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スーパー歌舞伎II 「ワンピース」江戸時代と現代の手法の融合で世界観が広がる

高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義 :大きな話題を呼んだ『ONE PIECE』のスーパー歌舞伎化を取り上げた。

連載 高浩美のアニメ×ステージ/ミュージカル談義
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スーパー歌舞伎II 「ワンピース」江戸時代と現代の手法の融合で世界観が広がる
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■ 原作のコミカルさとパッション、ハチャメチャさ、本水、宙乗り、早替り、映像、炎、もうなんでもあり!

今回舞台化するのは”頂上決戦”の部分。大秘宝ワンピースを探す大いなる航海の次なるステップは新世界への入り口となるシャボンディ諸島での海軍との対決。なんとこの戦いで麦わらの一味は散り散りになってしまう。一人になったルフィは兄エースの処刑宣告の知らせを聞き、救出に向かう。侵入不能の海底監獄を突破するルフィだが、時すでに遅し、エースは海軍本部に移送されてしまった後だった。ついにその海軍本部を舞台に、エースを救おうとする海賊団やルフィと海軍との間で壮絶な決戦が繰り広げられることとなる……。

まずは1幕、モノローグから始まる(声は中村勘九郎)。シルエットで物語をざっくりとわかるように”解説”するのだが、ここはテンポよく進む。『ONE PIECE』を知らない観客でも、だいたいのことはわかるし、原作を読んでいれば、コミックの雰囲気もフィードバック出来る。
そして、奴隷市場のシーンから始まる。むぎわら一味が勢揃いシーンに至るまではテンポ良く展開、一味がバラバラになってしまうところはシルエットを効果的に使って表現する。照明やプロジェクションマッピング、そして”マンパワー”な見せ方等どれかに固執する訳ではなく、柔軟に使いこなす。この発想が”スーパー歌舞伎”らしさだ。女性だけの島にたどり着くルフィ。入浴シーンももちろん果敢に挑戦。ルフィの手が伸びるところはどう表現するのか、ここは”マンパワー”、アンサンブルの働きなくしては手は伸びないのである(歌舞伎の表現)。
エースとの関係を熱く語るルフィ、2人の絆を感じるシーン。衣装は当然、歌舞伎チック、観てるうちに頭の中で”原作脳内変換”されてくる。ルフィの衣装も歌舞伎なだけに派手!歌舞伎独特のメイクも全く違和感はない。もう完璧な『ONE PIECE』の世界だ。1幕で”つかみはOK”であろう。

2幕は監獄のシーンから。見どころは、なんといってもニューカマーランドのシーン、オカマたちのダンス、もうノリノリだ。そこから、なんと本水を使った立ち回り、ここは歌舞伎ならではの迫力のあるシーン、皆、ずぶ濡れの大奮闘、そして幕切れはスーパー歌舞伎ならではの宙乗りなのだが、サーフボードに乗って、だ。ルフィが巨大クジラ(巨大な風船)と共に劇場を”舞う”、ここでゆずの楽曲『TETOTE』が流れるのだが、オカマたちは客席でヤンヤ、もう参加するしかない、といった超盛り上がりシーン。ルフィ演じる猿之助も”空”にいながら歌う、劇場いっぱいに広がる虹、雲、海、もうファンタスティック、歌舞伎を超えた、スーパーなシーンだ。観劇に行くなら、ここは合唱して楽しまないと”損”である。

3幕は海軍本部マリンフォードのシーンから、いよいよ白ひげ登場、これが、もう”白ひげ”にしか見えないのだが、弁慶のような空気感。”これは歌舞伎なんだ”ということを感じさせてくれる。
演じるは市川右近、スーパー歌舞伎ではいつもメインキャラクターを演じている”重鎮”である。流石の貫禄、佇まい。スクアードに刺されるところや最期に大勢の敵に刺されるシーン、ここは完全に”歌舞伎”であるが、原作と歌舞伎手法の相性の良さを再認識させられるシーンだ。

そして場面は変わって海軍本部・天守閣のシーン。ルフィがエースを助けるために現れるのだが、ここでも手が伸びる。ここの手法は1幕とは異なる方法だが、やはり”アナログ”だ。青雉の吹雪攻撃、これが圧巻で紙吹雪が乱れ飛ぶ中をフライングで宙を舞う。紙吹雪の量が凄まじく、もはやブリザード、フライングしている姿が見えない!自由になったエースとルフィのアクション、エース演じる福士誠治はいわゆる”アクション”、サイドキックも綺麗にキマる。イリュージョン(炎が!)もあって見応えのあるシーンが展開される。
対する猿之助演じるルフィは完璧な歌舞伎の立ち回りで、これが不思議とコンビネーションが合っていて違和感もない。そんな2人が花道で”見得”。江戸時代の手法と現代の手法の融合、これぞスーパー歌舞伎の真骨頂の場面と言えよう。そしていよいよ頂上決戦のクライマックス、白ひげとエースの最期、白ひげは圧巻、そしてエースのシーンは号泣、この”お約束”感、歌舞伎も”お約束”満載なので、こういった演出、横内謙介のテクニックが光る。

エースの最期の言葉「ありがとう」、原作を知らなくても泣けること、うけあいだ。ラストは清々しいエンディング、再び、むぎわらの一味に会えたルフィ、「海賊王に、俺はなる!」と誓う。この後ももちろん、物語は続くのだが、舞台はここで終わり。続編はあるのか?、あると思いたい感覚になる出来映えであった。

原作のコミカルさとパッション、ハチャメチャさ、そして友情、絆、といったテーマは明快。熱く、心動かされる名台詞がこれでもか!というくらいにポンポンと飛び出す。そこが原作の良さであるが、そのテイストを歌舞伎の手法と現代的な手法、イリュージョン等に乗せて観客に魅せる。”ツボ”をきっちりおさえている脚本、ここは横内謙介の手腕によるところが大きい。
また、ダンスシーン、ヒップホップ系のダンスもあって、これがなんとも楽しい。あの、歌舞伎の格好で、不思議とマッチするのは新しい発見だ。猿之助の早替り、ここも”お約束”。全てのキャラクターに見せ場がある。また、効果音、歌舞伎独特のツケはもちろん、”イマ風”な効果音(バシッ!とか)も上手く混在させている。休憩も含めて3幕、約5時間、飽きないどころか、もう舞台に釘づけだ。
市川家、2代目市川猿之助(初代市川猿翁)は舞踊にバレエを取り入れたり、新作を上演したりと革新的な人物で知られている。その孫がスーパー歌舞伎を創造した3代目、4代目市川猿之助は、そういったDNAを受け継いでいる。スーパー歌舞伎×MANGA、次回作、プレッシャーは大きいと思うが、さらにあっと驚く舞台をクリエイトして欲しい。
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《高浩美》

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