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「空の青さを知る人よ」は秩父三部作の集大成――長井龍雪監督が「あの花」「ここさけ」経て新作に込めた想い

超平和バスターズが送る新作アニメ映画『空の青さを知る人よ』より、長井龍雪監督にインタビュー。本作のアプローチと超平和バスターズが貫くキャラクター作りの信念を聞いた。

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■「空青」は秩父三部作の集大成


――『あの花』『ここさけ』に続いて、再三の舞台に秩父を選んだ理由は何だったのですか?

長井:2回も舞台に使わせてもらい愛着がありましたからね。実は、最初から秩父のお話だと打ち出して作ったのは、今回が初めてなんです。


――あ、そうなのですね。

長井:何かのきっかけでプロデューサーが“三部作”みたいな言い方をしていて、かくいう僕も「三部作と言っておいたらもう1回作らせてもらえるかな?」と思って(笑)。

また、今回は一旦、秩父に対してピリオドとなるお話を作ってみたかったんです。その流れから「秩父から出ていく、出ていかない」という本作のストーリーになる要素が出てきました。
秩父に限らずに僕達は「地元」と呼んでいたのですが、若い頃って地元を早く出たい気持ちがありませんか? 高校生の頃の僕自身が、本当に地元を出たくてしょうがなかったんです。

でもこの歳になって、「地元もいいよね」とやっと思えるようになって。それらの断片が集まって、あおい、しんの、あかね、慎之介が生まれました。


――キャラクターの描き方について、岡田さんや田中さんとどのような相談をされましたか?

長井:割といつもそうなんですが、そこにいるキャラクターに対して「この子はこうだよね」と、ブレていないかどうかを確認し合う作業をします。

企画の段階から田中さんがキャラクターの顔を次々と描いてくれるんですよ。顔があると、キャラクター性はあまりブレない。「この顔でこんな表情をする子は、きっとこういう性格でしゃべり方はこうで」といったふうに、既にあるものに肉付けをする作業なので、性格について悩むことはそんなにありませんでした。
「だってこの子はこういうふうに考えるんだからしょうがないよね」みたいな気分で進んでいっちゃいます。

――「キャラクターが勝手に動き出す」みたいな感じでしょうか。

長井:その感覚に近いですね。こっちの都合で無理な動きをさせようとすると、結局お話が転がらなくなるんです。
『ここさけ』では「順と拓実をくっつければいいんじゃない?」と言う人もいましたが、順と拓実のことを考えれば考えるほどそれは不自然だから、ああいうかたちで終わりました。


――『ここさけ』では主人公の順が拓実との出会いをきっかけに変化していく。なので順が拓実を好きになるのは自然な流れですが、拓実は映画の中では順を好きにはならず、告白を受け入れませんでした。

長井:作品をリアルだと言ってもらえるのは、キャラクターの感情が無理なく流れていたらそう感じてもらえるのかなと思います。
フィクションとしての側面を考えればストーリーをぶん投げていると言う人もいるかもしれませんが、僕はキャラクターにできるだけ寄り添って、その子の落としどころを一緒に考えてあげるのが、いつもやっていることな気はしますね。

――本作では主人公のあおいたち高校生組よりも、あかねと慎之介といった30代組のほうが抱える事情がより重たく感じられました。皆さんの30代組に対する思い入れが強かったのかなと思ったのですが、そのあたりはいかがですか?


長井:作っていてより感情移入するのは、どうしても歳が近いほうになっちゃいますね。30代のキャラクターを作ってみたら、あまりにも描きやすかったんです。
近い過去なので思い出しやすくて、どんどんエピソードが出てきちゃうのを頑張って削ぎ落としたくらいでした(笑)。

――それはプロデュースチームに制されるかたちで?

長井:いえ、それはむしろ、好きにやらせてもらった印象のほうが強いです。
今回、様々なご縁で東宝の川村元気プロデューサーに合流いただいたのですが、その存在は大きいものでした。

「本当にこれでいいんですか?」と素朴に聞いてくれるんですよ。別に否定ではなく、ふわっとしていた部分を尋ねてもらうことで、僕が自信を持って「大丈夫です」と言うための確認作業ができるんです。
ちゃんと言葉にすると輪郭がはっきりしてくるので、そういう意味では削ぎ落し方が見えてきたのは川村さんのおかげかもしれません。


→次のページ:「飽き性」な超平和バスターズの今後の展望は?
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《奥村ひとみ》

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