「インクレディブル・ファミリー」監督インタビュー “子育ては未来を作る。それはヒロイックな行為だ” | アニメ!アニメ!

「インクレディブル・ファミリー」監督インタビュー “子育ては未来を作る。それはヒロイックな行為だ”

超人的な力を持つスーパーヒーロー一家の活躍を描き大ヒットした『Mr. インクレディブル』の14年ぶりとなる待望の続編、『インクレディブル・ファミリー』が8月1日より公開中だ。

インタビュー スタッフ
注目記事
「インクレディブル・ファミリー」監督インタビュー “子育ては未来を作る。それはヒロイックな行為だ”
「インクレディブル・ファミリー」監督インタビュー “子育ては未来を作る。それはヒロイックな行為だ” 全 7 枚 拡大写真
超人的な力を持つスーパーヒーロー一家の活躍を描き大ヒットした『Mr. インクレディブル』の14年ぶりとなる待望の続編、『インクレディブル・ファミリー』が8月1日より公開中だ。

ヒーローの活動を禁止する法律が施行された社会で、スーパーヒーロー一家が日常生活に馴染もうと悪戦苦闘しながらも街を救う様を描いた前作。
ヒーローとして悪と戦い人々を救うことと、普通の家族生活を維持することの大変さを同じ価値でもって描いた点が本シリーズのユニークな点だった。

今作では、突如現れた悪人から街を救うために一家は出動するも、戦いの中で街を壊してしまい感謝されるどころか警察で事情聴取されるハメに。ヒーローを巡る社会の反応はますます厳しいものになってしまう。
そんな折、ヒーロー復活をかけたミッションが舞い込み、一家の大黒柱であるボブ(Mr.インクレディル)はやる気を見せるが、このミッションに指名されたのは、妻のヘレン(イラスティガール)だった。
ヘレンが家庭の外でヒーロー復活のために華々しく活躍する一方、ボブは慣れない家事と育児に追われててんやわんや。さらには一家のアイドル、赤ちゃんのジャック・ジャックにもスーパーパワーが覚醒し、家の中はさらに大変なことに。

ひと足先に公開された全米では『アナと雪の女王』や『ファインディング・ドリー』を超える、アニメ映画として歴代ナンバー1の興行収入を記録。スーパーヒーロー一家のカムバックを全米が待ち望んでいたことを伺わせる。批評家、一般の観客からの評価もすこぶる高い。

一体、何がここまで人々を熱狂させるのか。本シリーズの魅力と込められた思いについて、ブラッド・バード監督に話を聞いた。

『インクレディブル・ファミリー』



2018年8月1日 日本公開
https://www.disney.co.jp/movie/incredible-family.html

前作の夫婦の役割を入れ替えキャラを掘り下げた


本シリーズの他のスーパーヒーロー映画と一線を画す点は、ヒーローたちの日常生活の苦労が多く描かれるところだ。

一家の大黒柱の夫、ボブはヒーロー活動が禁止された後は、ヒーロー活動への未練をずっと残しながら保険会社に就職して家計を支えていた。
妻のヘレンは、赤ちゃんのジャック・ジャックの世話に家事に大忙し、長女のヴァイオレットは思春期特有の恋の悩みを抱え、長男のダッシュはいたずらでしょっちゅう校長室に呼び出されている。
悪と戦えばだれよりも強いヒーロー一家も、日常生活では普通の人間と同じような悩みを抱えて生きている。

今回の続編のユニークな点は、ボブとヘレンの家庭での役割を前作から入れ替えている点だ。
今回は妻のヘレンがヒーロー活動のために働きに出て、ボブが家事と育児に奮闘する。ステレオタイプな家庭での男女の役割から脱却した形になっているが、この設定の狙いについてブラッド・バード監督は、キャラクターをより掘り下げるために思いついたのだと言う。

「ボブは自分が一番優れたヒーローだと思っていて、今回のミッションも当然自分が一番ふさわしいと思っています。でも指名されたのが妻のヘレンだったので、妻に嫉妬を覚えています。それでも彼は、妻を愛しているし良き夫でありたいと思っているので、彼女を応援するのですが、一方で納得できない感情もある。そういう葛藤が描けると思いました」

『インクレディブル・ファミリー』(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
さらにこうした複雑な葛藤を抱えたキャラを登場させることで、アニメーターのモチベーションが上がるのだと言う。

「私もアニメーター出身ですからよく分かるのですが、アニメーターたちに良い仕事をしてもらう一番の方法は、彼らが動かしたいと思うシーンを与えることです。家事と育児に追われるボブはまさにそんなシーンの1つです。彼の表情を観ていると、まるで戦争でも起きているみたいにすごい顔をしているでしょう?」

子育ては未来を作る。それはヒロイックな行為だ


またこの役割逆転のアイデアは、バード監督は10年前から構想していたとのことで、ことさら現代の価値観を意識したわけではないと言う。

「ヘレンは、元々ああいう性格のキャラクターなんです。前作の冒頭、彼女がインタビューを受けて、男だけにヒーローを任せておけない、と言っていたでしょう? ただ彼女は自分で思っていた以上に、子育てすることに長けていて、家族を愛していたんです。
そんな彼女が今回、家庭を離れて仕事に充実感を覚える。これもやはりヘレンというキャラクターを掘り下げるのに有効だと思ったんです」

『インクレディブル・ファミリー』(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
彼女がヒーローとして脚光を浴びている間、ボブは子育てに悪戦苦闘している。しかし、子育てだってヒロイックな行為だとバード監督は言う。

「子育てというのは、未来を作ることだと思います。子どもたちはいつか世の中に出て、世界に影響を与える存在になります。それは良いものであってほしいと、親なら誰だってそう考えると思います。
そういう意味では、子育ては仕事よりも大事なものかもしれません。子どものために何ができるかを考えるのは、自分の成長にもつながるし、私自身、両親のことをヒーローだと思っています。子育てはとてもヒロイックな行為だと思います」

『インクレディブル・ファミリー』(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
バード監督の言葉は、まさに本作全体を俯瞰していると言える。ヒーローとしての活躍と家事や育児を同じ価値で描いているのは、監督のこうした考えが基になっているのだろう。

テクノロジーへの不安から生まれた悪役


本シリーズは、悪役のあり方もユニークだ。前作もテクノロジーによってスーパーヒーローに対抗する悪役が描かれた。
今回は映像を通じて人々を洗脳するスクリーンスレイヴァーという、これまたテクノロジーを駆使するタイプの悪役だが、なぜこうしたタイプの悪役を登場させるのだろうか。

「悪役の設定に関してそういうルールにしているわけではないのですが、私自身の中にある、テクノロジーに対する不安から来ているのかもしれませんね。人類は新しい技術を次々と生み出し、私もそれを楽しんでいるのですが、どうしても悪用されることもありますよね。自分の中のそういう気持ちがこのシリーズの悪役の造形に影響しているかもしれません」

この14年間で、様々なスーパーヒーロー映画が作られたが、本シリーズのヒーローの描き方と悪役のあり方のユニークさはその中でも際立っている。日本でも多くの観客を魅了するだろう。

『インクレディブル・ファミリー』
(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

《杉本穂高》

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]