神谷浩史&斎藤千和、“新たな音声メディア”で魅せる声優としてのこだわり「<物語>シリーズ×Audible」【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

神谷浩史&斎藤千和、“新たな音声メディア”で魅せる声優としてのこだわり「<物語>シリーズ×Audible」【インタビュー】

西尾維新氏の「<物語>シリーズ」がAmazonオーディオブック「Audible」として配信スタート。「音声のみ」で伝える「化物語」の魅力、西尾維新氏が綴る独特の文体を「音」で表現する楽しさと難しさのほか、コロナ禍における声優のあり方についても伺った。

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神谷浩史さん、斎藤千和さん
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2006年から講談社BOXから刊行されている西尾維新氏の「<物語>シリーズ」は、主人公の阿良々木暦(あららぎ こよみ)が「怪異」に遭遇するファンタジー小説。
伝奇、コメディ、バトルなど様々な要素が絡み合い、魅力的な物語とキャラクターが人気を博している。

その「<物語>シリーズ」が、このたびAmazonオーディオブック「Audible」として配信スタート。

物語シリーズ ファーストシーズン_メインビジュアル Illustration/VOFAN (C)西尾維新/講談社
「Audible」とは、本を一冊まるごとプロのナレーターや声優が朗読した音声コンテンツだ。
「物語」のファーストシリーズがAudibleで配信されるにあたって、アニメシリーズの各声優たちが朗読を担当する。

そこで今回は「化物語」上巻(「ひたぎクラブ」編、「まよいマイマイ」編)を朗読した神谷浩史さん(アニメーションでは阿良々木暦役)、「化物語」下巻(「つばさキャット」編)を朗読した斎藤千和さん(アニメーションでは戦場ヶ原ひたぎ役)のおふたりにインタビュー。

神谷浩史さん、斎藤千和さん
「音声のみ」で伝える「化物語」の魅力、西尾維新氏が綴る独特の文体を「音」で表現する楽しさと難しさのほか、コロナ禍における声優のあり方についても伺った。
[取材・文=かーずSP、撮影=Fujita Ayumi]

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■「続・終物語」までアニメ化された「<物語>シリーズ」、その原点に戻ってきて


――朗読という形で原点の1stシーズンに戻ってきて、受けた印象はいかがでしたか?

神谷:今回改めて小説を読み返してみて、「初期のひたぎさんは、こんな感じで出てきたな」「阿良々木暦は、こんな人だったな」というふうに、初めて「化物語」上巻を読んだ時の初期感覚を失っていなかったのが自分でも意外でした。
戦場ヶ原ひたぎの性格はストーリーが進むにつれて変化していきましたが、根っこにある部分は全然ブレてない。ふたりの人物について、改めて確認できた感じでした。

神谷浩史さん
斎藤:私は「化物語」の下巻、「つばさキャット」の朗読を担当しました。以前原作を読んだ時に、あまりに阿良々木くんの気持ちが私の中に入りすぎてしまいまして、そこでいったんストップしたんです。

戦場ヶ原ひたぎを演じるうえで、知らなくていいところまで知ってしまうことに、その時はブレーキがかかってしまったんですね。「つばさキャット」の内容は、ひたぎとしては知らないままの方が幸せなことが多いんです、阿良々木くんと付き合っていると(笑)。

斎藤千和さん
――特に「ブラック羽川」関連は、ひたぎとしては複雑な心境ですよね。

斎藤:だからアニメではひたぎの気持ちだけを追いかけて、ひたぎが知っていることだけの状態で演じたいので、あえて原作から距離を取るスタンスでした。
今回Audible化をきっかけに「化物語」下巻を読んでみて、「阿良々木くん、こんなことを考えながら人と接してるんだ」という事が、私には新鮮に映りました。

アニメーションで見る阿良々木くんは、まぁまぁヤバい感じなんですけど(笑)、そのヤバい行動を起こすまでの気持ちが理解できました。「阿良々木くんは、こういう気持ちでひたぎと一緒に過ごしてたのか」……彼の心情も新鮮でしたね。

アニメーション収録ではひたぎの気持ちを追っているので、行間も自分で想像しながら埋めていたんです。だから今回、阿良々木くんの行間が読めたことがすごく楽しかったです。

神谷浩史さん、斎藤千和さん

■アニメのアフレコとは違い、全員分のセリフを「音」にする。その難しさとは?


