庵野監督は、これまで長期間の取材を許可してこなかったので、今回の番組は同氏の制作の物作りに対する姿勢を映像で見られるまとない機会になります。そんなより深く番組を楽しむため、庵野監督のキャリアをおさらいしておきましょう。
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『プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル』場面カット
大学在学中から才能を発揮
庵野秀明氏は、大学在学中からその才能を発揮してきました。在学中から自主制作に没頭し、大阪で開催された第20回日本SF大会のオープニングアニメーションを制作し、話題となります。その後、自主制作映画グループ「DAICON FILM」に参加し、いくつかの特撮映画を自主制作した後、『超時空要塞マクロス』のスタッフとして参加し、プロの現場でのキャリアをスタートさせます。
この時、師事していたのは、板野サーカスで有名なアニメーターの板野一郎氏で、『マクロス』で板野氏が描いた原画の修正を任されたこともあるそうです。
【参照】庵野秀明監督「アニメーターの技術は、今でも『オネアミスの翼』が最高峰」と断言 - 自らのキャリアを語る(マイナビニュース)
その後、宮崎駿監督『風の谷のナウシカ』に原画として参加、巨神兵のシーンを担当したことはよく知られています。アニメーターとしてはメカや爆発などのエフェクトを得意としています。
その後、DAICON FILMを前身とするGAINAXに初期の頃から参加。アニメ映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』に「スペシャルエフェクトアーティスト」という肩書でクレジットされ、クライマックスのシーンでロケット発射シーンなどの作画を担当しています。
監督デビューはGAINAX制作のOVA『トップをねらえ!』で、庵野監督はここから自身の作家性を発揮し始めます。後半の展開は庵野監督元々の脚本か大きく書き換え、演出面でもテロップの多様やカットの素早い切り返しなど、後の作品でも見られるスタイルを確立しています。最終話では全編モノクロという大胆なアイディアを採用するなど、実験精神に富んだ映像作りで多くのファンを掴みました。
1990年からは初のTVシリーズ『ふしぎの海のナディア』の総監督となり、全39話を制作。その後、数年間の充電期間を経て、1995年『新世紀エヴァンゲリオン』を世に送り出し、社会現象を巻き起こすことになります。
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『プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル』場面カット
「エヴァ」以降、実写映画に進出
『新世紀エヴァンゲリオン』が一大ブームとなり、1997年の劇場版の公開で一応の完結を迎えると、庵野監督は新たな表現方法を求めて、実写映画制作に乗り出します。1998年には少女漫画原作の『彼氏彼女の事情』を監督する傍ら、初の実写長編映画『ラブ&ポップ』を監督。この映画はハンディカムのデジタルビデオで撮影し、援助交際に乗り出す女子高生たちをビビッドに捉えた作品で、庵野監督の表現に新たな感覚をもたらしました。
その後、地元山口県宇部市を舞台にした『式日』、生身の人間にひとコマずつポージングして撮影するという、アニメ的な手法を実写に持ち込んだ『キューティーハニー』などを監督。それらの作品で実写とアニメの融合を図るような表現に挑んでいます。
2007年に、新たに設立した株式会社カラーから『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』を公開。2009年には『:破』、2012年に『:Q』を公開し、シリーズを重ねるごとに興行収入を伸ばしています。2016年には実写映画『シン・ゴジラ』を大ヒットに導き、アニメだけでなく、実写映画でも大きな実績を残し、国民的映画監督として認知されるようになりました。
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『プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル』場面カット
庵野秀明の作風
大胆なアングルから描く構図や、細かいカッティングなどで動かさずとも表現可能な演出に長けている一方、細部までリアルにこだわったメカニック描写や、戦闘シーンのケレン味が秀逸。実写映画監督の岡本喜八や市川崑などに強い影響を受け、テロップを多用する演出や、会議シーンなど、数多くの引用・オマージュをちりばめています。そして、敬愛する特撮ジャンルからの多大な影響を受けており、戦闘シーンには特撮ものを強く意識するような演出を多数行うことでも知られています。
また、電車や電柱、信号機などを心象風景として描くことが多く、巨大建造物なども作品に取り入れることが多いことでも有名。これは、庵野監督が幼少時代を過ごした宇部にコンビナートがたくさんあり、そうした風景が監督にとっての原風景になっているからで、人工物が多く有る風景を美しいと感じているそうです。
またアニメ作品においては、生々しさを追求し、実写映画では逆にアニメっぽい画作りをするなど、実写とアニメの表現の境界を乗り越えるような作風を数多く制作しています。『シン・ゴジラ』では「エヴァンゲリオン」を思わせる構図や編集のテンポ、音楽も「エヴァンゲリオン」から引用し、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では3Dとモーションキャプチャを使ったプリビズ(制作の初期段階でシーン検討のために簡単なデモ映像を作ること)で芝居を検討してからフレームを決めていく、実写映画的な手法を導入しています。
なにより、庵野監督が作る作品は、庵野監督自身のパーソナリティが強く反映されており、一作作るごとに魂を削るような作業をしているとよく言われます。なぜ庵野監督の作品にはこれほど強く個性が反映されるのかが、本番組で明らかになるかもしれません。国民的映画監督となった庵野監督の創作の秘密に迫る機会をお見逃しなく!