”アニメーターは役者なんだよ” 徹底的に調べて描く「レベッカ」の日常芝居へのこだわり【あにめたまご2020 インタビュー】 3ページ目 | アニメ!アニメ!

”アニメーターは役者なんだよ” 徹底的に調べて描く「レベッカ」の日常芝居へのこだわり【あにめたまご2020 インタビュー】

若手アニメーター等人材育成事業「あにめたまご2020」より、『レベッカ』を手掛けたベガエンタテイメントの寺本幸代監督と安本久美子プロデューサーにインタビュー。作品の魅力と若手教育を通じて得られたものについてお話をうかがった。

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(C)ベガエンタテイメント/文化庁 あにめたまご2020
(C)ベガエンタテイメント/文化庁 あにめたまご2020 全 14 枚 拡大写真

■「アニメーターは役者なんだよ」


――制作を通じた教育では、どのようなコンセプトで取り組まれたのですか?

安本:弊社の特徴の一つとして、原画や動画だけでなく、美術や撮影、仕上げに至るまで、脚本以外はほぼ全ての部署が社内にあるという点があります。

ですから今回新人アニメーターさんには自分が手掛けた画がその後どういう工程を経てどのように完成に近づいていくのか、実際に現場を見て話を聞いて学んでもらいました。
いい機会になったと思います。

――それは確かに得がたい機会ですね。作劇上のコンセプトなどはあったのでしょうか?

寺本:『レベッカ』はアメリカの片田舎を舞台とした物語ですから、それに合うようにマンガチックな誇張表現を少なくして日常芝居をリアルに描くことを心がけました。

予算の都合上、TVアニメでは多くの場合枚数を少なく描くことが求められるため、みなさん割と動きを省略して描くことに慣れてしまっているんですよね。
だから枚数を使ってよりリアルな動きや芝居を描いてもらうことが大変でした。上手い人ほど慣れた方法で描いてしまうんです。

――リアルな動きを描いてもらう上で、どのような指導をされたのでしょうか?

寺本:「どんなに簡単に思える動きでも自分で演じてみたり人に演じてもらったりそれを動画に映したりしてしっかり見て描いてください」ということは口を酸っぱくして言いました。

レベッカの着ているエプロンドレスの参考として、実際にエプロンドレスに近い服を用意して「ここに置いておくからいつでも着て動いてみてね」ということをしました。

「あにめたまご2020」ベガエンタテイメント インタビュー
寺本:単にドレスを持ち上げて見るというシンプルな動きだけでも、布を持つときに手首や指はどんな角度になっているのか、布はどう折れ曲がってどのようにシワが入るのかなど、こだわって描いてもらうようお願いしました。

20分ものを1回作っただけではなかなか変われないと思いますが、「アニメーターは役者なんだよ」「自分で芝居してみてね」ということがみなさんに伝わって、後々になって少しずつでも影響があるといいなあと思います。

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安本:結果的にディフォルメされた画や動きを描くにしても、基本が人間のリアルな芝居であることは変わりませんし、それがしっかりできていれば応用も利くようになります。

アニメは様々な人が見るものですから、基本となる日常芝居は重視すべきだと考えています。それをこのプロジェクトを通じて学んでもらえたのは良かったなと思っています。

寺本:それと、実際に調べて描くことも若い人に伝えられたんじゃないかと思います。本作は19世紀末のアメリカが舞台ですので、生活文化も小物も今とは全然違うはずなんです。
たとえば、井戸のポンプを上げ下げしても水はすぐにはバシャ―っと出てきませんよね。

そういったことは自分で見たり体験したりしないとリアルには描けませんから、何でも動画や画像などで調べてから描いてもらうようにしました。

安本:若手だけでなく監督や美術さんも苦労されていましたよね。

寺本:そうですね。この足場は土なのか石畳なのかとか、馬車のこのパーツの素材は木なのか金属なのか、とかですね。
他にも、メインドアの外側にちゃんとスクリーンドアがあるという描写をしたり、描く前に調べることが膨大でそれだけでも死ぬ思いでした(笑)。

――それは気の遠くなるような作業ですね。

寺本:でも、そうしているうちに若手の中でもしっかり調べてくれるようになった人がいて、私にアメリカの食事マナーについて指摘して助けてくれました。とてもありがたかったです。

――それは具体的にはどういうことですか?

寺本:日本やヨーロッパでは食事の際に左手は食器に添えますが、アメリカでは左手は膝の上に乗せるのがマナーなんだそうです。
私はつい日本式で描いていたのですが、若手の方から「正しいマナーはこうらしいですよ。どうしましょう?」と聞きに来てくれたんです。

教えに来てくれたことも、自分で主体的に調べるようになってくれたことも嬉しかったですね。

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安本:映像を見ると違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれなくて、正しさとそれっぽさのどちらを優先するかは検討があったのですが、今回は正しさを優先しました。

――リアルにこだわった描写も本作の見どころの一つと言えそうですね!

寺本:レイアウトのチェックが終わってからラフ原の工程に入ったり、贅沢なくらいたくさん枚数を使ってアニメーションを描いたり、TVシリーズでは味わえないような丁寧な制作ができたのはとても意義があることだと思います。

安本:それによって人間芝居の根本をやることができました。あにめたまごにはとてもいい機会をいただきました。

――それでは最後に、改めて『レベッカ』の見どころを教えて下さい。

安本:私…最初、レベッカという子が嫌いだったんですよ。原作の『少女レベッカ』の時から。

「あにめたまご2020」ベガエンタテイメント インタビュー
寺本:ちょっ!!(笑)

安本:なんというかムカつくというか。子供だからってビャービャー泣けば済むと思ってんのか? という感じで。私は断然ミランダおばさん派です。

――その意識は最終的に変わられましたでしょうか……?

安本:とはいえレベッカも実家のことをちゃんと考えてがんばってるし、芯があってけなげではあるし、斜めに見ている私でも最終的には「認めざるを得ないかな」と思えるようになりましたね。

寺本:(笑)

安本:中には「わあ、かわいい女の子だ!」だけじゃないものを受け取って私のようにイラっと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、見終わったときには将来一人の女性として強く生きていける子だな、ということを感じていただけると嬉しいです。

――まさにリアルな人間芝居として、人間ドラマとして鑑賞できるということですね。

寺本:安本さんがイラっとしたって言ってくれたのは、子供らしい子供が描けたからかなと思うんですよね。

安本:そうそう、それは本当にそうだと思います。

寺本:子供って単にかわいいだけではなく、言うことは聞かないしひどい失敗はするし、実際はイライラする面もあると思うんです。
そういうところも誤魔化さずにきちんと人間として描けたと思うので、人と人とのやり取りや会話、感情のぶつかり合いを実感して楽しんでいただけたらなと思います。

「あにめたまご2020」ベガエンタテイメント インタビュー
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《いしじまえいわ》

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