世界中のファンをひとつに「+Ultra」が示す理想の未来 藤津亮太のアニメの門V 第40回 | アニメ!アニメ!

世界中のファンをひとつに「+Ultra」が示す理想の未来 藤津亮太のアニメの門V 第40回

アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第39回目は、フジテレビの新たなアニメ枠「+Ultra」の特徴や、Netflixで配信中の海外作を紹介しつつ、作品が国を超えて手軽に見られるようになったことの意義を解説します。

連載・コラム 藤津亮太のアニメの門V
  
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10月からフジテレビで新たなアニメ枠「+Ultra」がスタートした。
第1弾は世界で人気の位置情報ゲームを題材にした『イングレス』。この後も渋谷が未来にタイムスリップしてしまう『revisions リヴィジョンズ』、SF音楽もの『キャロル&チューズデイ』が発表される。

「+Ultra」の特徴は、地上波放送とNetflix配信を並行して行うこと。『イングレス』の場合、第1話放送後からNetflixで全話が配信されている。
これはつまり国内と国外を区別することなく、シームレスにアニメを発信することを目指しているということだ。

放送と配信は利益が背反する気もするが、「+Ultra」の場合は、アーリーアダプターが多いNetflixユーザーをインフルエンサーにして、地上波の評判にフィードバックしたい目論見があるのだろう。
これは同じフジテレビでも、国内に軸足を置いたノイタミナ枠とAmazonプライムとも異なる考え方だ。

世界には一定数、「日本製アニメを好きな層」というのが存在する。ただこれまではローカライズの手間や作品を届ける流通の難しさなどに障壁があった。
それがNetflixが日本製アニメに力を入れたことにより、その障壁はぐっと下がることになった。それを最大限利用しようというのが「+Ultra」といえる。

障壁の低下は、日本から発信する場合だけではない。国外で作られた作品が日本に入ってきやすくなるということでもある。
今更改めて言うまでもないが、Netflixでは『ヴォルトロン』『悪魔城ドラキュラ -キャッスルヴァニア-』という日本発キャラクターをアメリカでアニメ化したものが見られる。
それだけではなく『ボージャック・ホースマン』『ビッグマウス』『魔法が解けて』といった個性の強い、アメリカ製のNetflixオリジナルアニメも見ることができる。

だがこれらの作品よりも、「障壁の低下」というインパクトを実感させるのは『生きのびるために』と『紅き大魚の伝説』という2つの映画が、Netflixで見られるようになったことだ。

『生きのびるために』(The Breadwinner)は、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』を制作したアイルランドのアニメ制作会社カートゥーン・サルーンの長編。監督は同社の『ブレンダンとケルズの秘密』でトム・ムーア監督とともに共同監督を務めたノラ・トゥーミーが務めている。


カートゥーン・サルーンの作品は『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が2016年に日本公開された後、遡る形で2009年制作の『ブレンダンとケルズの秘密』が2017年に日本公開された。
アカデミー賞にノミネートされた2作は、その神話的な世界観と絵本のような美しいビジュアルで日本の観客に強い印象を残した。

『生きのびるために』はそうした過去作とはまったく傾向が違う。アイルランドの風土を描いてきたカートゥーン・サルーンが、新たな題材に選んだのはタリバン政権下のアフガニスタン。
原作は、パキスタンの難民キャンプを訪れ、タリバンから逃れてきたアフガニスタン難民について取材したデボラ・エリスの小説(邦訳はさ・え・ら書房)。
ドキュメンタリー性の強い題材を長編アニメーションで表現するというのは、昨今の世界的な傾向だが、そうした潮流の一翼を担っている作品といえる。

女性は男性同伴でなければ外を歩くことが許されないタリバン政権のアフガニスタン。父親をタリバン兵に連行され、生活が立ち行かなくなった家族を助けるため、11歳の少女パヴァーナは髪を切り、少年としてカブールの町へ出ていくことになる。
物語はフィクションだが、タリバン政権下にはパヴァーナのような少女が多くいるという。

題材と興行的な広がりを考えた時に日本公開は難しそうな本作。それがあっさりとNetflixにラインナップされ見ることができるようになっているのだ。

『紅き大魚の伝説』(大魚海棠/Bigfish & Begonia)も同様だ。
同作は2016年に中国で制作された、リャン・シュエンとチャン・チュン両監督による長編アニメーション。原点は2004年に発表されたフラッシュアニメにまで遡る。2人はその長編化を志したものの制作は難航し、最終的には中国のメディア企業・エンライト・メディアが出資をして完成に至ったという。



同作は『莊子』に着想を得たファンタジーで、『山海経』『捜神記』といった中国の古典を参考にして世界観を構築している。
主人公は、神々が暮らす異世界に住むチュンという少女。チュンは、成年の儀式として赤いイルカとなって人間の世界へと入り込む。そこでチュンは、人間の少年と出会う。嵐の夜、網にひっかかったチュンを助けるため、少年は命を落としてしまう。少年を蘇らせるためにチュンがとった行動とは……。

ストーリー的には少しとっちらかった感じがあるものの、中国ならではのファンタジー世界を描く視覚的おもしろさやユニークなキャラクターの魅力は十分あって、中国で大ヒットしたこともうなづける。この話題作も、日本で劇場公開されることがないかわりに、Netflixで見られるようになっていた。

現在世界では長編アニメーションの制作が盛んになっている。だがその一方で、国内にいて見られる作品は少ない。見られたとしても映画祭など、機会が限られるだけのものも多い。特にアメリカのメジャー作品以外のものを見るのはハードルが高い。

そうした状況にあって、アメリカ以外の国の話題作・ヒット作が手軽に見られるようになるという、障壁の低下の意味は大きい。(もちろん「映画は映画館で見たい」とか「Netflix経由で“輸入”された映画は映画と呼べるのか」といった問題はあるが、それはここではおいておく)。

この「障壁の低下」は、「世界に一定数はいるその作品を見たい人」がNetflixで時間と空間を超えてひとつにまとめられるということでもある。
もちろんこの変化は、「障壁を超えるためのルート」がNetflixだけであっていいのか、という問題と裏表でもある。

だが、これはひとつの理想であり、だからこそ、今後はNetflix以外、配信以外でも「障壁を下げて、世界のファンをひとつにまとめる」という動きが始まるだろう。
それは世界のアニメーション制作環境に影響を与えていくことになるはずだ。「+Ultra」や2つの話題作がNetflixで見られることの先に期待されるのは、そういう世界のはずだ。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

《藤津亮太》

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