ドロヘドロ、ゾンビランドサガ…アニメスタジオ・MAPPA、ヒット作の裏にある“手のかかること”をやる精神【インタビュー】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

ドロヘドロ、ゾンビランドサガ…アニメスタジオ・MAPPA、ヒット作の裏にある“手のかかること”をやる精神【インタビュー】

アニメサイト連合企画「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」の第22弾は、「MAPPA」より現社長の大塚学さんと制作部の部長を務める野田楓子さんに話を聞いた。

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野田楓子氏、大塚学氏
野田楓子氏、大塚学氏 全 21 枚 拡大写真

■「面白い」が一番の原動力


――片渕監督の『マイマイ新子』や『この世界の片隅に』の資料を見ると、取材資料にイメージボード、落書きを含めて、膨大な絵の積み重ねがあります。その膨大な絵を映像に凝縮する制作作業において、監督の要望を叶えるために心がけていることはなんですか?

野田:スタッフに徹底してもらっているのは、「話をきこう」「コミュニケーションをとろう」という姿勢です。
私もいろいろな監督の下でやってきたので、要望を叶えるためにはどうしたらいいんだろうと、迷ったり難しいなと思ったりしたことがたくさんあります。

野田楓子氏
制作の観点から、実現不可能だからと考えることをやめてしまうと、クリエイターと対話ができなくなってしまいます。
「できること」しかやらないという姿勢は、単純に作り手としてもおもしろくないですし、視聴者に刺さる映像にならないのでは、と思うんですね。

だから言っていることがわからない、どんな手法を使ったら実現できるのかわからないのなら、それを「わかる」ようにみんなで考えようと、声がけをしています。

――大人数で共通意識を持つ難しさがあると思いますが、スタッフ間の交流で普段心がけていることはありますか?

野田:仕事としてわからないことを、わからないままにしておかない。ひとりずつちゃんとコミュニケーションをとるようにしています。

監督によって大事にしているものは違うし、スタジオとして守るべきものも違います。監督の要望に応えるだけでなく、制作的な視点も踏まえ、きちんと仕事として昇華していこうと、できる限り伝えるようにしています。

でもやっぱり、若手スタッフたちにどういう風に伝えたら響くのか、正解がない難しさも感じていて。

野田楓子氏、大塚学氏
難しさや厳しさも含め、なによりもこの仕事が「面白い」とどうやったら思ってくれるだろうかと日々模索し、悩みながらやっていますね。

挨拶もコミュニケーションも、会社のルールとしてやりなさいというのではなく、個人の資質や状況に合わせて、その人に響くベストの選択をしたいなと常々思っています。

――スタジオとして、制作する作品を選ぶ基準はありますか?

大塚:プロデューサーや監督が、「面白い」とか「やってみたい」と心の底から思える作品です。
それに加えてMAPPAとして取り組むお題というか、役割みたいなものもそれぞれの作品にあります。設立初期の作品は、社員を中心としてスタッフの経験や会社の実績を積むことを目的としたものが多かったです。
最近の作品では、2020年に放送した『ドロヘドロ』でのCGですね。MAPPAで初めてCGを多用して、世の中にどう評価されるのか。有名原作で勝負させていただきました。

『ドロヘドロ』(C)2020 林田球・小学館/ドロヘドロ製作委員会
『ドロヘドロ』(C)2020 林田球・小学館/ドロヘドロ製作委員会
なので、どうしても目的意識が見いだせない作品は、お断りさせていただくこともあります。何かしらスタジオとして「今回はこれにチャレンジしよう!」という視点は大事にしています。

――作品ごとに、スタジオとしてミッションをもって取り組んでいるんですね。作品を選ぶときには、主にどなたと話をしますか?

大塚:野田はもちろんのこと、迷ったときはその作品の視聴者に近い人の意見を聞きます。
女性向けの作品、女性に人気になりそうな作品などは、僕だけの判断では決められないので、20代の女性社員やスタッフの話を聞くなど、リサーチしたうえで、最終的に決めています。

MAPPAの制作スタジオ
MAPPAでは、3DCGを始め、背景・仕上げ・撮影など多くのスタッフが同一フロアにあり、 コミュニケーションが取りやすい環境になっている。
――設立から現在までを振り返ってみて、ターニングポイントになった作品はなんでしょうか?

