「泣きたい私は猫をかぶる」監督ふたりが語る、誕生秘話とネコ表現のこだわり【インタビュー】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「泣きたい私は猫をかぶる」監督ふたりが語る、誕生秘話とネコ表現のこだわり【インタビュー】

6月18日よりNetflixにて全世界独占配信される『泣きたい私は猫をかぶる』より佐藤順一・柴山智隆の両監督にインタビュー。本編そのものに加え、制作過程におけるデジタルの使い方や、新型コロナ感染症の影響でNetflixでの独占配信になったことなどについて聞いた。

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『泣きたい私は猫をかぶる』(C)2020「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会
『泣きたい私は猫をかぶる』(C)2020「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会 全 15 枚 拡大写真

■ネコ表現のこだわりは?


――今回はネコのかわいらしさも重要なポイントですが、ネコの表現でこだわったところを教えてください。

佐藤:まず、ネコの毛の“ふわふわ感”はなんとしても出したかったので、撮影さんにお願いをしてかなり粘りました。
輪郭線を実線で描いたうえに、毛のふわふわ感を足しているので、リアルというわけではないんですが、それだけに、ふわっとした感じが出ていて、なおかつ違和感がなくみられるギリギリのところを探ったので、けっこう時間がかかりましたね。


柴山:ネコの動きについては、今の状況だとちゃんと描けるアニメーターさんが少ないだろうという予想がありました。
なので猫モーションとしてクレジットされている横田(匡史)さんに、動きのパターンをいろいろ描いてもらいました。

歩き、速足、それから走り。走りは、シングル(シングルサスペンション・ギャロップ)とダブル(ダブルサスペンション・ギャロップ)がありますし。

――シングルとダブルの走りの違いはどこにあるんですか?

柴山:走りの中で1回宙に浮くのがシングルで2回宙に浮くのがダブルです。この設定を参考に、各カットにあったネコの動きを描いてもらうようにしました。
……あとは、ネット上にあるネコ動画はいっぱい見ましたね(笑)。

佐藤:うちはネコを飼っているので、改めて体を触ってみて「ここに肩甲骨があるのか」なんて確認をしてみたりはしました。

柴山くんの絵コンテで、日之出の太ももを前足で“ふみふみ”するところがありましたよね。
日之出は、ごはんの催促だと思っているんだけれど、あの“ふみふみ”はやられるとうれしいものなんですよね。


柴山:あのへんは、ネコを飼っている人に、ネコというか太郎の気持ちを想像してもらえればと思ってお芝居をつけました。

■内面に複雑な感情を抱えた主人公・ムゲ


――ムゲという主人公はどんな女の子だと考えて演出しましたか?

佐藤:ムゲというキャラクターは、普通の人とズレた価値観を持っていて、まわりを巻き込むウザい系の女の子という設定からスタートしました。

でも実は、家庭の中でも自分の立場を演じている女の子で、ついに居場所のなさに感情を爆発させて出て行ってしまう――という展開も最初から決まっていました。

その後、演出しながらムゲのことを考えていくと、彼女のカラ元気の理由がだんだん見えてきて。
彼女は小学生の時にお母さんが出て行ってしまって「自分が好きだったものから裏切られた」という経験をしているんです。
そのため好意を持っている相手から好かれるというイメージがうまくもてなくて。それで日之出が好きになっても、普通にアプローチして断られたら、もう逃げ場がなくなっている。


だからウザめのトライをして、「こんなトライをしたから嫌われているんだ」という形で自分を守っているんですよね。
そういう薄皮のような弱い鎧で無自覚に自分を守ろうとしている。それがムゲという子なんだろうと思ってます。

柴山:ムゲというあだ名は「無限大謎人間」って呼ばれていたのが縮まってムゲになったので、最初は“謎人間”として描かないといけないと考えていました。
でも自由奔放で謎だとお客さんに好かれないんじゃないかという不安もあって。佐藤さんの絵コンテを見たら、今、佐藤さんが話されたようなバックグラウンドが感じられるようになっていて、これなら愛されるキャラクターになるなって思いながら演出していました。

あとムゲがロフトベッドを使っているという設定は僕のほうで作りました。

――なぜロフトベッドだったのですか?

柴山:一人っ子なのにわざわざロフトベッドにしたのは、ベッド下の空間にカーテンを張って、そこから奥はムゲの内面の世界というふうに見せたかったからです。
そしてムゲがそういうふうに自分の内側で妄想してしまうところがある子だということを表現するために、本棚に異世界が出てくる児童小説や絵本を並べて、ムゲがどんな子なのかを表現してみました。

佐藤:アフレコの時に志田未来さんにお願いしたのは、登校中は「学校モードのムゲ」、帰り道にひとりで歩いている時はちょっと素に戻るけれど、近所のおばちゃんと会ったり家に戻ると今度は「家庭モードのムゲ」になる、ということです。


だから猫のお面をつけて猫店主にポンポン言い返している時のほうが本人の素の姿が出ているんです。そのあたり志田さんがうまく演じてくださいました。

■ファンタジックなネコ世界はどう生まれた?


――『泣きたい私は猫をかぶる』は、ムゲと日之出の日常というリアルな世界だけでなく、ネコになれるお面を売っている怪しげな猫店主が登場したり、ファンタジックな要素もあります。

柴山:猫店主はなかなかつかみきれなくて悩みました。それで「こういうふうに動いたらおもしろいだろうな」というところを手掛かりに絵コンテを描いて、それを佐藤さんにあてていく感じでした。
佐藤さんがそこをおもしろがって膨らませてくれたらいいなと思って、そういう意味では楽しみながら描きました。


佐藤:猫店主の初登場は、自動販売機の取り出し口から出てくるんですけれど、それが柴山くんのコンテで。
それを見て「ああ、猫店主というのは、とにかく変な空間から出てくるキャラクターなのね」ということが分かったので、そのあとも登場シーンは、そういう狭いところから出てくるようにしました。まあ猫店主は化け猫的なものですからね。

柴山:ミケネコは遺伝的にオスがほとんどいないわけですから、そこも不思議な存在ではありますよね。

佐藤:まあ、声は山寺宏一さんだけれど、猫店主がオスかメスかはわからないからね(笑)。

柴山:(笑)。

――クライマックスで舞台になるネコ世界はどんなふうに構築されたのでしょうか?

佐藤:ネコ世界は脚本の段階ではそれほど明確に書かれているわけではなかったです。そこを永江彰浩さんと柴山さんがメインになってガチガチと作ってくれました。
僕のほうからは、ネコ世界のネコはみんな幸せそうに暮らしている、ということをお願いしました。


柴山:佐藤さんとお話をしている時に、人間の世界とネコ世界を行き来しているネコもいるだろうから、ネコ世界は人間の世界の影響を受けているんじゃないかという話がありました。

僕もあまり安易な感じで世界を作るのはよくないと思っていたので、佐藤さんのそのお話をヒントにしつつ、永江さんと相談して、どこかちゃんと地に足がついた感じになるように考えて作っていきました。

例えばロープウェーが出てくるんですが、ロープウェーがあるということは電力があるっていうことで。「じゃあ、電力は何で起こしているんだろう?」とひとつひとつ考えていきました。

作中ではあまり説明していませんが、クライマックスの舞台になる神殿の上に砂が落ちているんですけれど、あれはネコ砂なんです。ネコがトイレに使うあれです。


あれを循環させて発電しているということにしました。そのあたりは楽しみながら作りましたね。


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《藤津亮太》

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