「エスタブライフ」クリエイティブ統括の谷口悟朗が考えるオリジナルアニメの作り方【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

「エスタブライフ」クリエイティブ統括の谷口悟朗が考えるオリジナルアニメの作り方【インタビュー】

『エスタブライフ』の原案・クリエイティブ統括を務める谷口悟朗氏に、本作の魅力や狙い、さらに日本アニメ産業の将来性について話を聞いた。

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「エスタブライフ」キービジュアル(C)SSF/エスタブライフ製作委員会
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4月より絶賛放送中のオリジナルアニメ『エスタブライフ』。世界人口が減少に転じた遠い未来で、遺伝子改造によって常人・獣人・魔族など多様な人種が共存し、壁に囲まれたクラスタと呼ばれる街に分断されて暮らしている。そんな中でクラスタから逃げたい人々を逃がす「逃がし屋」たちの活躍を描いた作品だ。

本作の原案・クリエイティブ統括を務めるのは、『コードギアス』シリーズなどで知られる谷口悟朗氏。テレビシリーズを先がけに、スマートフォンゲームや劇場アニメなどのメディアミックス展開も予定しており、今後も大きく世界が広がっていきそうだ。

ユニークで独創的な世界観を作った谷口氏に、本作の魅力や狙い、さらに日本アニメ産業の将来性についても話を聞いた。

[取材・文:杉本穂高]

逃げることは否定すべきじゃない


――非常に独創的な世界観の作品ですが、どんなことを大切にしてこのコンセプトを作られたのですか。

谷口:この企画はゲームからスタートしたのですが、製作上の理屈……つまり、次のエリアを読み込むためのローディング時間の問題や、システム的にいきなりオープンワールドにできなかったりする制限を最初から理屈として組み込むことはできないだろうかと考えたのが最初の発想です。あまりやるとメタ的な物語になるので、そちらには走らないように最初の設定だけ意図的に作ってしまおうという、元々はそういう裏側の事情だったんです。

――谷口さんは、今回のテレビシリーズに関しては「クリエイティブ統括」というお立場ですが、内容についてはどの程度関与されているのですか。

谷口:逃がし屋というコンセプトと女の子を中心にやろうというのは私が出して、橋本監督にお願いしたいのでスロウカーブさんに打診してもらったという感じです。逃がし屋を主人公にしようと思ったのは、色々なクラスタを見せたいので、分断された各クラスタを移動できる人じゃないといけないからです。クラスタ内にいる人だけの話にしてしまうと移動できませんから、たくさんのエリアを見せられないわけです。

――なるほど。またこの作品は逃げることを肯定していますが、これは逃がし屋を主人公にするために出てきた発想でしょうか。

谷口:いえ、私は元々、逃げることは否定すべきものだと思っていないんです。むしろ素晴らしいことだと思っていますから。業界に入った最初のころ、うつ一歩手前の状態になったことがあるんです。結果的には復帰できましたが、そんなのは結果論です。そう考えると逃げるって大事です。なんでもかんでも一つのところで頑張ってもいいことばかりじゃないし、物事には限度があります。

――本作の舞台は遠い未来ですが、人口減少や、多様な人々がいながら分断されて生活している状態など、現代社会を連想させる要素が多々あります。これは谷口さんの現実に対する未来予想も入っているのでしょうか。

谷口:結果的にそうなってしまったという感じですね。話としてやりやすいものの要素を拾っていったら、現実とつながってきてしまったんです。それはもしかしたら、私の中で無意識に思っていたことが形を持って現れたのかもしれません。





映画はテレビとは全く違うテイストの作品に


――テレビシリーズではユニークなクラスタが多数描かれましたが、ゲームや映画ではさらに様々なクラスタが舞台となるのですか。

谷口:ゲームや映画は、テレビシリーズと時代が異なります。テレビシリーズの数年後が舞台でエクアたちも出てくるんですけど、あの後東京がどうなったのか、というのが映画のストーリーになります。

――映画は谷口さんが監督される予定ですが、やはり橋本監督のテレビシリーズとは異なったテイストの作品になるのでしょうか。

谷口:変わります。橋本監督には、映画は極端にテイストを変えるのでテレビはテレビで突っ走ってくださいとお話しました。ただ、映像のルックや雰囲気は別物ですけど、テレビシリーズを観ていればより楽しめるものにはなっています。映画ではちょっとハードな方にいこうかなと。テレビシリーズは日々に疲れている方に、良い意味で緩いものを提供していますけど、映画はもうちょっと血なまぐさいです。

――本作の世界観はユニークなものなので、様々なタイプの物語が展開できそうです。大きな世界観を最初に提示して、そこに色々なキャラクターを活躍させるという形で、例えばマーベル映画シリーズのような展開を思い浮かべました。

