日本アニメの海外展開と国際共同制作の課題は?荒牧伸志監督&クランチロール日本担当が議論【IMART 2021レポート】 | アニメ!アニメ!

日本アニメの海外展開と国際共同制作の課題は?荒牧伸志監督&クランチロール日本担当が議論【IMART 2021レポート】

マンガ・アニメの未来をテーマにした国際カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)の第二回が2021年2月26日(金)と27日(土)にかけて開催された。

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IMART2021のセッション「国境を越えてアニメーションを作る」の模様
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マンガ・アニメの未来をテーマにした国際カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)の第二回が2021年2月26日(金)と27日(土)にかけて開催された。

本記事では、2日目に行われたセッション「国境を越えてアニメーションを作る」のレポートをお届けする。日本アニメの世界での受容は近年、増加傾向にあると言われるが、制作者側はどれほど海外を意識しているのか、そして日本アニメを海外で提供する企業はどのような戦略を立てているのか、海外での仕事経験が豊富な荒牧伸志監督と、クランチロールのオリジナル・事業開発ヘッドであるジュリアン・ライハン氏が議論した。

セッションは2人のプレゼンテーションを中心に展開。最初に荒牧氏のプレゼンからスタートした。


業界歴35年になる荒牧氏は、国内で制作した作品が海外で人気が高く、そのことをきっかけに海外での仕事経験も豊富だ。20代前半でタカラの『ミクロマン』シリーズのメカニックデザインを手掛け、それが海外で人気を博したそうだ。

その後、『機甲創世記モスピーダ』などのデザインを担当し、こちらも海外で大きな人気となった。そして、日米合作アニメに関わることになったのが84年。その時に経験した海外での業務経験が今も活きているという。

80年代は手描きアニメ作品を制作していたが、90年代からCGプロダクションに加入。CGの黎明期からゲームムービーの演出などを経験する。95年には『SPEED FIGHTER』のパイロット作品を監督し、ハリウッドの会社に売り込みをしていたこともあるという。

2004年に監督作『APPLESEED』が公開。世界中のアニメファンから大きな反響を受け、海外映画祭にも多数参加した。その時、アニメのニーズが世界のどこにあるのか気がついたそうだ。2007年には続編『EX MACHINA -エクスマキナ-』を発表。こちらはハリウッドの大物監督ジョン・ウーも参加している。

現在、荒牧氏はCGプロダクションSOLA DIGITAL ARTSの役員を務めている。同社をともに立ち上げるジョセフ・チョウ氏とは2005年に出会ったとのこと。

近年は、そのSOLAを拠点に神山健治監督と『ULTRAMAN』や『攻殻機動隊 SAC_2045』を監督している。さらに、HBO Maxで配信予定の名作SF映画『ブレードランナー』のアニメシリーズ『Blade Runner: Black Lotus』の制作も進行中とのこと。



荒牧氏は、日本において自分が作っているものはニッチなものだと思っていたそうだが、世界中にファンがいることを知り、ニッチだと思われるものも世界に出せば事業として成り立つことを知ったという。ニッチな市場も世界中のニッチを合わせれば大きな規模になるというこだ。

続いて、ジュリアン氏のプレゼンに移る。ジュリアン氏はワーナー・ブラザースUKで9年間務めた後、ワーナー・ブラザース・ジャパンに異動。そこで5年務めた後に米国本社でアニメ事業の立ち上げなどに携わった後、Netflixに入社しそこでもアニメ事業にかかわった。その後、シンガポールでアニメ関連のベンチャーを立ち上げた後、昨年クランチロールに入社し、現在は東京支社で活動している。

多くのアニメファンに知られている通り、クランチロールは約200の国と地域で日本アニメの配信を提供している。米国ではアニメ=クランチロールというぐらい、ファンの間で定着しているそうだ。


現在、無料会員は1億人、有料会員は400万人ほどいる。日本アニメを配信するのみならず、制作出資も積極的に行うようになり、クランチロールオリジナルのアニメはすでに10作品ほどローンチしている。

ジュリアン氏は、クランチロールの強みはマーケティングチームの充実だという。全500人のスタッフの中でマーケティングスタッフの占める割合が多いそうだ。そのチームが分析するデータを活用し、今後は日本の制作会社とともに様々な企画を立ち上げていき、コア層からライト層まで広くアニメを届けていきたいと抱負を語った。ジュリアン氏はクランチロール会員を10億人まで伸ばせると考えているそうである。



