新海誠監督への愛とリスペクトに満ちた「詩季織々」リ・ハオリン監督インタビュー 2ページ目 | アニメ!アニメ!

新海誠監督への愛とリスペクトに満ちた「詩季織々」リ・ハオリン監督インタビュー

新海誠監督作品『君の名は。』の記録的大ヒットによって一躍注目されたコミックス・ウェーブ・フィルムの最新作『詩季織々』が8月4日より公開される。
『詩季織々』は、日本と中国の3人のクリエイターによる3編のアンソロジー

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「上海恋」『詩季織々』(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ 全 7 枚 拡大写真

日本アニメのディテールへのこだわりはすごい


――新海監督のようなスタイルの作品は、中国では珍しいのでしょうか。

リ監督
そうですね。一部の人には人気ですが、あまりメジャーとは言えないと思います。

――やはり人気なのは商業主義的というか、派手なストーリー中心の作品が多い?

リ監督
はい。でも新海監督作品の美術は中国でも広く人気があるんです。アニメを普段あまり観ない人にですら新海作品の美術の美しさは知られていて、中国ではスマホなどの壁紙にしている人も多いですね。アニメファンを超えてメジャーな存在と言えると思います。

――アニメファンを超えて人気が出たのは、『君の名は。』がきっかけなんですか。

リ監督
『君の名は。』以前からかなり人気がありました。どの作品のどのシーンなのかはわからないですが、スマホの壁紙などに利用してる人がたくさんいたんです。中国での『君の名は。』の公開時は、その点も宣伝に上手いこと利用していたようです。あの壁紙で有名な監督の新作だよと宣伝したりとか。

――リ監督は今回の制作のほかにも、日本でも自身のスタジオを構えて制作していますが、日本と中国のスタジオとの違いは感じましたか。

リ監督
いちばん大きな違いは、ディテールへのこだわりです。日本のスタジオのディテールへのこだわりはすごく強くて、1つのシーンの細かいところまで作り込んでいますが、これができるのはやはり日本のアニメ産業自体が成熟しているからでしょう。比較的時間はかかりますが、良いものを作るにはやはり必要なことだと思います。

「陽だまりの朝食」『詩季織々』(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ
「陽だまりの朝食」

――中国では時間をかけてじっくり作ることはなかなか許されないものなのでしょうか。

リ監督
プロジェクトにもよりますが、例えば放送枠のあるプロジェクトの場合、ディテールまできっちり追求するのは現実的には困難です。なかには時間をかけて作られているものもあるにはあるのですが、どうしてもスピード重視で製作をしないといけなくて、じっくりと作品を作り込む余裕がありません。
これは中国のビジネスにおける考え方や習慣の違い、まだアニメ制作をじっくりやるということに慣れてない部分もあると思います。

――さきほど、中国市場で人気のあるものはストーリー性が強いものだという話がありましたが、中国で『詩季織々』のような企画を成立させるのは難しいのでしょうか。

リ監督
そうですね。我々のスタジオならやるかもしれませんが、他のスタジオでこういった企画に手を出すところはないかもしれません。
そもそもなんですが、中国のアニメビジネスは全体的に見ると、決してたくさん儲かっているという状況ではないんです。赤字を出さなければ、まあOKかなという感じです。『詩季織々』の場合はプロジェクト全体での成否を見ていますので、中国と日本、そして海外での売上をトータルで判断していきたいと思っています。全てを合わせればある程度リクープが見込めると思っています。中国だけで大きく売上を立てようと考えているわけでないです。

――本作は中国でも劇場公開するのですか。

リ監督
中国では全国規模での公開ではなく、芸術系の作品を上映する一部の劇場で上映されます。中国には全国芸術映画上映連盟という政府組織があって、そこは主に文芸的な作品を扱っておりそこから配給されます。
中国ではミニシアターみたいな概念の劇場はないので、日本でのいわゆる単館系作品のような公開規模になるという感じです。ネットではビリビリ動画とiQIYIから配信されます。

「小さなファッションショー」『詩季織々』(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ
「小さなファッションショー」

――今回は中国での展開の他、Netflixで世界配信もされますね。Haolinersも今後世界に向けてどんどん進出していくのだと思いますが、今後の世界展開に関してどんな展望を持っていますか。

リ監督
以前から中国国内だけでなく、海外での市場に挑戦し続けて、どんな作品が海外で受け入れられるのかいろいろ試してきました。日本やその他の国など、グローバルな市場で受け入れられる作品を今後はどんどん作っていきたいと思っています。日本でもいろいろな作品をこれまで放送してきましたが、良い成績を挙げたものもあれば、期待どおりにいかなかったものもありました。
例えば、我々が制作した『一人之下』シリーズは中国ではすごく人気があったのですが、日本の皆さんには少し内容を理解するのが難しい部分もあったようです。同様の『Spiritpact』や『TO BE HERO』などは海外や日本でも好意的な反応が多かったので、こうしたタイプの作品をさらに発展させていければいいなと思います。

――今回は日本のスタジオとの仕事となりましたが、日中の互いの作品がそれぞれの国に紹介される機会も増えてきましたし、業界の交流も進んでいると思います。本作のように今後、日中の合作は増えていくと思いますか。

リ監督
そうですね。私はこれからどんどんこういう事例が出てくると思っています。そして数が増えることよりも大事ですが、質の高い作品が日中のコラボレーションによって出てきてほしいですし、今までにない質の高い作品が生まれる可能性もあると思います。

「小さなファッションショー」『詩季織々』(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ
「小さなファッションショー」

――実際に日中コラボレーションでの製作を体験してみて課題はありましたか。

リ監督
大きく2つあります。まず1つは仕事における習慣の違い、そして文化的な違いやコミュニケーションの問題です。この2つの問題は時間をかけてじっくり解決していく必要があると思います。

――仕事の習慣の違いというのは具体的にどんなものがありましたか。

リ監督
例えばプロジェクトを進める時、中国の場合とりあえず1回やってみて、満足いかないところをどんどん修正していく、といったやり方をするところが多いんです。
日本の場合は、先に設定をしっかり固めて、納得いったらやり始める、それ以降は変更しない、という感じですね。この進め方の違いに関しては、戸惑う時もありました。

――逆に良かった点などはどうでしょうか。

リ監督
同じアジアの国同士の人間ですから、感性は近くて共感できるポイントはいくつもあるんです。プロジェクトを進める中でもわかり合えるはたくさんあることがわかりました。

――では最後に日本のファンに、この作品をどのように楽しんでほしいですか。

リ監督
コミックス・ウェーブ・フィルムさんならではの美しい美術とともに、中国の近年の発展や変化を堪能していただければと思います。
家族愛や初恋の淡い気持ちなど、こうした感覚は同じアジア圏同士、日本人にも中国人にも共通の感覚でしょう。こういうアジアの感性を世界にもっと発信していきたいと思っていますし、たくさんの日本の方にも観てほしいですね。アジアの文化圏に生きる者同士、良いものを分かち合えればいいなと思います。
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《杉本穂高》

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