――アニメのアフレコと、今Audibleの収録はどのような違いがありましたか?

神谷:「<物語>シリーズ」のアニメーション台本では、阿良々木を演じる僕の場合、「ナレーション」「モノローグ」「セリフ」の3つで指示されています。ですが小説を朗読するにあたっては、地の文とセリフしかなくて、ナレーションとモノローグを明確に分ける線引きがなされてないわけです。
だとしたら地の文は地の文として割り切って、ナレーションに近い形で処理することに徹しました。モノローグとナレーションが頻繁に入れ替わると、客観的な説明文と阿良々木暦の感情が混ざってしまう。聞き手にとっては聴きづらくなってしまいますので、そこは苦労した点ではありました。

――聴く側としても、統一されている方が聴きやすいということでしょうか。

神谷:だと思います。とはいえ思い入れの強いシーンでは、ある程度アニメーション的な演出に寄ってる部分も、大なり小なり出ています。

神谷浩史さん
斎藤:アニメの声優が朗読するのであれば、ひたぎベースで聴きたい人が多いだろうと思いまして、戦場ヶ原ひたぎに徹して朗読させていただきました。ですが、どうしてもナレーションが神谷さんの声で聴こえる頭になってしまい、トレースしないように意識するのは苦労しました(笑)。
もっともそれは地の文に限らず、他のキャラクターのセリフでも同様です。アニメで他の声優さんが表現されたリズムを、どういう風に戦場ヶ原ひたぎとしてセリフを読むか、試行錯誤しました。

――他のキャラクターのセリフを、ひたぎの声で読む。その声優さんが演じられたリズムが頭に残っているぶん、難しそうです。

斎藤:戦場ヶ原ひたぎの声で読む以上、セリフ部分だけ他の方の演技をモノマネしても、気持ち悪いだけなので。そのバランスをどう取るかが頭を悩ませるポイントでした。でも、打破したらすごく楽しかったです(笑)。

――今回のAudibleでは「化物語」上巻と下巻、どちらも7時間半を越えていて、長丁場だったと想像できます。

神谷:圧倒的に文章量が多かったので、人間が1日に喋られる文字数があるとすれば、1回の収録でもう明らかにそれをオーバーしている感じでしたね(笑)。

斎藤:ひたぎが関わってるパートではスムーズに進んだ一方、ひたぎの立場では受け容れられない気持ちになる文章では、収録に時間がかかることもありました。

斎藤千和さん
――たとえば、阿良々木暦が羽川翼にセクハラじみたことをするシーンなどでしょうか。

斎藤:そうです! ひたぎ目線でこれを目撃したらぶっ刺すんじゃないか、というような(笑)。
下巻の時点では、ひたぎがまだ羽川さんのことを好きになっていない状態です。羽川さんと真宵ちゃんのところは、あまり進みが良くなかった記憶がありますね。

――下巻における神原駿河と阿良々木くんのかけ合いトークが面白かったです。テンポが速かったのですが、あそこは苦労されたんでしょうか?

斎藤:ひたぎとしては神原が大好きなので、そこは意識しなくても「今日、私の中のひたぎがノリノリだ!」くらいの勢いで、サクサクと収録が進んだ箇所でした。

――神谷さんは、Audibleの収録を通じて気づいたことはありますか?

神谷:他のキャラクターを朗読することで、阿良々木暦はアニメーションを演じるうえでの答えが原作にすべてあったんだと、改めて気づかされました。
阿良々木暦という人間が、どういうことを考えながら喋ってるか。原作を読めば手に取るように書かれているんです。

――小説は阿良々木暦の一人称だから、彼がどういう心情なのか、正しい答えが書かれているわけですね。

神谷:だけど他のキャストの皆さんには、原作に答えが載っていません。いきなりそのセリフだけがポツンと書かれてるわけです。「戦場ヶ原ひたぎは、なぜ急に出てきて、このセリフを言うんだろう?」といった感じで、ひたぎの内面が全く説明されません。
そういうものを音にしてきた斎藤千和という女優は、本当に優れた女優なんだなと改めて思い知らされました。

