2010年度よりスタートし「PROJECT A」「アニメミライ」と名称を変更しつつ、本年の「あにめたまご2020」にて通算10年目の実施となる。
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新作オリジナルアニメ作品制作の実習と一般社団法人日本動画協会が提供する講習を通じ、若手アニメーターの基礎スキル向上を目指す取り組みの「あにめたまご」は、先日無事全てのカリキュラムと作品制作が完了した。
今回は作品制作と人材育成に名乗りを上げた3社のうちの1つ、『オメテオトル≠HERO』を手掛けた株式会社スピードを訪問し、プロデューサー/脚本の森田淳也氏と粟津順監督へインタビューを実施。次世代アニメ人材育成の在り方や新作アニメ『オメテオトル≠HERO』創作秘話についてもうかがった。
[取材・文=いしじまえいわ]
◆『オメテオトル≠HERO』作品紹介
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(C)2020 株式会社スピード/文化庁 あにめたまご2020
【あらすじ】
2220年、地球の人口は減少の一途をたどり、政府は同盟を結んだ星の種族を地球に受け入れた。その結果、さまざまな属性が入り混じり、特殊能力を持つ異種族が誕生。生態系は加速度的にマシン化され、手のかかる動植物は地球上から排除されていく。その中で植物を操る華魔族も抹殺されるが、たった一人の生き残りがこの星を森で覆いつくすべく、樹木化テロを遂行していく。その頃、18歳の誕生日を迎えたヒーロー族のユーキは、祖母のハルコからヒーロー族の父と華魔族の母から生まれた子であることを知らされ、両方の力が覚醒してしまう。果たしてユーキは今、誰を助け、何と戦うべきなのか?
■価値観が転換する、二面性のニューヒーロー
――あにめたまご2020にエントリーしたきっかけについて教えて下さい。
森田:昨年の「あにめたまご2019」に参加されたFlying Ship Studioさんと仕事でお話する機会があって「今、これ(あにめたまご)で忙しいんだよ」と話は聞かされていたのですが、その時は「そうなんだー」と他人事のように聞いていました。
弊社代表からも「こんなのあるよ」と薦められたのですが、当初はCG会社である私たちが参加するイメージを持てずしばらく意識から外れていました。
――認識が変わったのはいつ頃のことでしょうか?
森田:ある時ふと「Flying Ship StudioさんもCG会社なのだし、自分たちが参加希望を出してもいいんだ」と思ったんです。
弊社にはあにめたまごで指導対象となる若手クリエイターが十分いましたし、若手の意識とスキルを上げたりオリジナル作品を作れたりする機会をいただけるのであれば参加希望を出さない理由はないな、と思い至りました。
ただ、そう思ったのが、あにめたまご応募締め切りの2週間前だったんです。
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左:粟津順監督・右:プロデューサー/脚本の森田淳也氏
――それはタイトですね!
森田:エントリーの準備はものすごい急ピッチでしました。
――他の2社さんは何年も参加を検討して今回やっと参加できたと仰っていたので、2週間というスピード感は驚きです。
森田:そうだったんですね、それを聞くと勢いだけでいっちゃった感じはあります(笑)。
粟津:あにめたまごでは毎年3DCGスタジオにも門戸を開いているようなので、その枠に上手く入れたのかもしれませんね。
――タイトなスケジュールの中、このオリジナル企画はどのように立ち上がったのですか?
森田:急ぎ社内で企画募集をしたのですが、なにぶん応募締め切り目前でしたので、最初はざっくりとしたコンセプトだけ募りました。
そこで出た「善と悪の2面性があるヒーロー、価値観が転換する」というコンセプトを膨らませる形で物語やキャラクターを作っていきました。
――「2面性のあるヒーロー」というコンセプトは完成した作品にも色濃く出ていますね。軸がしっかり守られているのを感じます。
森田:オメテオトルという名前も「光と闇」「男と女」といった2面性の両方を司るアステカ神話の至高神の名前なんです。
シナリオは僕が担当し、「いいと思っていたものが、見方が変われば悪にもなる」と価値観が転換するシチュエーションだったり、舞台が未来だったり植物が攻撃してくるといった要素もこの頃盛り込みました。
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――物語についてはどうでしょう? 1話で終わり切らないラストは、あにめたまご作品にはあまりなく衝撃がありました。
森田:2面性のあるヒーローという複雑なものを24分で無理矢理描き切ろうとすると安い話にしかならないだろう、ということは初期段階で気が付きました。
ですから、無理に「ちゃんちゃん」という終わり方にせず、価値観が転換して主人公がそれを受け入れるまでをしっかり見せる構成にしました。
粟津:本来1クールくらいかけて描く物語だと思うんです。だからその1話目というか、ヒーローが誕生するまでの話であるエピソードゼロ的な作りです。
――監督はどのタイミングから参加されたのですか?
粟津:プロットを経てシナリオの第1稿ができた辺りだったと思います。
ただ、コンテを描いている最中もシナリオは二転三転して結局第4稿までいきました。
――大きく変更したのはどのあたりですか?
粟津:特にキャラクターですね。当初はヒロインのリリーがいなくてライバルキャラクターが男性だったんです。
しかし、女性キャラクターのほうがいいのではとなり、主人公との関係も主従関係から恋人同士に変更になりました。結果として男女比のバランスが取れたと思います。
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粟津:元は前半のユウキとハルコのシーンの比重が大きかったのですが、キャラクターの変更によって後半のリリーとのシーンのウエイトの方が重めになりました。
またクライマックスはバトル中心だったのが、相手を女性にしたことで会話劇の要素が大きくなるという変化もありました。
他にも変わった部分はありますが「価値観が転換する」という大筋は全く変えていません。
――最初のコンセプトはあらゆる面で厳守されていたのですね。
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