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「今までが日本アニメにとってのボーナスタイム」識者が語る中国アニメ市場のリアルは?

中国アニメ市場のリアルを、中国オタク事情に精通している百元籠羊氏にインタビュー。実際のところは中国のアニメ愛好家にとって日本のアニメはどういう位置づけなのかを訊いた。

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■『FGO』『アズールレーン』に見られる中国での規制厳しさと中華系ネタのリスク


――中国ではCGアニメが主流ですが、近年は中国でも『アズールレーン』のよう日本の萌え系イラストを起用したゲームが開発されています。その背景は?

百元
2次元というジャンルが確立されつつあるので、単純にそういった絵柄に慣れ親しんだ一定層が増えたからですね。そういった萌えなり2次元系のイラストに、CGイラストとはまた違ったカッコよさ、中二病的な魅力を感じるオタクも現地では育成されています。
そういったセンスを集めて作られた中国向けなのが『アズールレーン』になりますかね。イラスト単体で見れば、この数年で超速の進歩を遂げていますから、日本に持って来ても全く問題なくなってきていますね。

――中国ではイラストが過激すぎるという理由で、『アズールレーン』や『Fate/Grand Order(以下FGO)』が規制が入ったことで話題になりましたが?

百元
日本のほうがある意味では厳しいように見えるところがありますね。中国は原理原則でいえば日本よりも厳しいのですが、たまに厳しく取り締まることでアピールしているような面があるので、一概に日本よりも厳しいとは言えない。野放しになっている、あるいは放置されてところが日本より広くあります。

中国ではお色気やアダルト描写、ポルノに関しては明確に禁止。子ども向けという枠を考えれば、暴力シーンなど残虐な描写に関しても非常に問題視されます。
ただし、ガイドラインが不明瞭なうえに取り締まりの判断や期間も一定しないので、取り締まりのない期間、あるいは取り締まりのない分野はかなり野放しにされていますね。言ってしまえば、一目でポルノと分かるあからさまなものでなければ放置されることもあります。

少なくとも日本と同じジャンル、同じような年齢層のターゲットとなると、中国のほうが過激になる傾向が強いと僕は感じていますね。取り締まりを受けたら運が悪い、あるいは取り締まりを受けるような空気になったら自粛すれば良い、と考えている向きがありまして。
実際に『アズールレーン』に関しては、同ジャンルの日本の『艦隊これくしょん』より過激になっている傾向が見られますから。日本のように暗黙での自主規制のラインが、中国ではあまり意識されていないような気がします。

そういう意味でも、コンテンツの育て方に関して“焼き畑農業”になりますし、変な炎上の仕方をしてしまうと、中国ではジャンルごと潰されてしまうことがあり得ないわけじゃないので。過去にゲームセンターもそれで一斉になくなってしまうような時期もありましたからね。

――『FGO』では中華系サーヴァントが原因で俗に言う炎上が見られました。中華系ネタは中国では難しいのでしょうか?

百元
FGOに限らず他のコンテンツでも同じような問題は結構ありますね。中華系ネタの活用に関してはネットが広まってしまった分、重箱の隅を突くような見方をする人が増えました。歴史・文化・食事は身近に語れる要素なので粗探しも簡単にできてしまうので、殺伐とした空気や炎上に繋がることがあります。熱心なファンであっても、中国の描写がおかしいと興醒めしてしまう人がいます。

そういった点から、作品に中華系要素は要らないという声が出て来ています。中華系ネタを入れたからと言って中国の視聴者は喜んでくれるとは限らず、むしろ日本の知識や感覚で作った中華系要素の入ったコンテンツは炎上などのリスクが上がってしまいかねない。

中国人スタッフを入れたとしても、その知識が日本に偏り過ぎたり、マニアックに偏り過ぎたりする可能性はあります。
現在の主な視聴者とは年代が違う、あるいはオタクとして積み重ねてきた知識や好みが違うこともあるので、安全かつ現地受けする中華系ネタ導入するのは難しいと思います。

さらに、日本が持つ中国の歴史や文化に対する一般的なイメージと、現在の中国が持つイメージがズレていることも大きいでしょう。
始皇帝にしても、三国志にしても、現地での解釈によるイメージが共有されていますから。これはどっちが悪いというのではなく、ズレから来る違和感あるいは反発が生まれてしまうので、なかなか難しいと思います。

FGOに関しては、中国に気を使っても上手くいかないでしょうし、適度に自由にコンテンツを作っていくのが、現地でも人気の原動力になるんじゃないですかね。炎上のリスクを認識するのは重要ですけど、その結果、下手に遠慮して中国受けするだろうという感覚のものを作品に入れてもあまり良い結果にもならないでしょうから。

なるほど。「日本のアニメは中国で大人気」だといっても、日本と現地では視聴者の見方が違うように、認識のズレは思ったよりも大きいのかもしれません。
それでも人口が13億9千万以上の中国では、隙間と言っても視聴者数が日本とは桁違いなのも事実です。現状、アニメビジネスにおいて、一番のお得意さまである中国に市場を広げ続けるとしたら改めて方向性を考える時期がきたのかもしれません。

百元籠羊

十数年の中国生活をとりあえず終えて帰国。中国に広まった日本のオタク文化や、中国のオタクな若者達に関する情報をブログから発信。また、様々なニュースサイトなどに寄稿をしています。

「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む
http://blog.livedoor.jp/kashikou/
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《乃木章》

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