谷口:マーベルとはちょっと違いますね。自分の中にあるイメージで他作品だと……敢えて言えばピアズ・アンソニイの『魔法の国ザンス』というファンタジー小説が近いかもしれない。これは各巻で主人公が変わるんです。魔法の国という世界があって、その国の中で今回はこういう人の話、次はまた別の人の話をやるという感じで進行していく作品なんです。

――今回組んだポリゴン・ピクチュアズさんの仕事ぶりはいかがでしたか。

谷口:まず制作前に、ポリゴンさんの目指す方向性を確認しました。ポリゴンさんの他社との違いの一つは、煙などのエフェクトが写実的なことです。私が以前組んだスタジオは、もう少し二次元ぽく塗り分けできそうな煙なんです。フィルム時代の手描きの発想に近い。一方、ポリゴンさんの場合はガスはあくまでガスとして表現することが多くて、デジタルとしての手描き表現に一部近かったりする。その発想の違いをどう利用するのかを考えました。

実は制作前はポリゴンさんはもっと守りに入る会社かと思っていたんです。うちのやり方はこうなので、それ以外はやりませんみたいな感じをイメージしてましたが、橋本監督のような従来のポリゴンさんのテイストじゃない部分を勉強して盗もうという姿勢がありました。CG業界も歴史が出来てきたので、自分たちのやり方に固執して新しいものを学ぶのを嫌がる人もでてきているんです。新世代と旧世代がいるというのは、ある意味業界が成熟してきたということでもあるけど、ポリゴンさんは新しいことを学ぶ姿勢がはっきりあって、とても健全な会社ですね。

今までのポリゴンさんの作品はある種の冷たさみたいなものがあったのですが、今回開発した新ツール「PPixel(ピクセル)」によってそれが緩和され、より表現幅が広がりましたね。





谷口氏がオリジナルアニメを作り続けられる理由


――谷口さんはオリジナル企画を手掛けることが多いですよね。昨今のアニメ産業でこれだけオリジナル企画を手掛けている監督もそうそういないと思います。オリジナル企画を成立させるためには何が大切ですか。

谷口:こういう世界が好きだからこういう作品を作りたいというのは誰でも言えることです。そうではなくて、プロデューサー的な視点を持ってスタジオ運営を基本にすればよいのか、ビジネスの広がりが大事なのか、などをプレゼンする。そこに自分のやりたいことを足していく。じゃないと、お金を出す側も億単位の金を決済できないですよね。

日本のアニメは、その辺がやや遅れている部分であって、個人のスーパークリエイティビティに頼れば何とかなるという間違った信仰が今でもあるんです。

もちろん、音頭をとる監督や原作者の存在は必要ですけど、どうやってビジネスを動かしていくのか、どういう人材を集めてくるのか、どんなチームを作ればいけるのか、そういうことで成り立っているのであって、企画を通すというのは人知を超えた名人芸じゃなく地道な作業なんですよね。

――少し話が変わりますが、日本アニメの海外市場規模が拡大を続けています。谷口さんは、日本アニメの未来をどのように思い描いていますか。

谷口:今まで個人のブランドで作ってきたけど、今後はチームでやっていくことになるでしょうね。チームというのは具体的にはスタジオです。個人の裁量でやれるのは私たちの世代が最後じゃないかという気がしますね。神山健司監督や湯浅政明監督、今石洋之監督、荒木哲郎監督なども制作会社を作ったり特定の会社とタッグ組んでやっていますし、個人の名前で生きていける人は希少種になると思います。

個人の功績が目立ちにくい時代になると思うんですけど、私はそれをおかしいとも思っていなくて、世界的に見れば映画もほとんどチームで作っています。たまに個人の作家の名前が出ても、それは神輿というか、名刺みたいなものだと思うんです。

そういう変化もありながら、日本のアニメ業界はまだ発展していくと思っています。CGで新しい技術も出てきているし、労働環境もかなり改善してきていて、実際に携わっている人たちの給料も今はそんなにめちゃくちゃ悪いわけではないし。現場への利益還元については、日本企業はまだ下手だと思いますけど。ただここは難しいところで、自分たちのお金でアニメを作っている国はアメリカと日本だけなんですよね。

――そうですね。なんだかんだほとんどの国では国家の助成金によってアニメーション制作を成り立たせています。

谷口:そうです。つまり国策なんです。中国は製作本数、尺数ともに世界一ですが、それは国策としてのお金と税制措置のおかげです。私企業のお金によってアニメを作って、なんだかんだ多くの人に飯を食わせているシステムは日本とアメリカだけで、なおかつまだ発展しているのも事実なので、これ自体は全然悪いことじゃないと思いますよ。