大塚:それこそ初めてTVシリーズを制作した『坂道のアポロン』などいくつもありますが、次に繋がった作品として挙げられるのが、『神撃のバハムート GENESIS』(2014年)です。

『神撃のバハムート GENESIS』(C)Cygames/MAPPA/神撃のバハムート GENESIS
『神撃のバハムート GENESIS』(C)Cygames/MAPPA/神撃のバハムート GENESIS
会社経営を軌道に乗せなければいけない一番苦しい時期に、Cygamesさんと「信頼関係」を早い段階で結ぶことができたのは、かなり大きかったです。
その信頼が、後の『ソンビランドサガ』や『ユーリ!!! on ICE』にも繋がっていったので。

――設立理由でもある『この世界の片隅に』は、『神撃のバハムート GENESIS』よりも後の2016年にようやく公開されましたね。

大塚:設立当初から作っていましたが、資金集めに苦労していましたし、世の中にどう出すかも決まっていなくて、クラウドファウンディングに辿り着くまでは苦しい時間を過ごしていました。
途中でジェンコの真木太郎さんに協力していただいて。僕が社長を引き継いだ年に映画が公開されましたが、基本的には丸山が『この世界の片隅に』をずっと作り続けていました。
それで国内外で賞をとり、興行的にも成功を収めたのは、純粋に尊敬しますし、片渕監督を含め、先輩たちが結果を残してくれたというのは、スタジオにとっても僕自身にとっても特別な経験となりました。

――2016年には、こちらもまた世界的に注目を集めた『ユーリ!!! on ICE』も放送されています。この作品は、スタジオとしてどんな目的を持って取り組みましたか?

『ユーリ!!! on ICE』(C)はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
『ユーリ!!! on ICE』(C)はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
大塚:当時ほかにもいくつか企画がありましたが、フィギュアスケートを題材にした作品の大変さは重々承知していました。
その段階でスタジオとしてはヒット作がなかったので、どの作品であれば勝負できるのかと考え、『ユーリ!!! on ICE』を選びました。

野田:まさに「大変だけど面白そう」という理由でした。企画書の段階から熱量がすごかったですし、単純にアニメでフィギュアスケートという題材自体の挑戦がなかったんです。
難しいが逃げずに描こうとした事で、結果放送中に多くの視聴者から反応が返ってきたので、ちゃんと作品を観てくださっているお客さんがいて、喜んでくれていることが作り手にもかなり大きな力を与えてくれるんだなと感じました。

大塚:翌年の2017年は「生産力を上げよう」という目標で、『アイドル事変』、『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』、『賭ケグルイ』、『将国のアルタイル』、『いぬやしき』、『牙狼〈GARO〉-VANISHING LINE-』と年間通して6本のアニメーション作品を制作しました。

そうした成果も踏まえつつ、2020年の『ドロヘドロ』は「3DCGを中心とした作品つくり」 という大きな挑戦をしました。

――あらためて『ドロヘドロ』はどのような経緯でアニメ化に至ったのでしょう?

大塚:実は僕自身が原作のファンで、10年ほど前にアニメ企画を立てたこともあるんです。でも当時は企画を通す力がなくて。時を経てから制作のお話しをいただいて、「今ならできる」と思って挑戦しました。

――作画ではなくCGをメインにした理由はなんですか?

大塚:どこかのタイミングで、3DCGメインの作品を作りたかったんです。アニメ制作会社の特性を活かして3Dを使うと、どう画を見せられるのかに挑戦したくて。

野田:制作サイドとしても、原作の良さを出すためにCGを使うのがベストだという判断でした。スタジオとして作画とCGに垣根を設けているわけではなく、目指す映像表現を達成するために、ベストな手法を選んでいます。

『ドロヘドロ』の背景美術を制作しているスタッフ
『ドロヘドロ』の背景美術を制作しているスタッフ
――新しい挑戦での苦労は?

野田:単純にどういうチームで作っていくのか、表現はどこまでこだわるべきなのかという苦労がありました。
スケジュールや予算があってこその表現ではありますが、そういった理由でクオリティを下げることはしたくない。だったらどんな方法をとれば実現できるかというのを、頭からトライし続けた作品です。

本当は、全編フルCGでいきたいところなんですが、原作の魅力が、服装や世界観の変化にあるため、そこを大切にしたい。そこで、限られた話数にしか出てこない特別な服装は手描きにしました。

現場に入る制作スタッフも、CGという手法をあそこまで使った経験がなかったので、現場の回し方やフローチャートの作り方も、トライアンドエラーの連続でした。
100%内製でやるのは物量的にも無理があったので、外部の力を貸して頂きましたが、「作品がすごく好き」という方がたくさんいらっしゃって、すごく助けていただきましたね。

――最終的には、やはり100%内製を目指していくのでしょうか?

野田:現状、まだまだ時間は必要ですが、これからも常に挑み続けたい目標でもあります。

クオリティも常に上を目指していますが、『ドロヘドロ』の挑戦で、どうしたらもっと良い動きや表情が作れるのかを、常々研究しながらやるというモチベーションが出来たので、すごく大きな成長に繋がったと思っています。

次はどこまでいけるようになるのかが、本当に楽しみです。


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《中村美奈子》

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