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その中でも、一般的に高難易度とされるロボットスーツや剣、盾、鎧などの製作で、一際高いクオリティーの造形物を生み出す“造形レイヤー”と呼ばれる人たちがいます。自らコスプレをするに留まらず、コスプレイヤーに向けた造形教室を開催することもある、一種の特別な存在です。
コスプレ業界全体のレベルの底上げをしている造形レイヤーを知るため、コスプレ衣装造形の材料などを販売するコスプレファクトリーの専属アドバイザーや造形教室講師を務めるコスプレイヤーの空我(@Qooga_13)さんとらぷらす(@laplace0920)さんの2人に話を聞きました。
造形はハードルが高いわけではない

ーーまず知りたいのが、コスプレ衣装は手作りが推奨されているのかどうか。
空我
正直、人それぞれですね。製作時間がない人であれば買えば良いと思います。ただし、販売している衣装はそこそこのクオリティーなら比較的安く買えますが、クオリティーが高い物だと値段が跳ね上がることがあります。
自分たちの場合は、造りたい衣装がロボットスーツなので売っていても数万円ではすまない。それなら造ったほうが安上がりになります。なので、予算と時間のバランスを考えた時の各自の判断じゃないでしょうか。
ーー造形物は難易度が高いため手を出しにくい気がしますが。
らぷらす
まずはやってみる、動いてみることです。「何からやったら良いですか?」と言う人はまだ入り口に立っていないんですよ。
実際にやってみて壁に当たって、「こういう問題があったんですけど、どうすればいいですか?」には僕らも答えられる。
けれど、どんなに造形が上手な方でも「0から教えてください」と言われたら難しいと思います。
空我
僕が始めた時も材料の知識が無かったので、捨てられた段ボールや発砲スチロールをもらって造ったんですね。
それを他のコスプレイヤーさんに見せたら、「それだったら、こういう素材が良いよ」と教えてもらいながら試行錯誤を繰り返した結果、現在はコスプレボードのようなウレタンを使ってロボットを造れるところまで辿り着けたんです。
ーーコスプレの剣や盾、鎧、ロボットなどはどのような素材で造っているんですか?
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空我
自分達はコスプレファクトリーのものをよく使いますね。ウレタンや発泡ポリプロピレン(EPP)などの素材から、Gボンド、塗装前の下地に造形ベース、塗装後の光沢を出すのに造形トップなどでしょうか。
それ以外だとホームセンターや100円ショップで購入します。100円ショップはかなり材料が豊富なので利用しているコスプレイヤーは多いと思います。
衣装を造る際は布を買うので、okadayaやTOMATOによく行きますし、通販ならやコスプレ衣装向けの布を扱うキャラヌノをよく利用します。
らぷらす
道具に関してはハサミやカッター、両面テープ、あと若干の工作道具くらい。一般の方に馴染みが薄いとしたらカッターの刃ですかね。
多くは銀色の刃を使っていると思うんですけど、僕らは黒刃というものを使っています。切れ味が良いのでウレタンを切るのに適しているんですよ。
僕なんか未だに小学校の裁縫セットを使っているんで、道具は自分の使い慣れた物で大丈夫です。
この道具を使わないと造れない物が出てきたら、都度、買い足せばいい。まずは自分の身の回りにあるもので始めるのが大事だと思います。
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塗装スプレーの匂いが一番大変だったのは過去の話
ーー造形では塗装でスプレーをよく使うと聞くのですが?
らぷらす
スプレーは絶対ではないです。造形製作は塗装と合皮貼りという大きく2つに分かれたやり方があるんですけど、合皮貼りは布をウレタンボードに貼り込む、塗装は下地処理をして上から塗るやり方です。僕は塗装ではスプレーじゃなくて水性ペンキをよく使います。スプレーだと臭うし飛び散るので家でも作業場所を選びますが、ペンキだと場所を選ばないんです。あとペンキなので絵の具みたいに混ぜることで色も作れます。臭いの元である有機溶剤も入っていないので臭いません。
空我
もちろん、スプレーによっては特殊なメッキ加工みたいに見えるものなどもあるので、多少は使いますが、自分もスプレー自体の頻度は多くないです。
ーー意外と少ないんですね。臭いが本当に大変だと聞いていたので驚きです。
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らぷらす
実家とかで製作すると臭いで家族が困るという方が多いと思うんで、そういうのを考えたら水性ペンキですね。実際に入っている塗料の量を考えたらスプレーよりも安上がりだと思いますし。
結局、臭いはスプレーと合皮貼りに使うGボンドに関わってくることなんです。有機溶剤を大量に使うから臭いが強く出る。
なので、合皮貼りでもウレタンの一面にGボンドを大量に使うので、臭いが気になると思います。
僕は水性ペンキを使った塗装仕上げでGボンドも接続部分にしか使わないので臭いが抑えられています。
また、そういう意味では造形トップと造形ベースが出たおかげで、塗装でもひび割れが抑えられて合皮くらいの強度が出せるようになりました。
空我
ただし、あまり光沢を出したくない箇所や、ぐねぐね曲がるなど負荷がかかる関節部の場合では、強度のある合皮がおすすめです。
逆に自分は合皮貼りをよくやるんですが、最近はGボンドをあまり使っていなくて、コスプレファクトリーが販売している建材用の強い粘着性の両面テープを重用しているので、臭いがかなり軽減されています。
らぷらす
さらに言うと、最近は合皮+塗装が流行っていて、白でも黒でも良いので塗りたい色に近い素材の安い合皮を選んで貼って塗るというやり方です。
合皮も色んな種類があって、値段もまちまちです。1メートル3000円からのものもあれば、1メートル300円のものまでもあるので、欲しい色を探す時間と費用を抑えるためにおすすめのやり方ですね。
空我
技術の発達で次々と問題が解決しているので、「臭いがきつい」「お金がかかる」など、これまでのようなネガティブなイメージは当てはまらなくなってきました。そう言った意味でも気軽に造形を始めやすくなっていると思います。