斎藤:ありがとうございます(笑)。

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神谷:もちろん、上巻に出てくる八九寺真宵も忍野メメについても同じ気持ちです。僕は演じる役の情報量、手がかりが多い中で演じさせてもらえていたことがわかりました。
アニメーションでも物量的な大変さはありましたけど、セリフを音にしていくことに関して言えば、明確なビジョンが持てたまま現場に向かえました。ゆえに、そういった感情を汲み取るしんどさはなかったんです。

――今回の朗読では、他の登場人物の心情を汲み取る必要も出てきたんですね。

神谷:ですがアニメーションの方で、その役の声優さんが一回、声にしてくれています。今回はそれを頼りに、他のキャラクターの声立てやリズムを作りました。「斎藤さんはこういう風に吹き込んでいたっけ、こういう気持ちでこういう風に演じていたな、じゃあこういうリズムに読もう」といったふうに、他の方の演技が答えとして提示されています。

ただし、これがアニメーション化されておらず、いきなり八九寺や忍野メメのセリフを朗読しろと言われたら困難だったと思いますね。

■アニメ「続・終物語」やAudible「化物語(上)」の朗読で、神谷が自分に課したこと


――斎藤さんがAudibleの収録で大変だった点はどこでしたか?

斎藤:一番苦労したのが事前の予習です。膨大なテキスト量で、しかも漢字がとても多い!(笑)
漢字の読み方やイントネーション、意味を調べるのがとても大変でした。
神谷さんはアニメの現場で、いつもそれをやっていたから本当に立派な方だと改めて尊敬しています。神谷さんはいつもアフレコ現場に、赤本(※原作小説の装丁を外すと、赤一色の表紙になる)をちゃんと用意していましたし。

――神谷さんがアニメ収録の事前予習で、原作と台本を見比べてチェックされていたそうですね。

斎藤:そうなんです。今回の私は受験勉強のように机に向かってウンウン唸っていました。
見たことのない熟語が出てきたり、どこで区切るのかよくわからない文章もあったり、西尾維新さんが目の前にいたら、ずっと文句言っていたかもしれないです(笑)。

斎藤千和さん
――西尾維新先生の文体はクセが強くて、朗読も大変そうです。

神谷:一作目の「化物語」からファイナルシーズンに至るまで、阿良々木暦のセリフを責任を持って音にしていくにあたって、ひとつのルールを自分に課しました。「句読点は全部守る」というハードルです。

――例えば「口の中の傷は、既に、跡形も無く、治ってしまっていた」と書かれていたら、一回ずつ区切って朗読されていると。

※「化物語」上巻(講談社)419ページより引用

神谷:そういうところも、原作で点が打ってあれば区切る。それを突き詰めて音にしたのがアニメ『続・終物語』でした。

――あくまでも原作に、忠実に。

神谷:阿良々木暦の高校生最後の日まで、全ての物語に目を通して、全てのセリフの意味を理解したうえで音にしていく。プラスアルファ、声優として自分が何を乗っけられるのかを考えた時に、「原作に準拠して、すべての句読点でブレスを取る」。それに徹して、アニメーションの「続・終物語」は音にしました。

――今回のAudibleでも、そのルールに従ったと。

神谷:もちろん文章のセンテンスが長すぎる箇所では、人間の生理的限界として多少ブレスを取った箇所もあります。それに「ここはどうしても点を打ちたくない」ところは多少スルーしている面もあります。ですがほぼ、西尾維新の文章に則って音にしました。

――「西尾維新」成分の純度が高い朗読になっています。

神谷:西尾先生はある意味、規定の枠に収まらない突拍子な方です。劇場で週一で配るフライヤーに「2000文字の短編を書いてくれ」とお願いしたら、2万文字書いてくる人ですから。10倍返しをしてしまうような人(笑)。
西尾維新先生の文章に対してのこだわりは、僕も分かってるつもりなので。それを最初に音にした我々が、責任を持ってできる事は何なのか。それを考えた際に、西尾維新の独特の文体を、そのリズムで読む。僕にできることは、それしかありません。

神谷浩史さん
――斎藤さんは西尾維新先生の文章で、感じたことはありますか?

