『蒼天の拳 REGENESIS』キャラの死で紡がれる"伝承"…鹿住朗生監督が語る、本作の根源にあるテーマとは? 2ページ目 | アニメ!アニメ!

『蒼天の拳 REGENESIS』キャラの死で紡がれる"伝承"…鹿住朗生監督が語る、本作の根源にあるテーマとは?

前回のインタビューでも語られた、主人公の死の物語。ではどうやって殺すのか?『蒼天の拳 REGENESIS』は、そんな重大な宿題を抱えて制作をスタートした。

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『蒼天の拳 REGENESIS』キャラの死で紡がれる
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■これまでのエピソードの中に大きな伏線がある



――先ほどTVシリーズ『亜人』のタイトルを聞いて思い出したのですが、『蒼天の拳』は『亜人』と同じでモーション・キャプチャーを取り入れてますよね。

鹿住
ええ。そういう意味では『亜人』に近い作り方になっていると思います。通常のアニメだと絵コンテを描いて進めるのですが、今回はストーリーリール(ラフを映像化したもの)を採用しました。
デジタル上にセット空間を作って、その中でキャラクターがどこから入ってどういう風になるか、カメラの配置も考えながら一回設計して、実際にモーション・キャプチャーで動きを撮ったら、そのデータを取り込んで……という。そのうえでひとつひとつの演出に対して、取捨選択を行っていった感じです。

――今回のアニメ制作の中で、特にこだわった部分はありますか?

鹿住
もちろん色々なベクトルでこだわっていますが、強いて言えばキャラクターの「死に様」です。
すでに放送終了している第6話の流飛燕などもそうです。前回のインタビューでも話がありましたが、原作で描かれたキャラクターそれぞれにある「格」をどうやって守るか、という部分に大きく関わってくるのが「死に様」だと思うんです。
全24話という限られた枠の中で、すべてのエピソードをフォローすることはできなくても、そこだけはしっかりと描けたらと。キャラクターを単なるモブのように出して終わらせることだけはしたくない。原作を読んでいると、やっぱり深く描かないといけないなと思う部分がいっぱいありました。


実はこれまでに描かれたシーンの中で、あるキャラクターに関してすごく大きな伏線を張っています。とりあえず12話まで観ていただくと、なるほど!と思っていただけるようになっています。
Twitterなどの反応を見ても、こちらの狙い通りにミスリードできているので、種明かしされたときの反応が密かな楽しみです(笑)。

――本作はアクションシーンにも注目ですが、必殺技名のカットインがシャキンと入ってて、すごく気持ち良いです。あの演出は今後も入る予定ですか?


鹿住
そうですね。たとえば天斗聖陰拳という新しい拳法を描こうと思ったとき、漫画なら文字で伝えられても、映像では字面が分からないからイメージしづらいというデメリットがあって。だからちゃんと字で見せた方が良いのかなと思って取り入れてます。

■オリジナルエピソードの最初の見どころは「ギャグ」



――今回は霞拳志郎役の山寺宏一さんをはじめ、豪華ベテランキャストが名を連ねていますが、こちらはプレスコ収録(※)で?
(注:声優の声を録音し、これに合わせて作画をしていく手法)

鹿住
いえ、今回はすべてアフレコです。やっぱりみなさん大御所なので(笑)。プレスコも一応考えましたが、大体録った後の編集タイミングで必ず修正が発生してしまうので、今回それは止めようと。
キャストさんにも制作スタッフさんにも今回は完全にパッケージングしたうえでアフレコを行うことをお伝えしました。
そのぶん、音響監督の高寺(たけし)さんには苦労をかけて申し訳ないなと思っています。口元の芝居が全部できた状態での収録なので、「さっきの口パクは有声か無声か」などの確認をその都度チェックしていただくことになりまして(苦笑)。

ただみなさん、さすがのひと言でしたね。
事前に映像を観てイメージを作ったうえで収録に挑んでいただきましたが、スイッチを入れた状態で現場に入っていらっしゃって、完璧に演じてくださいました。エリカ・アレントを演じている上坂(すみれ)さんもベテランの方々が大勢いらっしゃる中で相当なプレッシャーだったと思いますが、すごく頑張ってくださって感謝してます。


――アニメは中盤へと差しかかってきましたが、今後の『蒼天の拳 REGENESIS』の見どころを教えてください。

鹿住
原作のエピソードを概ね回収して、第8話以降はいよいよオリジナルエピソードへと入っていきます。毎話、色々な新キャラクターが登場してきますが、それまでのシリアスな展開から一変して、少し毛色の違う『蒼天の拳』が観られると思います。
これは原先生が原作の中で非常にギャグにこだわっていらしたので、ぜひ入れたいと思っていた部分でした。

第8話まではなかなか入れる余地がなかったのですが、ようやくここでスポットを当てることができまして。原作で「カッパの田 」と呼ばれていた田学芳とそっくりな弟の田楽伝という新キャラクターが登場して、相棒の河馬超とコンビを組んで、物語を色々とかき回してくれます(笑)。


鹿住
他にも公式で発表されているとおり、シメオンヒムカやヒムカシメオン 、緋鶴といった新キャラクターも重要な役割を果たしてくるので、ぜひ注目してください。

■キャラクターの「死に様」に意味を見出す



――そんな中でも、ラストは「拳志郎の死」が待っている。

鹿住
そうですね。アフレコが進むごとに、スタジオの人がだんだんと減っていくっていう……。

――(笑)。別にサバイバルが行われているわけじゃないんですよね。

鹿住
もちろん違いますよ(笑)。人間同士の格と格、信念を持って戦っている男たちの物語が描かれていきます。
『蒼天の拳』はすごく壮大なスケール感がありますが、もうひとつ絶対的なテーマとして「伝承」という、引き継いでいくストーリーがあります。

たとえば今の世界情勢を見たときに、何が正しいかなんて正直分からない。現状の正しさは、5年後に覆されることもあれば、改めて正しさが証明されることもあります。
ただ、そこにもちゃんと伝承はあって、後世につながる要素がある。そんなファクターを大切に描きたいと思ってます。


――北斗神拳という大きなうねりの中で、人間たちがどんな生き様を見せていくのかという。

鹿住
霞拳志郎だってひとつのピースでしかなくて、そのピースがどういう風に次に伝承されるかが、『蒼天の拳』の根っこにある一番重要なテーマだと思うんです。人が死ぬということは、その肉体的に生命を止めただけで、精神的に死んではいなくて、きっと他の誰かが何かを受け継いでいる。それを「死に様」の中で描けたらと思ってます。
それぞれのキャラクターの死に様はちゃんと意味のあるものにしていますので、最後までアニメをご覧いただければ何か感じて頂けるものがあると思います。そして何度も観返して、そのキャラクターから受け継がれたものを見届けていただけたら嬉しいです。

『蒼天の拳 REGENESIS』
©原哲夫・武論尊/NSP 2001,©蒼天の拳 2018
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《小松涼介》

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