クランチロールは、『神之塔 -Tower of God-』や『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』など日本以外の原作を日本のスタジオで制作し、クランチロールを通じて世界中に届けるモデルを構築し始めている。また、ハリウッドスター、イドリス・エルバと妻のサブリナ夫妻とアニメプロデュース契約を結び、オリジナルSF作品の開発も進めており、さらにアニメを広く届けるための戦略を着実に築いているところのようだ。





ジュリアン氏は、世界の配信市場はまだまだ伸びしろが大きいと語る。その流れに乗って日本アニメの魅力をしっかりと紹介していけば、10億人ユーザーも夢ではないと考えているようだ。



ここからモデレーターの数土氏も含めたディスカッションに入る。

荒牧氏は、日本アニメはニッチだと言っていたが、すでに1億ユーザーいるとなればすでにニッチではないのではないかとの意見に、昔はもっとニッチだと思っていたが、最近過小評価していたのかもしれないと思うようになったそうだ。

かつて荒牧氏が世界で仕事をし始めた80年代は、国際共同制作の機運が高まっていた時期だ。その時期と現在を比べてどのような変化があっただろうか。

ジュリアン氏は、配信による視聴データが蓄積されていることで意思決定にも影響を及ぼしており、かつては異なる状況が生まれているのでは実感しているそうだ。



データ主導による意思決定という点で、数土はデータによってクリエイティブの変更を迫られることもあるのではとの指摘に、荒牧氏は「まさに今言われている」と吐露した。

しかし、荒牧氏としてはむしろそういう視点も必要なので、何も言われない方が不安だという。言われたからすぐに従うというわけでもなく、データによる意見もプロデュースワークの一環なので、そういう議論を交えることが大切なのだと持論を述べた。また、荒牧氏は、海外市場の方が大きくなったからといって、海外のニーズに無理に合わせることを考えたことはないそうだ。



また、ひとくちに世界市場と言っても、国ごとに傾向は異なるはず。ジュリアン氏もクランチロールも国ごとに好まれる作品の傾向はあるとしつつも、それは微妙な違いであるという。

また、荒牧氏は国ごとにアニメの人気の傾向の差は、その国のアニメ放送の歴史に依存するものではないかと語る。例えばフランスでは『キャプテン・ハーロック』がかつて人気を博していたりと、国独自のアニメ放送の歴史がある。そこが国ごとに人気傾向の差を生むのではないかと指摘。そして、今後は配信によって世界中であらゆる作品を見られる環境になる。そうなると、また違った傾向が生まれるだろうと予測した。

国境を超えてアニメーションを作るという点は、個別の人材に言えること。荒牧氏が率いるSOLAでは海外出身者も多数参加しているが、メリット・デメリットはあるのだろうか。

荒牧氏は、数年前から国内のアニメ産業は人材不足に陥っており、CGに関しては海外からの応募がかなり多いそうだ。現在、手掛ける『Blade Runner: Black Lotus』のスタッフは半分ほどが海外の人材だという。『ブレードランナー』シリーズは無国籍感覚が特徴でもあるので、制作環境としてもちょうどいいと感じているようだ。言葉の問題も意外となんとかなるものだそうだ。

数土氏は、そうしたスタッフがなぜ日本でわざわざ仕事をするのかについて荒牧氏に訪ねた。

よく日本アニメのファンだからわざわざ、と言われるが、荒牧氏によると必ずしもみんなが日本アニメ好きというわけでもないらしい。理由も多様で、一例としてアメリカのVFXの現場では監督やスーパーバイザーと顔を合わせて作ることはほとんどないが、日本では監督も含めて顔を合わせて作るのが面白いと言うスタッフもいるとのこと。

最後に荒牧氏は、今後アニメは日本のものという概念がなくなるのではないかと語った。それ自体がアニメが世界に広がったことの証であり、言い換えると日本がアニメ文化の中心でなくなることでもある。

ジュリアン氏も、アニメの定義が進化していくだろうという。国際共同制作が増えていけば、海外のクリエイターもアニメの影響を受けることになる、そういう動きが加速していけばアニメ文化はどんどん広がり、10億ユーザーも夢ではないのだと締めくくった。

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]

《杉本穂高》

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