
12年ぶりに友達が出来た――これは「アイカツ!」がきっかけである。
学生時代の友達の作り方は簡単だった。ただ教室の誰かに話しかけるだけで、話のきっかけなんて何でも良かった。
それが社会に出ると、なぜか友達の作り方を忘れてしまう。職場では談笑できる程度の話し相手はいたが、それは友達ではなく同僚で、それ以上仲良くなると仕事に支障をきたすのではないかという恐れがあった。自分の不器用な性格もその恐れを加速させていたのかもしれない。
大人になってから友達が出来ない――筆者は、そんな悩みを抱えながら10年以上何も行動を起こせずに、孤独感に苛まれていた。
女児向けアニメ「アイカツ!」に出会ったのはそんな時である。
「アイカツ!」は、主人公の星宮いちごちゃんがアイドル養成学校「スターライト学園」に入学し、アイドル活動に奔走していく物語が描かれている。いちごちゃんは、トップスターである神崎美月さんのライブを鑑賞したことをきっかけに、アイドルを目指すことになるのだが、当初の実力の差は月とスッポン。それでも彼女を目指しガムシャラに突き進んでいくいちごちゃんの姿は、まるでバトル漫画のような構図でわかりやすく、本来のターゲット層ではない筆者の感性にもビビッときた。
■関連記事
そして、特筆したいのが本格的なゴシックメタル「硝子ドール」をはじめとしたハイクオリティな楽曲の数々。一見、女児向けアニメとは思えない楽曲は、「アイカツ!」のストーリーやキャラクターと見事にリンクしているのだから素晴らしい。加えて、登場するアイドルたちは、等身大の人間として長所・短所がしっかり描かれていながら、ターゲットである女児に向けて「彼女達のようになってほしい」と願うようなメッセージ性を感じるのだ。
「アイカツ!」はクロスメディアコンテンツであり、アーケードゲームも展開されている。
『データカードダス アイカツ!』シリーズは、アイカツカードを用いてプレイする音楽リズムゲームだ。アイカツカードには、アクセサリー・トップス・ボトムス・シューズの4種類があり、プレイヤーはそれを筐体に読み込ませるとキャラクターを着飾ることができる。
4種類のアイカツカードを同じブランド・ドレスにすればハイスコアが見込まれるし、異なるブランドを組み合わせてオリジナルコーデを作って楽しんでも良い。また、本作には、プレイヤーの分身をつくるキャラクターメイキング機能があり、既存のアイドルだけではなくオリジナルのアイドル「マイキャラちゃん」を愛でることも可能だ。つまり、ゲームでありながらドールのようにオシャレをしたりカスタマイズしたりして楽しめるのだ。
リズムパートが終わるとランダムで新たなアイカツカードが排出される。カードのコンプリートを目指していく面白さもあるのだ。
筆者は、このアイカツカード集めに奔走していた。そんな折、筆者が稼働時からずっとプレイしているアーケードゲーム『データカードダス アイカツフレンズ!』の店頭大会があることを知る。参加をするとアイカツカードのほかに、なんと同作のアイドルが描かれた認定証が貰えるらしい。カードだけではなくアイカツグッズの収集にも精を出していた筆者にとっては、なんとしても参加したいところだった。
そうして店頭大会が開催される度に、近所のゲームセンターによく足を運ぶようになった頃、筆者はちょっとしたことを誰かに聞こうと思い、他の参加者に話しかけた。その内容は、今では思い出せないほど薄いものだったが、それでも話は弾み、相手は大好きな「アイカツ!」について語ってくれた。
友達のおかげでアイカツ愛が深まった!
筆者は店頭大会で出会ったアイカツおじさんと連絡先を交換し、店頭大会がある度に顔を合わせ挨拶するようになった。そしてそのアイカツおじさんを通じて、知り合いを増やし、その知り合いも親睦を深めていくうちに友達と呼べるほどまでになっていった。
「アイカツフレンズ!」の主人公である友希あいねちゃんのように、「目指せ友達100万人!」とはいかないものの、少しずつ友達を増やしていった。
大好きな「アイカツ!」によって、自分が長年抱えてきた悩みが解消されるとは予想だにしなかったし、自分にとって大好きな「アイカツ!」がここまでかけがえなのないものになるとは思いもよらなかった。
そうして「アイカツイベントに行けば知っている誰かに会える」という感覚が自分の中で芽生え、気がつけば「アイカツ!」を楽しむのと同時に「アイカツ!」が大好きな彼らと会うことが目的になり、その相乗効果でよりアイカツ愛が深まったのだ。
アイカツ友達を作る=成長した!
これまで友達ができなかった自分を振り返ると、筆者の中で「友達=同年代の人々」という枠があったんじゃないかと考える。不器用な自分にとって年の離れた相手と会話をしようとするとジェネレーションギャップが壁になるとではないかと。
しかし、「アイカツ!」という共通の話題が、ジェネレーションギャップという壁をぶっ壊してくれた。幅広い世代の人々と知り合いになれたのだ。
それに同世代だと思っていた人が実は10歳年上だったなんてこともあって、外見で年齢を判断するのは意味がないことも実感した。後に聞いた話だと、こんなのは互いの実名や身の上を知らないで友達になるオタク界隈ではよくあるケースらしい。
むしろ、今では同世代とは異なる考え方・視点を知るのは面白いとさえ感じている。普段から自宅で仕事をしていることもあり、自分の視野が広がっている実感が湧いてきた。
まさか女児向けコンテンツによって自分がここまで成長するとは思わなかった。
「アイカツ!」の楽しみ方は想像以上に多種多様!
