■スタッフィングテーマは“初”
――既に制作を終えられたわけですが、プロジェクトを終えての感想はいかがでしょう。
西山監督
監督という立場で作品作りに携わったのは今回が初めてでした。
原作がなく作品をゼロから立ち上げることになったわけですが、そのためのキャラクターデザインや脚本作りも楽しかったです。あっという間に終わってしまったという感じですね。
山下P
私もプロデューサーという立場で作品プロジェクトに携わるのは初めてで、実は若手だけでなく参加したメンバー全員が「初」というのがスタッフィング上のテーマの一つになっていました。
先述の武本さんも30分規模の作品の作画監督は初です。
――若手だけでなく、監督やプロデューサー、ベテランスタッフにとっても初体験でありチャレンジだったんですね。
■ファミリー向け=全年齢対象であるということ
――本作はチャックを閉めるだけの妖怪”チャック妖怪”と人間の少年・ひろきを軸とした物語ですが、この“チャック妖怪”という着想はどこから生まれたのでしょう?
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山下P
本作の企画と脚本を担当した熊谷(那美)というスタッフによるものです。彼女は普段、社長秘書をしておりますが、もともと制作部に所属していて、今は『ちびまる子ちゃん』のシナリオも書いています。ある日、打ち合わせをしていたときに、「相手の着ている上着のありとあらゆるチャックが全部開いていてすごく気になった」というエピソードがあり、それが着想の元になったそうです。
――たしかにそれは気になりますね(笑)。
山下P
また、バッグのチャックが開いたまま走ったせいで中身をぶちまけてしまった経験などから、熊谷が「知らない間にチャックを閉めてくれる、優しい妖怪みたいなのがいてくれたらなあ」と思ったのが本作のベースです。
それを企画としてまとめ、実施している企画会議に出し、「あにめたまご」の作品として実現したのが『チャックシメゾウ』です。
シメゾウたちチャック妖怪のデザインは社内でコンペを行い、西山監督のものが好評で、そういった経緯もあって、西山さんに監督もお願いしたという流れです。
西山監督
僕はコンペというのは実は後から聞いたんですけどね。「こういうのデザインして」と言われて出したら次は「監督も」ということだったんですが、まさかコンペだったとは……(笑)。
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――作品のメインターゲットはどのように意識されていましたか? やはり子ども向けということでしょうか。
西山監督
子ども向けというよりはファミリー向け、全年齢向けですね。
今回チャック妖怪一家と人間の一家、2つの家庭が出てくるのですが、人間一家のお母さんは少し子育てに疲れていてお父さんは不在で……という風に、少し世相を反映させています。
山下P
作中で明言していませんが、どうやら母子家庭っぽいんですよね。制作途中で気付く人は気付いていたようです。
西山監督
背景などをよく見るとそう思わせるヒントのようなものあったりします。
ファミリー向けですから今の子育て世代のお母さんたちにも見てもらいたいですし、そのためには共感できる要素も必要なので、そういった設定も盛り込んであります。
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山下P
起きる出来事はファンタジーですが、会話の内容や雰囲気は日常に起こりうる可能性があることを意識して盛り込みました。「この年頃の子はこういう事言うね」「お母さんはこういう時こういう事言うよね」と感じられるものになったと思います。
――“ファミリー向け”というのは子供だけでなくどの年齢の方でも共感できるところがないと成立しないですから、多くのファミリー向け作品を手がけてきた日本アニメーションさんならではの設定ですね。
■人材育成を前提とした作品設計
――チャック妖怪たちのキャラクターデザインでこだわったポイントは?
山下P
今回はアニメーターの育成が目的ですので、動かしやすく適度にディティールがある、
それに即したデザインにしていただきました。
シンプルであれば良いというわけでもありません。ハイライトやパーツの数も多からず少なからず。
人間側の登場人物にもそれは考慮されていて、老若男女幅広い人物が出るようにしています。猫や鳥などが出てくるのもそういった趣旨です。
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西山監督
シーンについても、人間キャラクター中心のシーンは日常的な自然な芝居を、妖怪キャラのシーンはコミカルな見せ方を学べるよう、意図して盛り込みました。
若手のみなさんにはそれぞれシーンを担当してもらいましたが、描くものに偏りが出ないように配分しました。
山下P
全体的に「アニメーター育成として効果があるように」という観点から西山監督に配慮していただきました。
――作品自体がアニメーターの育成ということを考慮して設計されているんですね。育成を終えられて、監督はどういった感想をお持ちですか?
西山監督
若手とのやり取りも楽しかったですね。クラブ活動のような楽しさがありましたね。
山下P
本作では巣鴨の地蔵通り商店街や都電荒川線の荒川遊園地前駅など実在する場所に許諾を得てモデルにしているのですが、作画に入る前に監督以下みんなで実際にロケに行って、現地のスケッチをしたりしましたね。
――作品を見た方が実際に足を運んでくれると嬉しいですね。
山下P
そうですね。現地にお住まいの方に気付いていただけるだけでも嬉しいです。
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