「ひるね姫」今度のヒロインは "世界を救わない"!神山健治監督が普通の女子高生を描く理由とは?
神山健治監督の最新作にして初の劇場オリジナルアニメーション『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』が公開となった。劇場作品としては2012年の『009 RE:CYBORG』以来、5年ぶり。
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身近であることは"アイテムの色"からもうかがえる。公開初日の舞台挨拶に登壇した神山監督は、本編に登場する"水色のランドセル"は神山監督の娘がほしがったものだったと明かした。"水色"はサイドカー/ロボットのハーツやぬいぐるみのジョイなど、本編の大事なアイテムにも使われており、神山監督個人だけではなく、作中の登場人物たちの思いが込められた色ともなっている。水色のサイドカーは父・森川モモタローが改造したものだが、娘のココネが追っ手から逃れるための道具ともなる。親子の間でアイテムの行き来やSNSでのやりとりなども頻繁に描かれる。
そう、『ひるね姫』は親と娘の絆の物語でもあるのだ。ココネは物心ついたころから母がおらず、モモタローとふたりで生活してきた。その中でココネは、明るく朗らかでまっすぐな女の子に成長した。家庭というものは、子どもが最初に触れる"世界"だ。その世界をただよう感情に子どもは大きく影響を受ける。ココネがどんな世界で育ったのかは、上に挙げた例をはじめ本編を見ればよく見えてくることだろう。親がどんな世界を用意して子どもを育てたのか――。
上の世代と下の世代、といった「世代間の問題」を描き出し、新しい世代に託す、という目線は神山監督の過去作品から繰り返し出てくるモチーフだ。例えばバイオテロの媒介として2万人の児童が誘拐された事件を描いた『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY』では事件解決後、トグサにこんなセリフを言わせている。「願わくば、成長した彼らが将来個のポテンシャルを上げて、我々が出せなかった答えを見つけ出してくれることを祈るばかりだ」。
『東のエデン劇場版II Paradise Lost』ではクライマックス、滝沢朗に、「アガリを決めこんでいるオッサンたちは、いますぐ必死で貯めこんできたものを捨て、俺たちと一緒に新たな楽園に旅立つ決意をして欲しいのです」と演説させ、歪んだ世代間の問題をシニカルに描き出している。
『ひるね姫』でも、世代間の問題はより狭い問題としてだが描かれる。神山監督が作品に潜ませている"思い"は変わらないようだ。けれどもヒロインの存在が、作品をそれまでと大きく異なる手触りにしているのだ。
これまで"世界"や"社会"を引き合いに出して語られた"未来の世代へ託す思い"が、『ひるね姫』では違った方法で描かれる。それは「どうか頼む」と祈るトグサや「俺たちに譲ってほしい」と滝沢が抱いた"未来への期待"ではなく、身近であたたかな"未来への目線=家族の目線"だ。
親から子へ、子から親へ。未来への期待と不安を抱えた思春期の女子高生から見る親と、その女子高生を育てた親から見る子。ココネの年齢がこれより上でも下でも描き出せない思いの繋がりが、この映画にはくっきりと描かれている。
この映画は巧妙に組み立てられているがゆえに、1度見ただけで100%を理解することは難しいかもしれない。本音を言えば2回は見てもらいたい。2回目以降に見える物語は全く違うものとなるはずだから。
まずは素直にココネのしなやかさをたのしんでもらいたいと思う。イヤミも押しつけもない表情、仕草、動き、声。あらゆる観点から多くの驚きをもたらしてくれるはずだ。
ココネは世界を救わない。だが見た者の心に深く残っていく。そういう意味では神山監督が描いてきたこれまでのヒロインと同じだ。どう救わないのか、どう心に残るのか。それはぜひ劇場で確かめてほしい。
映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』
大ヒット上映中
http://hirunehime.jp
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 ひるね姫製作委員会
《木見守史》
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