■過去作オマージュと新たなる要素
――今回初代『デジモン』の主題歌である「Butter-fly」のオリジナルバージョンをシリーズ最新作である本作でオープニングとして流す演出に、スタッフ陣のこだわりを感じました。そこへの思いも聞かせて頂ければと。
木下:これはとても迷ったんです。『デジモン』は劇伴も大事だけど、歌がなにより大事だなと思うんです。
だけど、象徴である「Butter-fly」は和田(光司)さんがいない今、新しくは作れない。でも他の人が歌うのは違う。そう思って辿り着いたのが、今の形です。
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決め手になったのは、田口監督が作品の構成を「前半でファンに喜んでもらい、後半でこの作品ならではの思い、メッセージを伝えたい」と考えていたことですね。
だから、前半のオープニングではオリジナルの「Butter-fly」を流すことにしたんです。
――関さんとしても「Butter-fly」を使うことへの思いはありましたか?
関:私は「Butter-fly」という楽曲の凄さは誰よりも知っているのですが、ここの判断は木下さんと田口監督に委ねることにしました。
なぜかというと、昔のTVシリーズや映画と同じように、今作も愛され続けていくとして、20年先の責任が私に持てるのかと言われたら、正直言って難しい。でも、20年後も木下さんは会社にいるはずだから、責任とれるよね? と(笑)。
新作を新しいスタッフが作る以上、大事な決断はその人たちが下すべきだし、今のプロデューサーが責任を負うべきだと思っているんです。
――今作のキャラクターは、『02』の最終回で描かれた、大人の姿を意識した造形になっていると感じました。終着点が過去に描かれているからこその苦労はあったのでしょうか?
関:苦労はしませんでしたね。過去のTVシリーズを作ってるときを思い出しつつ、楽しく作ることができました。

木下:基本的にそれぞれの2010年時点でのキャラクター像のアイデアは関さんに出してもらったのですが、早かったですね。
――ファンからすると太一たちがお酒を飲んでいる姿には感慨深いものがありましたが、スタッフ陣として特に見せたかったシーンはありますか?
木下:お酒を飲ませようというのは、最初の頃から打ち合わせで言っていました。
関:それと、太一の家がそれほどお金持ちではなかったから、バイトをしないと一人暮らしは難しいよねという話はしていて。
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――太一のバイト先はどのような経緯でパチンコ屋になったのでしょう?
関:大和屋くんと太一のバイトについて話していたとき、「家庭教師は似合わない。かといって、居酒屋の店員もちょっとイメージと違う」という風に、いろいろなバイト先を考えた結果、最終的にパチンコ屋へと落ち着きました。
木下:太一は大学生になってもまだ自分の道を決めきれていなくて、とりあえず一歩踏み出すために一人暮らしを始めたんですよね。
そこで「親に負担をかけずに自分でなんとかしたい場合、割の良いバイトを探すだろうと。じゃあパチンコ屋かな?」という流れがあって。
そういったリアリティを追求するのは、打ち合わせをしていても楽しいところでした。
関:まず、交通事情から考えたんですよ。「太一は東京のお台場に住んでいるから、都内の大学に通うのが大変ではない。じゃあ、一人暮らしをする理由は?」とか、そういうことをリアルに設定しないとウソっぽくなりますし、突き詰めて設定していくのがとても好きなんです。
木下:今作は2010年のお話ですが、当時のデジタル事情に関しても、実際の年表と照らし合わせて考えていきました。
ただ、全部を現実に即した設定にしたわけではありません。例えば、今回登場するデジヴァイスはスマホ型ですが、2010年はそれほどスマホが普及していないんです。
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でも、シリーズの中で現代社会がデジタルワールドと関わることが増えているから、文明がちょっとだけ先に行っても良いんじゃないか? と解釈したりもしていて。
関:調べると、2011年あたりからスマホがどっと増えてきているんですよね。あとは、今はみんなが使っているLINEのようなアプリも、実は2010年にはまだ登場していないのですが、今回は描写としてあったりもして。
木下:我々の歴史より一足先にスマホが普及しているなら、グループチャットを行うアプリが普及してもおかしくないかなと。
――そういった様々な変化が描かれる中、8人の子どもたちの中では、空の立ち回りが独特だった印象を受けました。
木下:今回の物語の根幹になる「いつまでもそのままではいられない」ということを8人の中の誰かで象徴的に描くならば、空が適任だと考えたんです。
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関:もう一つは、大人になった空を登場させると、「太一やヤマトとどうなってるの?」という疑問に答えを出さないとお客様は納得しないと思うのですが、今回の映画は90分なので、恋愛を描いても中途半端になってしまうおそれがありました。
なので、今回はシンプルに、『デジモン』の良さを出すことに特化した映画にしようと考えたんです。
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