[取材・構成:川俣綾加]
『百日紅~Miss HOKUSAI~』
http://sarusuberi-movie.com/index.html
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――ちょっと聞きにくい気持ちもあるのですが、メイキングで原監督がスタジオに出てこなくなった時期がありますよね。半年くらい。
原 恵一監督(以下、原)
ありましたね、ほんとにね(笑)。
――その間こんなことをしていた……など、ありますか?
原
何もしてなかったです(笑)。
――プレッシャーが大きかったのだろうなと想像しているのですが、これまでの作品も高い評価を得ている原監督もそう感じるのだなと……。
原
いつも感じていますよ。ただ今回は、仕事場に行けなくなるということが自分でも初めての経験だったので驚きましたね。自分にとって一番影響力のある作家のひとりである杉浦日向子さんの作品を映像化するということがどんどん重荷になってきて。なぜかというと、原作があまりに好きでその素晴らしさをちゃんと自分が伝えられていないんじゃないかと思うようになってしまったんです。どんどんそういう思考になってしまって、絵コンテが進められなくなってしまいました。
――そこから再びスタジオに向かうようになったきっかけはあるのでしょうか。
原
はっきりしたものは無いんですけどね。自分ができる最善の答えを、自分なりに見つけてやっていくしかないと。そう思ったら、また少しずつ絵コンテが描けるようになりました。
とてもいい仕上がりの画が上がってきたので、作品の手応えも感じられて。その過程で「ああ、間違ったことはしていない。これでいいんだよな」と思えるようになっていったんですよね。
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――2013年の『はじまりのみち』では映画監督・木下惠介を題材に実写映画を、今回は杉浦さんの漫画を映像化して、原監督としては自分のやりたかったことを着実に進めてきていますね?
原
『はじまりのみち』も『百日紅~Miss HOKUSAI~』も、自分にとって影響力のある作家の作品を2本もできたのは幸運なこと。一方でものすごい重荷になっているなとも実感しました。そういう仕事ができるのは幸福であると同時に重いものを背負わないといけない。そういう大変さもありました。
――『百日紅~Miss HOKUSAI~』が劇場公開されて、アヌシー国際アニメーション映画祭やファンタジア国際映画祭、シッチェス・カタロニア国際映画祭で相次いで受賞されていますね。ご自身で手応えは感じられていますか?
原
作った作品を評価していただけて、素直に嬉しいです。ただ、あくまでも作った作品ですからね。過去形になっているわけです。それで調子に乗って自分を誤解してしまわないようにしたいといつも思っています。人間っていうのは俗物ですから(笑)、そういった賞をいただくと調子に乗っちゃう部分もあるんですよね。今回、賞を受賞したからといって次の作品が評価されるとは限らないと、自分で気を引き締めるようにしています。
――今後の方向性について考えていることはありますか?
原
次もアニメーションになると思うんですが、現時点で語れることは何もないです。ただシリアスな作品が続いたので、「何でも作っていいよ」と言われたらギャグがやりたいですね。『クレヨンしんちゃん』を作っていた頃は「今も楽しいけれど他のジャンルにも挑戦してみたいな」と思っていましたが、今は『クレヨンしんちゃん』が懐かしくてしょうがない。人間って本当に勝手なものですね(笑)。
――今日は、ありがとうございました!
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『百日紅~Miss HOKUSAI~』
Blu-ray&DVD 2015年11月26日発売
Blu-ray 特装限定版: 7,800円(税抜)
Blu-ray: 4,800円(税抜)
DVD: 3,800円(税抜)
発売・販売元: バンダイビジュアル
※レンタル専用DVD同時リリース