「YouTubeアニメチャンネル」急成長のいま、“アニメと著作権”の関係に変化…「違法動画ではなくUGCと捉えることも必要」 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「YouTubeアニメチャンネル」急成長のいま、“アニメと著作権”の関係に変化…「違法動画ではなくUGCと捉えることも必要」

海外人気の勢いが止まらない日本のアニメーション。かつては海賊版サイトなどの違法アップロード問題が大きく取り沙汰されていたが、昨今はNetflixなど動画配信サービスの普及によりやや落ち着いた印象がある。

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『あたしンち』(C)ママレード/シンエイ
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■これからのアニメとネットの付き合い方は?


ネット上でのアニメの著作権侵害は途絶えることがなく、権利者はそれに対応せざるを得ない、というのが現状のようだ。

この状況に改善の余地はないのだろうか。

ALPHABOAT社著作権管理チームの金聡一氏は「ファンがアップロードした動画をブロックするか放置するかの二者択一ではない、細やかな対応が必要になるのでは」と唱える。

同社は現在アニメ「あたしンち」の専用チャンネルの運営・管理を行っている。専用のCMS(=Contents Management System)を用いることでYouTubeにアップロードされた同作の違法アップロード動画を抽出し、適宜対応しているという。


「たとえば、動画を全編アップロードしたものはブロックする一方で、3分以内の動画や作品紹介用のダイジェストムービーに編集された動画などはブロックせず、広告収益を権利者に還元するよう再設定しています。また、ある国ではブロックするけど他の国では公開OKとするなど、権利者様と協議の上、方針にあわせたポリシーをコンテンツごとに設定しています」と金氏は言う。

対応を細分化するメリットは何か。「ファン動画から広告収入を得られるだけでなく、視聴データの解析によってどの国ではどのエピソードのどのシーンの視聴傾向が強く人気がある、などの情報を得ることができます。これによって海外展開や次のコンテンツ展開に際してファンの望むものを的確に提供できます」

また、同社に出資している米Fullscreen社の Rights Management Specialist ・福角佑輝氏は「我々は『違法動画』という言葉は使いません」と言う。

「私たちは字幕を付けた動画や作品の見どころを集めた紹介ムービーなど、ファンがファンに向けて作ってくれた動画をUGC(=User Generated Contents)と捉え、それが生み出す可能性を探っています。これからは権利者もUGCをどう捉え、どう活かしていくかのビジョンを持つことが求められるようになるでしょう」

Fullscreen社はロサンゼルスの企業だが、筆者には「欧米企業は権利意識が強く適法でないものは断固として許さない」という印象があったため、福角氏のコメントは意外に感じられた。
それを伝えると「アメリカの企業も動画配信サービスの黎明期は正規でない動画を厳しく取り締まる傾向がありました。様々な事例が蓄積されていく中で、単に法に照らして取り締まるだけではなく、権利者にもファンにもより良い結果になるよう徐々に傾向が変わっていったのです」と答えた。

動画メディア上でのUGCの概念では欧米は日本の先を行っているように感じられるが、実は日本にも違法アップロードされたアニメ動画をうまく活用した事例が過去にあった。

『涼宮ハルヒの憂鬱』関連の違法動画が放送当時数多くアップロードされていたのは前述の通りだが、2008年に角川(現KADOKAWA)はYouTubeに違法アップロードされた動画のうち権利者の許諾を得られたものを「角川公認MAD」(アニメ映像に編集や加工を加えたり他の作品映像と混ぜるなどした動画作品)として認定する取り組みをスタートした。

同取り組みは2012年頃まで続けられ、それ以降は中止されたようだが、過去に認定された動画の一部は現在もYouTube上に残っている。


上記動画は2009年にアップロードされた角川公認MAD動画の一つだ。
劇中曲のフルサイズに合うよう本編映像を編集したものでまさにUGCと呼ぶべき動画である。権利者である角川の公認の上、2020年現在も削除されることなく視聴可能な状態が維持されている。

この動画はアップロードから10年経った2019年に1億再生を達成し、現在に至るまで毎日ファンによるコメント欄への書き込みが絶えない。
UGCを緩やかに管理することでファンも権利者も利益を得ている好例と言えるだろう。

■ネットで共有されたアニメ、今後の課題は?


では、ネット上にアップロードされたUGCを緩やかに管理する上で、ボトルネックになるのは何か。佐藤氏は「著作権者への正しい啓蒙と、日本独特の製作委員会文化への適切な対応」が鍵だと言う。

「出資者の観点では、アメリカでは通常1コンテンツ1オーナーなので許諾はオーナー1人に確認を取ればいいケースが多い。
一方、アニメや映画など日本の著作物には権利者が多数存在するケースが多い。コンテンツをネット上でどう運用するか、そこで得た収益をどう分配するかなどは製作委員会での取り決めが必要になりますが、過去のコンテンツの中には当時取り決めが行われておらず、再取り決めの精神的・物理的ハードルが極めて高い。今後はネット上でUGCが生成されることを前提に委員会を作った時点でポリシーを定めておくことが肝要です。
また、同様の理由で、原作者・監督・脚本家などの権利者といかに事前に認識を合わせておけるかも大変重要です」
と警鐘を鳴らした。

権利の所在が比較的明確なマンガ業界では、権利者の意向を汲んだうえで同人活動をある程度黙認する慣習があり、そこで作品人気が高まったり新たなプロ作家の才能が見出されたりするケースはしばしば存在する。

またボーカロイドソフト「初音ミク」などはキャラクターを用いた創作におけるガイドラインを明示することで人気を長く持続し、成功を収めている。
もしマンガや初音ミクと同様にアニメにおいてもある程度自由に映像を編集し二次的作品を制作することが認められれば、大なり小なり作品人気の拡大には寄与するだろう。

そういった取り組みが海外展開を含めた次の一手の契機になり、ひいては膠着したアニメビジネスそのもののブレイクスルーになるかもしれない。

『あたしンち』
(C)ママレード/シンエイ

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]
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《いしじまえいわ》

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