――貴重なお話をありがとうございます。最後に、本プロジェクトを今後どのように発展させていきたいか、お聞かせください。

谷口:とにかく、『エスタブライフ』をテレビシリーズで知ってくれた方にはゲームをプレイしてほしいです。それと、興味を持ってくれたクリエイターが別のシリーズを立ち上げたいというなら、私は許可しますので。ファンもクリエイターも色々な人が参加して遊べるようになるのが理想だと思っています。そういう形でどんどん拡がっていってくれると嬉しいですね。



アニメ『エスタブライフ グレイトエスケープ』

【放送情報】
毎週水曜日24:55からフジテレビ「+Ultra」ほか各局にて放送中

フジテレビ:毎週水曜日24:55~25:25
関西テレビ:毎週木曜日26:25~26:55
東海テレビ :毎週土曜日25:45~26:15
北海道文化放送:毎週日曜日25:10~25:40
テレビ西日本:毎週水曜日25:55~26:25
BSフジ:毎週水曜日24:00~24:30
※放送日時は予告なく変更になる可能性がございます。

【配信情報】
FODにて第12話まで先行独占配信中(配信ページ:https://fod.fujitv.co.jp/title/5i94/)
第1話は無料配信中
FOD ・ TVer ・ GYAO! にて毎週1週間限定 無料見逃し配信中(毎週水曜日25時25分最新話配信)
※配信日時は予告なく変更になる可能性がございます。

【イントロダクション】
『エスタブライフ』の世界とは──

遠い未来の時代。世界人口がピークを迎え、減少傾向に転じていた。
人類は種の繁栄のため生態系を管理するAIを作り、「人類の多様化実験」を実行。
常人・獣人・魔族などの遺伝子改造による「多様な人種」と、
壁に囲まれた「クラスタ」と呼ばれる「多様な街」を創造した。

数多存在する「クラスタ」は、それぞれ独自の文化を有し、そこに適正をもつ人類が生活している。
そして、滅びることが無いよう、常にAIに管理されながら暮らしているのである──。

谷口悟朗オリジナル企画『エスタブライフ』。
魔改造された「東京」を舞台に、TVアニメ・スマートフォンゲーム・映画と、様々な物語を繰り広げてゆく。

【ストーリー】
「生きるのがツライ? なら逃げちゃえばいいんですよ」

ずっと先の未来。人間はそれまでの姿形だけでなく、獣人・サイボーグ・魔族など多様な姿を持つようになった。東京の街は、AIが管理する高い壁に囲まれた数多の地域「クラスタ」となり、自由な行き来をやめ、それぞれが独自の文化・常識を育んだ。人々は、自らが生まれたクラスタの常識を基準に幸せな人生を送る。

しかし、なかには自らのクラスタに適応できない者も現れる──。
そうした人々を、別のクラスタへと「逃がす」ことを生業にする者たちがいる。

「逃げたい人」たちから依頼を受け、あらゆる方法を駆使してAIの裏をかき、本来は不可能であるクラスタ間の移動を成し遂げる者たち──「逃がし屋」。

逃げて、逃げて、逃げまくる!!
逃げたい人をお手伝いする、5人の逃がし屋たちの物語──!

【スタッフ】
原案・クリエイティブ統括:谷口悟朗
監督:橋本裕之
原作:SSF
シリーズ構成・脚本:賀東招二
キャラクターデザイン原案:コザキユースケ
アニメーションキャラクターデザイン : 舛田裕美
コンセプトアート:富安健一郎(INEI)
CGスーパーバイザー :坂間健太、関水大樹、上本雅之
美術監督:高橋佐知、島村大輔
色彩設計:野地弘納
音楽:藤澤慶昌
オープニング・テーマ:めいちゃん「ラナ」
エンディング・テーマ:GOOD ON THE REEL「0」
企画・プロデュース:スロウカーブ
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ

【キャスト】
エクア:嶺内ともみ
フェレス:高橋李依
マルテース:長縄まりあ
アルガ:速水奨
ウルラ:三木眞一郎

◆ スマートフォンゲーム『エスタブライフ ユニティメモリーズ』 ◆
【スタッフ】
原案・クリエイティブ統括 : 谷口悟朗
原作:SSF
制作:スクウェア・エニックス

◆ 劇場アニメ『エスタブライフ リベンジャーズロード』 ◆
【スタッフ】
原案・監督・脚本 :谷口悟朗
原作:SSF
企画・プロデュース:スロウカーブ
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ


(C)SSF/エスタブライフ製作委員会

《杉本穂高》

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