斎藤:面白いと思ったのが文字で遊ぶところですね。例えば「化物語」下巻では、読み方をあえて出さないことで「どういう読みなんだろう?」と推理させる「浪白公園」という単語。
「ろうはく」なのか「なみしろ」なのか、僕(阿良々木暦)は読み方が未だにわからないという文章なんですよ。
「浪白公園」の正しい読み方が、後に繋がる伏線になっているんですけど、その時点では阿良々木くんは読み方を知らない。でもAudibleは朗読なので、一回音にしないといけない。

――文字と音、本とAudibleで媒体の違いが引っかかってくるところですね。

斎藤:もちろん、この部分はちゃんとスタッフと相談して読んでいますので、どう読んでいるのかは実際に聴いていただきたいですね。
西尾先生は本の読者に向けて、そういった活字で目を追う時ならではの謎かけ遊びをしています。他にも韻を踏んだり、文字同士が繋がっているけど音では繋がらない、といった部分が面白かったです。
私がアニメでひたぎを演じる時は、音で聞いた時に心地よい感じを出すために「だけど」を「だけれど」に必ず直して、ひたぎのリズムを出していました。
西尾先生は逆に、目で活字を追った時の心地よさを出している。それが声の仕事との対比になっていて興味深かったです。

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■新しい日常における、耳で読む「Audible」の楽しみ方


――おふたりが「音声だけ」で楽しむもの、楽しんでいたものはありますか?

神谷:若い頃はドラマCDを好んで聴いていた時期がありました。ですが今回のように小説一冊をまるごと朗読する媒体には、触れたことはなかったです。
学生時代はラジオが好きで、ずっと聴いていましたね。昔はリビングにブラウン管のテレビが一台置いてあるだけで、自分が聴きたいものを独占できるメディアってラジオだけだったんです。

現在、僕が音だけで楽しむコンテンツとしては、AmazonEchoに集約されているかもしれないですね。音楽は空間を心地よく埋めてくれる存在だと思っていて、「Alexa、音楽かけて」の一言で、この空間に相応しい、邪魔にならない音を埋めてくれる。そういった付き合い方で楽しんでいます。

神谷浩史さん
斎藤:私は育ち盛りの子どもたちがずっとうるさく、もう充分音は埋めてくれているので、音楽もかけていません(笑)。

――(笑)。コロナ禍において、声優というご職業で変化した部分はありますか?

神谷:人前に立つことがほとんどなくなりました。イベントだったり、ライブだったり、今まで人前でパフォーマンスしていた仕事が、ほぼゼロに近くなりました。

――オンラインに移行する流れも出てきています。

神谷:今、すでにこの状況が日常になってしまっていると感じています。だから声優という仕事も、コロナ禍の新しい日常に合わせたコンテンツ作り、エンタメ作りをしていかなければならないと感じています。
「本来だったら、みんなで一緒にアフレコできたのに」という状況では、もはやありません。ではバラバラで収録して作品のクオリティを上げていくには、どうしたらいいのか。そういうことを考えていかなければならないと感じています。

――声優一人ひとりが、そういった新しい日常に対応していく必要があるんでしょうか。

神谷:でもコロナ前の日常を思い返す人のほうが多いと思いますし、全員が全員、僕みたいな考え方をしていたら息が詰まっちゃいます。全員がそんな考え方をしなくてもいいと思います。

――ユーザー側の変化としては、自宅にいる時間が増えることで、Audibleで物語を楽しむ機会も増えると思います。

神谷:海外では長距離トラックの運転手や、家事が忙しくて読書時間が取れなくなってしまった人たちが、そういう利用のされ方をしていると聞いたことがあります。
そういう利用は日本ではまだ少ない気がしていて、「聴く読書」のスタイルが新しいエンタメとして、皆さんに定着していけるようになれたらいいですね。

斎藤:家事をしながら聴けるのはいいですよね! 家事に追われていると、本を読む時間が捻出できず、とても大変なんです。

斎藤千和さん
神谷:今回のAudible収録は長い収録時間で、修行みたいな事をやらされていると思わなくもなかったですけども(笑)、そんなことも言ってられないなと。
我々は声で物事を伝える立場の人間ですから、小説をまるごと一冊、耳で読むことを当たり前に受け容れられるように、前向きに捉えています。皆さんも、そういった形で楽しんでいただけたら幸いです。

斎藤:今はコロナ禍で気持ちも落ち込みますし、外出自粛して家にいる時間を持て余して、さらに心が沈んでしまう時があると思います。そういう時に、「化物語」のAudibleを癒しとして聴いていただけたら嬉しいです。

神谷浩史さん、斎藤千和さん
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《かーずSP》

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