復も増えてくる。
例えば第1話「チキンの章」に続いて、各トリオの印象付けを狙う第2話「キャトルの章」。ここでは「ヤングワイワイ」(関西代表トリオ)の3人が「ダイトウリョウ アンサツ」と書かれた絵馬を拾ったことに端を発するエピソード。暗殺阻止を相談する「ヤングワイワイ」の会話を耳に挟んだ、「セレブリ茶(ティ)」(セレブなトリオ)がそれを誤解し、さらに「セレブリ茶」の様子を「弾丸クノイチ」(もうひとつの関西代表)とAパートで誤解の連鎖を描く。「天丼は3回まで」というが、第2話Aパートは「とんでもないことを知ってしまった」というシチュエーションを3回繰り返すことで、キャラクターの定着を図りつつ、笑いを積み上げていくのである。これも本作がにぎやかで楽しい印象になっている理由だ。

シチュエーションの反復という点では、第11話「ラスボス降臨の章」のAパートもまた「熱々おでん」「熱湯風呂」「顔に洗濯バサミ」と芸人がバラエティで求められるネタの三段重ねという構成になっている。この時点ではすでにキャラクターの定着は終わっているので、「シチュエーション」のほうを三段重ねにすることで、それぞれのキャラクターの見せ場を作るようになっている。

このような作品だから編集によるテンポのコントロールはとても大事といえる。
ドタバタが一番楽しいエピソードは、第7話「通販の章」。15人は身体を鍛え直すための強化合宿として、山奥の温泉宿「弥茶邸」を訪れる。吊り橋が渡れなくなりクローズド・サークルとなったこの「弥茶邸」を舞台に、歌の歌詞を再現する怪事件が起きていくというミステリー(?)仕立てになっている。こういうエピソードだけに、先行する描写が後で(強引に)生きてくる作りになっているのが楽しい。

■王道ギャグに挟まれ際立つ「異色エピソード」


逆に異色作だと感じたのは第3話「悪代官の章」。第3話は関西代表「弾丸クノイチ」と茨城出身の関東代表「あくだれ王国」がテレビのバラエティ番組に出演するエピソードだ。
異色なのはまず第一に、「弾丸クノイチ」天野ちとせの心情にかなり迫った内容で、シリーズ全体をとおして唯一“ドラマ”が描かれた話数となっていること。

また先述した通り、本作はそれほど「メタな視点」を導入しないのだが、その中で、第3話はかなり「メタっぽい」雰囲気を漂わせているのだ。例えば、バラエティのプロデューサー、阿久大寛(あくだい・かん)はガールズがかわいくキャッキャしている番組をこよなく愛しており、ロケを行う地域から男を一掃し、男性が画面に映ることのないようにしてしまう。これは深夜の女性キャラしか出てこないアニメを画面外から支える、「男は邪魔だ」という思想をパロディとして描いているのではないか。阿久大寛が、プロデューサーである自分を媒介にして視聴者はガールズだけの幸せな世界に入り込めるのだ、といったことを語るのも、そういう作品の楽しみ方のひとつとしてよく指摘される内容そのままだ。

こうして2組はバラエティで奮闘するものの、最後に登場した「ヤングワイワイ」が棚ぼた的に、番組ラストで歌を歌う権利を得てしまうことになる。この時、「ヤングワイワイ」は楽器を手にしたものの演奏はしていないのである。あくまで飾りとして持たされているとわかるように演出されている。本作はブシロード関連の作品だけに、こういう描写を見せられると、そういえばブシロードは女性バンドものも展開していたと思い出さざるを得ないし、「演奏していない」という表現に「こちらは手描きアニメなのでそんな大変なことはしないです」というような謎の主張を読み取りたくもなってしまう。

ギャグ作品だからパロディもちょくちょく登場するが、本作はそこをあまり強調してこない。第3話に出てくるドラマ「丸一日暴走刑事」や、第7話の『犬神家の一族』ネタなど、パロディであること強調することで笑いを誘う方向ではない。むしろ「異様絵作り」であることを強調して、元ネタ関係なく笑わせようとしている。

一番パロディ色が濃いのは第9話「アダムスキーの章」で、これはトリオ「シンリャクシャ」(宇宙人トリオ)のひとり北斗ちほりが、本当に宇宙人で、彼女と彼女のもとに来た母の対話がメインで進行する。この母の姿は『ウルトラセブン』のメトロン星人そのままで、画面も登場回である「狙われた街」をなぞっている。が、「ねらわれた街」そのものがあちこちでパロディにされている(一定の年齢以上には)有名なエピソードなので、こちらも「これがパロディだとわかる人は、それにツッコミどうぞ」ぐらいの温度感で進行する。むしろ笑いの本題は、ちほりが語る「涙を誘う地球人いい話」と母のリアクションにある。

また、全編でインパクトが一番大きいのは第5話「ランプの章」。これは「シンリャクシャ」がバスの中で、石屋もねと北斗ちほりが話す北海道に伝わる都市伝説や宇宙あるある話に対して、六香亭ゆいながツッコミを入れると、その瞬間に時間がループしてしまうのである。なにが原因でループが発生するのか。そこからループを脱するためのゆいなの孤独な(笑える)戦いが始まるのである。漫才とループものを合体させたストーリーを展開するという、不思議なアイデアが見事にまとまっている。

映像的に凝っていたり、複雑なドラマを展開しているわけではないけれど、様々なアイデアとそれを面白く見せるための工夫はしっかりと投入されている。『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』は、昔からやってる定食屋とか町中華に通じるような、そんな“おいしさ”のある作品なのだ。

《藤津亮太》

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