2010年度よりスタートし「PROJECT A」「アニメミライ」と名称を変更しつつ、本年の「あにめたまご2020」にて通算10年目の実施となる。
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新作オリジナルアニメ作品制作の実習と一般社団法人日本動画協会が提供する講習を通じ、若手アニメーターの基礎スキル向上を目指す取り組みの「あにめたまご」は、先日無事全てのカリキュラムと作品制作が完了した。
今回は作品制作と人材育成に名乗りを上げた3社のうちの1つ、『レベッカ』を手掛けたベガエンタテイメントに訪問し、寺本幸代監督と安本久美子プロデューサーに作品の魅力と若手教育を通じて得られたものについてお話をうかがった。
[取材・構成/いしじまえいわ]
◆『レベッカ』作品紹介
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(C)ベガエンタテイメント/文化庁 あにめたまご2020
【あらすじ】
19世紀末のアメリカ、メイン州の田舎町。7人兄弟の2番目の子、レベッカは明るく元気な10才の女の子。父親が亡くなり次第に生活は困窮し、やむなくレベッカは2人の伯母であるミランダとジェーンの元に預けられる事になった。優しいジェーンを慕いつつも、厳格で口やかましいミランダの前ではどうしても委縮してしまうレベッカ。そしてある日、レベッカはジェーンが作ってくれたピンクのドレスを勝手に着て外へ出たことをミランダに咎められ、そのとき亡き父のことを侮辱されたことに怒りを爆発させ、勢いあまって家を飛び出してしまう……。
■『レベッカ』は20年以上にわたる社長の悲願
――ベガエンタテイメントさんが、あにめたまご2020にエントリーした目的について教えて下さい。
安本:弊社の代表・松土(隆二)は、元々日本アニメーションさんで世界名作劇場(※)のプロデューサーとして『母をたずねて三千里』『トム・ソーヤーの冒険』『私のあしながおじさん』等の作品を手掛けており、いつか弊社でも世界名作劇場のような子供向けの作品を作りたいという思いを持っていました。
そのため、本事業ではオリジナル作品を制作する機会を得られますので、あにめたまごの前身であるアニメミライの時から注視していたんです。
実際に参加されたスタジオの方から「ベガさんもやらないの?」と何度かお誘いは受けていたのですが、なかなか参加する条件が整わず、参加を見送っていました。
※日本アニメーション制作による主に海外文学作品を原作としたTVアニメシリーズ群。1975年の『フランダースの犬』から1996年の『家なき子レミ』まで放送されファミリー向け定番作品として毎年放送され好評を博した。2007年の『レ・ミゼラブル 少女コゼット』から3年間シリーズ再開した他、1974年の『アルプスの少女ハイジ』も同シリーズとして語られる場合もある(当時はシリーズ名が定まっていなかった)。
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安本久美子プロデューサー
――参加する条件とはどういったことでしょう?
安本:十分な人数の若手アニメーターを確保できることや、現行のTVアニメ制作のラインは止めずに約半年間新作オリジナルアニメを制作しながら若手教育するための人材を確保することなどです。
――あにめたまごに参加するので通常業務を減らします、というわけにはいきませんものね。今回参加されることになったのは、その環境が整ったからということでしょうか?
安本:どちらかというと、弊社代表が現場に積極的に参加できるうちにやりたいということで応募に踏み切りました。
本事業に人員が割かれる分は、他の様々な部門のスタッフが少しずつ負担しあって応援することで実現できたという感じです。
――全社一丸となってこそ新人教育と『レベッカ』の制作ができたわけですね。それに踏み出すということは、それだけ松土代表ご自身も強い意向をお持ちだったということでしょうか。
寺本:20年近く前にも一度本作の企画資料を作って、代表がTV局などに売り込みに回った事があったのですが、少子化やマンガ原作ではないことなどからその時は実現できませんでした。
私も入社直後くらいの時にその企画書用のコンテを描いていたので、個人的にも思い入れのある作品です。
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寺本幸代監督
――20年物の企画なんですね。『レベッカ』制作はまさに社長の悲願というわけですね。
寺本:社長の中ではおそらくもっと前からですね(笑)。
安本:あにめたまごを通じてようやく作り上げることができました。本作で代表は企画としてクレジットされていますが、脚本やキャスティングなど制作にも参加してもらいました。
■キャラクターデザインを手掛けたキーマンとは?
――本作は世界名作劇場のテイストを感じさせるルックですが、今回制作するにあたって難しかったポイントは?
寺本:本作では代表のご縁もあって世界名作劇場でもキャラクターデザインを多数担当された関修一さんにご協力いただいています。
20年前の企画書でもキャラクター原案を担当してくださり、本作ではそれをさらにブラッシュアップしてくださいました。
本作のキャラクターデザインは最近のトレンドと比べると目が小さいので、それがみなさん「難しい!」と言っていました。
最近のアニメのデザインでは目が比較的大きいケースが多いですが、その方がバランスがとりやすいのだと思います。
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――確かに、小さいパーツは配置する場所が少しでもズレてしまうと違和感を与えてしまいますね。
寺本:ベテランスタッフでも、関さんの描くキャラクターは難しいと言っていました。
関さんは「何でも直すからどんどん言って! バンバン直すから!」「監督が納得できる作品になるまでとことんやろうよ!」と、こちらの希望するキャラクターデザインになるまで根気よく付き合ってくださいました。本作を語るうえで欠かせない方です。
――世名作劇場“風”のキャラクターなのではなく本当に同じ方によるものなのですね。関さんのデザインの難しさは他にどんなところがありますか?
寺本:関さんは「骨格から描き分けられる人」と言われているくらいで、私たちも人種や年齢に応じたキャラクターの骨格や体形の描き分けが求められたのですが、それが大変でした。
これだけ多くの微細な描き分けが必要となる作品は近年珍しいと思うので、苦労した分、新人アニメーターの方は得るものが多かったんじゃないかと思います。
特に老人キャラクターは難しかったみたいですよ。
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――他にも難航したポイントはありますか?
寺本:レベッカがピンクのドレスを着るシーンがあって、襟元のレースのディティールなどは普通省略するのですが、関さんに相談したところ「いいよ!やろうよ!」ととても乗り気で。
私も「大丈夫ですかね?」とか言いながらエプロンドレスや細かいレースが大好きなのでそのままのデザインでやることにしました(笑)。
結果、いろんなセクションから「こんな細かい絵、時間がかかって沢山の枚数は描けないよ!」と悲鳴が……。
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安本:「これはどういうことでしょうか……?」と、みなさんに結構ちくちく言われました。
寺本:TVシリーズでは絶対にできないですね! 20分限りの作品だからこそできたことなので、本作の見どころの一つかもしれません(笑)。
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