福井晴敏が語る“ヤマト・ガンダム論” SFアニメとしての違いは?「NT」「2202」を終え次は?【インタビュー】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

福井晴敏が語る“ヤマト・ガンダム論” SFアニメとしての違いは?「NT」「2202」を終え次は?【インタビュー】

日本のアニメ史に大きな影響を与えた『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』という、2つの作品の最新作とリメイク作品の物語を構築した福井晴敏。それぞれにどんな思いを込めたのか? 2つの作品をさまざまな角度から対比し語ってもらった。

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■日本人の精神性が象徴として描かれる『宇宙戦艦ヤマト』


――『ヤマト2202』に関しては、また違った感覚で臨まれているんでしょうか?

福井
『ヤマト2202』に関しては歴史という部分はまったく意識していなくて、『宇宙戦艦ヤマト』という設定だけが存在してという認識ですね。
40年前に作られた映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』という当時大ヒットを記録した作品があって、これを現代にどう甦らせるか? 甦らせた時に今の人に何を見せるべきか?
それを考えた末に、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』を作り直すということでなければ、やれないことがあるなということに気付いたことが取っかかりでした。

これがもし、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』ではなく、いわゆる続編を作って欲しいと言われたらやっていなかったかもしれないですし、リメイクの『宇宙戦艦ヤマト』をゼロから立ち上げるなら、俺よりも得意な人がいるんじゃないかと言っていたと思います。至高のラストを描いた40年前の作品があり、それに涙した当時のファン、それを今の若い人も一緒に観るかもしれないと思った時に、その2つの世代が並ぶ状況はすごく面白みがあって、仕事を引き受けました。

そう言う意味では、『ヤマト2202』に関しては、歴史やSFものではなく、「風刺もの」という捉え方をしていますね。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第七章「新星篇」(C)西崎義展/宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第七章「新星篇」(C)西崎義展/宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会
――時代を映す鏡みたいな部分がありますね。

福井
そうですね。現代日本というものを、ヤマトを中心に浮かび上がらせていくという。『宇宙戦艦ヤマト』というのは、そういう作品だったと感じます。
ヤマトという艦は、日本人の精神の形なんですよね。
第二次世界大戦の終戦時に多感な少年だった制作陣が、ある程度の年齢に達して好きな作品を作れるようになり、「あの戦争とは一体なんだったのだろうか?」ということをスペースロマンとして描こうとした作品なんです。

――そうした重さは「ヤマト」という名前にはありますね。

福井
現在は、我々は平和に暮らしているけど、受験戦争をはじめ他者を押しのけないと勝てない、生き残れないという状況は続いている。
「戦争で全滅すれすれまで行った我々というのは、もっとそんな争いではなくて、愛し合い、分かり合わないといけないんじゃないか?」という思いが込められた作品が、最初に作られた『宇宙戦艦ヤマト』という作品なんですよね。

それに続いた『さらば宇宙戦艦ヤマト』は、劇中では1年しか経っていないんですが、ガミラスとの戦いの後の状況を「戦後」という状態を描くことで、まさにあの時代を描こうとした。
それは、これから70年代が終わった80年代になって、バブル退廃期がいよいよ始まるというタイミングで、「このままで本当に良かったのか?」と思っている状況ですよね。
そして、そこに巨大な彗星で移動する敵が現れて、強大な力によって「グローバリズムに従え」と言ってくる。それに対して、「従いたくない。人間性を失うくらいなら死にます」と敵に突っ込んで死んでいったという凄い話を描いている。

ひるがえって現代はどうかと言うと、金権主義に組み伏せられてしまった我々のような大人がこれを見るわけですよ。
そうなると、あらかじめ喪失してしまっている何かを回復していくということになるかもしれないし、いかに喪失したかということを再確認する物語になるわけですから、いずれにせよ現代を映す鏡にならなくては意味がないだろうと思っています。

『ヤマト2202』では、『ヤマト』という作品が持っている社会派としての風刺ものというラインを忠実に守ったという感じですね。
だから、『ヤマト』はSFという文脈とは違うかもしれないけど、SFというのは大きな構造のひとつに実は風刺物、批評物というところがあると思うんですよね。


→次のページ:『ガンダム』と『ヤマト』の物語に見える「集中と拡散」
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《石井誠》

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