サンシャインワンピースでポーズをキメた、いちごちゃん、あおいちゃん、蘭ちゃんの3人♪
— アイカツ!フォトonステージ!!公式 (@aikatsu_photo) June 30, 2018
ソレイユのフォトカツ!オリジナル楽曲「Sunny Day Little Sunday」でも遊んでみてね☆ #フォトカツ #アイカツ pic.twitter.com/4BftfYAndP
多くの人々と出会ったことで「アイカツ!」の楽しみ方は人それぞれであることも知った。
それ以前は「アニメだけを観る人」「アニメとゲームの両方を楽しむ人」「イベントを中心に楽しむ人」など、簡単にカテゴライズ出来るものだと思ったが、「アイカツ!」の楽しみ方はそんなに浅くないのだ。
例えば、アニメに登場するモブキャラの成長を見守る人もいれば、アニメを全く視聴せずにゲーム版のみに注力しひたすらハイスコアに挑戦する人もいるし、アニメに登場した場所ではなくライブイベントが行われた場所の聖地巡礼をする人もいる。他にも、前述のゲーム版のキャラメイキング機能を使って作成したマイキャラちゃんを愛でる人もいれば、他のプレイヤーが作ったマイキャラちゃん達を集めることを主目的とする人もいた。
もちろんこれらの楽しみ方は一部に過ぎない。出会った人の中には、自分では考えつけない楽しみ方があり、主に企画を考える仕事をしている筆者にとって良い刺激になっている。
人との交流が増えたことでトラブルも……
ここまでは良い出来事ばかり書いてきたが、人との交流が増えるにつれて、やはりトラブルも見かけるようになった。大概がマナー違反と呼ばれるものだが、他にも意見の行き違いによって対立するケースもあった。
第三者の筆者からすれば、「そんなのどちらかが妥協すれば良いじゃないか!」と思ってしまうことでも、本人たちにとっては真剣だ。これは価値観の違いによって起きることだし、どちらかが良い悪いという話ではない。
仕事ならまだしも趣味で……と思う人もいるかもしれないが、ただの女児向けコンテンツとして受け止める人もいれば、筆者のように人生の拠り所になっている人もいるのだ。人によってここまで「アイカツ!」の受け止め方も違う。
これらの諍いがなくなることが一番なのだが、筆者が当事者ならどうするかと深く考えることがある。他人の意見や考え方を受け入れるのも大切だが、誰にでも譲れないものはあるし、そこを毎回妥協することを人付き合いというのならそれはそれで違うと思う。特に仕事の相手ではなく友達同士なら年が離れていたとしても対等であるはずだ。
人間同士が交われば問題が起きるのは当たり前のことなのだが、12年以上友達ができなかった筆者は、それをすっかり忘れていた。それでも友達と「アイカツ!」の話題で盛り上がるのは楽しいし、ひとりでは出来ないことをたくさん満喫した。
自分も友達とつい喧嘩をしてしまった時は、ひとりでは出来なかったことを思い出して何をすべきかを考えようと思う。
友達の交流を通じてアイカツの良さを再発見
女児向けに作られた『データカードダス アイカツ!』は、意外にもハードコアな部分が含まれている。リズムゲームでハイスコアを狙うならベストタイミングでボタンを押して「パーフェクト」を連続させなければならない。このパーフェクトを連続して狙うのが非常にシビアなのだ。
また、アイカツカードをコンプリートするにはかなりの金額を筐体に投入しなければならない。大人でもコンプリートが難しいこの排出率は、「友達とのカード交換を通じて交流を深めながらコンプリートを目指してほしい」との制作側の意図があったのだと思う(いや、それでもコンプリートは難しいだろうとは思いつつ)。
おかげで筆者は、カード交換を通じて色んな知り合いと出会えたし、友達が増えたことで完全とはいかないものの多くのカードが集められた。そして他者とのカード交換を通じて自分が知らない情報を知ることも出来たし、本当によく出来たコンテンツだと思う。
これまでひとりで楽しんでいた「アイカツ!」だったが、12年ぶりに友達が出来たことでひとりでは知り得ない「アイカツ!」の一面を知ることが出来た。今後も友達との交流を通じて自分がまだ知らない世界に足を踏み入れていこうと思う。
ところで現在、テレビ東京系 毎週土曜日 午前10時30分より新シリーズ「アイカツオンパレード!」が放送されている。これまでの「アイカツ!」「アイカツスターズ!」「アイカツフレンズ!」に登場したアイドルたちが一堂に会するオールスター的な内容になっており、本作の新たな主人公の姫石らきちゃんも激カワである。
本稿で「アイカツ!」に興味が出たらぜひご視聴してほしい。第一話は無料配信されているから!
最後にこの機会を借りて、友達を作るきっかけを筆者に与えてくれた「アイカツ!」に感謝の言葉を述べたい。本当にありがとうございました!