本稿では、最終日に行われたセッション「『ヒーリングっど プリキュア』エンディングCGダンスメイキングセミナー」のレポートをお届けする。
登壇するのは、東映アニメーションCGプロデューサーの野島淳志氏、同じくCGディレクターの大曽根悠介氏、同じくリードCGアニメーターの中村有希恵氏の3名。
内容は『ヒーリングっど プリキュア』のエンディングにスポットを当てたメイキングだ。
エンディング制作で掲げられた作業コンセプトは以下の3点。
・CG特有の「人形っぽさ」を排除し、キャラクターの表情を豊かにする。
・ダンスのキレを残しつつ、キャラクターの個性が感じられる動きにする。
・どの場面で一時停止しても一枚絵として成立するよう、表面的でない部分にも気を遣う。
セミナーで取り上げられた動画は、TVアニメ用に制作されたもの。
しかし2020年10月31日より公開された『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』と連動した作業になるため、スタッフの数は通常のエンディング制作より多めの40名、期間も通常より長く5カ月で制作された。
このセミナーでは、前期オープニングについて語られた。
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■CGキャラクターの作成工程
セミナーではまず、CGキャラクターのモデル作成工程が説明された。なお、こちらはエンディング映像に限らない、一般的な工程の説明となる。
今回使用するキャラクターモデルは前期エンディング映像のみならず、約1年間の放送期間中、継続して使用されるものだ。
その第一段階として、まず大まかな「Lowモデル」が作成され、次に本番に近い「Highモデル」が制作される。
このあたりはラフを作成してから本番を仕上げるという、CG作業に限らない一般的な作業手順である。
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▲2Dのキャラクター設定をもとに、まずは大まかな「Lowモデル」が作成される。
この段階で作成するのはあくまで外見のみ。
外見ができたらようやく「ボーン」と呼ばれる可動用の骨格を組み込んで3Dモデルを完成させる。
なおボーンを入れるのは手足だけではない。髪やアクセサリーも揺れるため、そちらにも可動ポイントが組み込まれる。
「用意してもらったモデルをアニメーター側が実際に動かしてみて、『もっとこうして欲しい』とリクエストしながらブラッシュアップしました」
そう語るのは、現場でクオリティー管理を担うリードCGアニメーターの中村氏だ。
キャラクターモデルを動かす段階で、たとえば衣装の一部が身体を貫通することがよくある。そういった場合、通常はアニメーター側でその都度、修正をしていたのだが、今回はあらかじめモデル作成の時点で構造の見直しが行われた。
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▲画像はボーンを組み込んだところ。
また前シリーズで不便だった部分や持ち越された課題点も、この段階で修正または改修が行われた。
そのあたりは毎年新たなシリーズが企画される長寿シリーズならではのフィードバックだ。
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エンディング・アニメーションの作業工程
アニメ制作の現場では、通常、まずはシナリオを作り、シナリオをもとに絵コンテを作成する。それから絵コンテをもとに実際の場面を作画したり背景を制作したりして1話分のアニメを完成させるのだ。
今回はエンディング・アニメーションのため、シナリオはなく絵コンテからスタート。全体的なコンセプトは「かわいさ」だ。
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エンディング・アニメーションで描かれるのは、主要3キャラクターのダンスシーン。実作業では実際にダンサーに踊ってもらい、その動きをモーションキャプチャーで収録する。
収録した動きのデータはその後、3Dのキャラクターに反映されてアニメーターによる様々な演出が加えられる。表情や動きだけではない。カメラワークも重要だ。
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「全員ではありませんが、東映アニメーションでは基本的にアニメーターがレイアウト作業をします」と中村氏。
レイアウト作業とは下書き段階のようなもの。レイアウトをもとに次の段階となる「ボディアニメーション」や「フェイシャルアニメーション」を施し、CGのアニメーションのキャラクターに魅力的な「演技」をさせていくのだ。
もちろん「揺れもの」と呼ばれるアクセサリー類の制御や、パーツ同士の「めりこみ」などの解消も忘れてはならない。
これらの作業フローを経て、ようやく90秒のエンディング・アニメーションが完成する。
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集団作業をするために工夫したこと
今回のセミナーでは主に「ボディアニメーション」「フェイシャルアニメーション」の段階でどのような演技をさせたのか、キャラをかわいく見せるためにどのような工夫をしたかなど、実際に行った処理をリードCGアニメーターの中村氏が解説していった。
本件エンディング・アニメーションの目指す方向性は、いかにかわいく、いかに自然に、いかに「人形感」をなくすかという点。
中村氏はその方向性についてこう解説する。
「プリキュアのキャラクターはかわいいため、モーションキャプチャーのデータを反映し笑顔にしただけで完成に近いと錯覚してしまいます。
しかしキャプチャーデータはあくまで『動きの土台』です。
私たちが作るべきは『キャラクターアニメーション』なので、キャラクターに命と感情が宿るように、表現が足りない部分を補う必要があります」
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実際に行った作業がこちらだ。
まずキャラクターの表情について。
用意されたCGキャラクターの顔部分は調整できるポイントが多く、自由自在に好きな表情を作ることができる。
しかし調整するポイントが多いということは、それだけ各担当アニメーターの好みを反映しやすく、結果として表情が統一されていない動画になってしまう。
またアニメーター自身がシステムを使いこなせない危険性もある。
そこで中村氏は調整できるポイントを極力減らすことにした。
表現の幅を狭めて同じ表情が作りやすい環境を整え、なおかつ操作性を高めたのだ。
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さらに3D版の表情集も新たに作成した。
この現場にも従来通りの2D版の表情集はあったが、より具体的な立体図が必要だと考えたという。
また歌う場面がほとんどを占めるため母音の口の動きもつけ加えた。
ちなみに設定として存在するのは「あ」「い」「う」「お」の動き。「え」は「あ」で対応できるため省略された。
もともと2Dの設定画は作画のバラつきをなくすための見本として作成されたもの。
3Dになったことで新たにイメージを共有する部分が出てきてしまったため、その部分を補う形で中村氏はこれらの資料を作成したのである。
こうして実作業に向けて制作環境が整えられていった。
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「演技」をさせて魅力的なCGキャラクターにする
CG作画は動きと動きの間を自動補完する機能があって便利だ。しかし同時に機械的な処理がされるため、中間の絵、つまり「中割り」が中途半端な絵になったり人形っぽい不自然なキャラクターになったりすることもある。
もっとも気になるのは、キャラクターの目だ。
プリキュアは女の子のキャラクターということもあり目が大きい。すると不自然な部分も目立ってしまう。とくに焦点が合っていないような目は「人形っぽい」イメージを観る者に与えてしまうのだ。
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▲自動補完機能は中割りを自動的に作成してくれる。しかし満足いく水準にはあまり至らない。その部分はアニメーターが修正する。
また表情の豊かさもポイントとなる要素だ。
ボディはつねに動いているのに表情が一定では不自然になる。そこでボディの動きと調和するよう表情もつねに変わるよう心がけた。
その部分は「演出」の領域だ。ちなみに「まばたき」もただするのではなく、ダンスのキメどころでするよう演技を修正した。
もちろんダンスの動きも調整する必要がある。
ダンサーは動きを重視するが、アニメはワンカットごとの見栄えが重視される。とくに次の動きに移るための予備動作や、動きが流れてしまったことで失われたメリハリは気になるところ。
そのため「アニメ的な見栄えの良さ」を重視し、止めるべきところはしっかりと止め、首の角度にも気をつけ、指先までこだわった修正が行われた。
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「人間が踊っているんじゃありません。プリキュアが踊っているんです」とは中村氏のコメント。
「キャプチャーの状態で満足せず、アニメーターが積極的にアレンジすることで、より魅力的なキャラクターにしていきます」とまとめた。
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▲見栄えのいい絵作りをするため、あえて首を本来ではありえない長さにしたり、パーツの干渉を積極的にさせたりして、イメージ通りの画面を制作していく。
自動処理される補助機能があったとしても、最終的にキャラを魅力的にするのはアニメーターの感性と力量だ。
重要な部分は手付けで作業することも多く、『ヒーリングっど プリキュア』のエンディングCGが魅力的に見えるのは、そうしたアニメーターの「こだわり」が成しとげたものなのだ。
(C)ABC-A・東映アニメーション
[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]